廻天百眼「殺しの神戯」観劇


 思い付いた事、気になった事を書いていくよ。今回も長いね。

○ 印象
 今回はエンタメ度の高い作品だったと思う。
 自分的にはストーリーも分かりやすく、話の流れをざっくり見ると「霊能バトルから主人公が地獄に落ち、何や感やで現世に戻ったら世界が混沌と変質していた」とベタとも言えるオーソドックスさ。ところが観ている最中はベタともオーソドックスとも感じなかった。これは多分脚本・演出の妙だろうな。
 観客に与える情報と敢えて語らぬ情報のバランスが絶妙だったから素直に作品にのめり込めた。この匙加減を間違えると途端に作品が辛どくなる。全てを語られれば冗長で興醒めだし情報が少な過ぎると何だか意味が解らない。この辺りの取捨選択のバランスは流石だと思う。凄いぞ、石井飛鳥。

○ 地獄の宴
 地獄でのお座敷遊びは本当に楽しそうだった。
 以前から思っていたが、矢張り「饗宴」と言う奴は地獄に近いほど泥沼の様に楽しい。心のタガが外れて脳味噌がッパーンってなるんだよね。飲んで喰らって騒いで狂え。嗚呼楽しや楽し、ここが地獄の一丁目。っと来らぁな。
 自分があの宴に参加できないのが本当に残念だった。
 ちなみに客入れの時演者さんが、サロメが地獄に落ちた時と同じ様に「ようこそー!」って連呼して迎え入れてくれてたんだけど、アレはつまり劇場に入った瞬間に観客が地獄に迷い込んだって事でファイナルアンサー?

○ 霊能バトル
 霊能者の殺し屋が其々の能力で戦うのだが、仏教、神道、陰陽道、口寄せにエクソシストまで大盤振る舞い。オカルトの豚汁状態。
 自分はオカルトについてはかなり具体的な認識があって、それをここで語ると大分カロリー高目な粘っこい話しになるので割愛するが、興味のある人は会った時にでも話を振ってみて下さい。
 ただの戦闘シーンなら格好良さと爽快感が有れば良いが、霊能バトルなら更にロマンが必要だ。次から次へと多種多様な能力者が登場する事でかつての「中学生の魂」を揺さぶり起こされる。うん、皆んなも子供の頃に呪文とか覚えたクチでしょ?
 さらにその能力者が皆二つ名持ちと来ている。流石に解ってらっしゃる。「二つ名持ちの能力者」とか「明太子の乗った白米」みたいなモンだで、そんなん飯が進んでしゃーないわ。

○ 終わり方について
 今回は終幕後のアンコールが無かった。作品の雰囲気を活かすためと言うのは理解出来るが、正直な所は観客としてはやはり少々残念だった。しかし自分は是非で言えば是。演出の意図とは違う理由で肯定派だ。
 物語冒頭の"日の本最大の霊魂の障り"の台詞であの三人の誰かだろうなと思ったが、やはり平将門の関係者でした。
 将門は本当に怖い。出演者はちゃんと御参りとかしたのかなと余計な心配をした程だ。将門に敬意を払うという意味で是としたい。
 更に言えば最後に柏手で締めると言うのも筋が通っている。柏手は神を呼び出す行為であり、邪気払いの意味合いもある。だから凶事では柏手を打っても故人の霊を払わないよう音を鳴らさない。
 最後に全員揃って頭を下げたあのシーンでは舞台上にいるのはまだ演者ではなく登場人物だ。最後に柏手を打ち将門の霊を払い、同時に死人が殆どの登場人物たちが払われて引っ込む。とても綺麗な終わり方だと思う。それだけに最後の最後に桔梗がこちらを向き手招きしたのにはゾッとした。

○ 混沌現世
 何や感やで現世に戻ったサロメだけど、この時のサロメって死人だよね?生き返りじゃなく黄泉がえりでOK?
 ミサキも「黄泉比良坂の扉が開いた」って言ってたし、何よりサロメ、地獄でお酒飲んじゃってるしね。ちなみにサロメは度々柏手を打っていたけど、柏手には「黄泉戸喫を避ける為」って説があるんだよね。残念ながら効果は無かったみたいだけど。
 結局、黄泉比良坂の扉は桔梗の胎にあって、だからこそ将門も桔梗の胎から黄泉がえった訳だ。

○ 桔梗生首問題
 フォロワーさんの感想で「銀盆に乗った桔梗の首は生首なのか?お盆の下のワシャワシャは何?」と言う問いがあったので乗っかってみる。
 自分的にはアレは生首だと思う。何しろ今回の主人公はサロメだ。サロメと言えば銀盆に乗った生首がマストアイテム。さらに桔梗は京都から東京まで生首だけで飛んで見せたあの将門の関係者。ならば生首で浮かんでみせる位はお手の物だろう。
 銀盆の下のワシャワシャ。ニニギを捕まえ地獄から戻ったサロメにも纏わりついていたアレは障気の類だと思う。何しろ出所が黄泉比良坂と繋がっている桔梗の胎だ。身体があった場所に渦巻いていてもおかしくは無いだろう。
 ちなみにその瘴気の中から剣が出て来たのは何だろうね?八岐大蛇的なアレか?でもその後に現世が桔梗の行動に影響された世界に変質した事を考えると、むしろ「世界を革命する力を!」の方か。

○ 演者さんとか登場人物とか
 今回思ったのは「厚みが増した」だった。
 他にも多くの人が書いてるけど、今回ニニギの傀儡サクヤを見事に演じ切った餅月わらびさん。その堂々とした演技とは裏腹に今回が初舞台と聞いて随分と驚いた。それまでのずっと感情を抑えた演技から、最後の最後にヤキモチを焼いて拗ねる様は可愛すぎる。これで初舞台か。どエライ新人が現れたな。2018年黒船襲来。
 そしてシャステル役の鈴木彰紀さん。流石はダンサー。踊りのシーンでは他に何人居ても自然と目が行ってしまう。それをキレと呼ぶのか表現力と呼ぶのか分からないけど、確実に踊りのシーンの厚みが増している。
 殺陣の厚み、ベート役の伊勢参。二刀のククリを自在に操る手練れ感。寄らば斬ると言わんばかりのクールな有様には剣気が見える様だった。それにしてもこのジェボーダンの獣コンビの男の色気はヤバイ。正直心の子宮にキュンキュン来ちゃう。濡れる。
 さらに歌の厚み、料亭の女店主キタマクラを演じるは歌姫なにわえわみ。西邑卓哲さんの迫力ある生ドラムに負けない声量と歌唱力はやっぱり欠かせないよね。それにしてもわみさんは抑えたトーンで語らせるとこの世ならぬ迫力があるよね。爺さんの話の件、「と言うお話があったのよ」調で語ってるのにまるでキタマクラが爺さんの魂を捉えていたような印象を受けた。
 相変わらずの怪演、B級監督を演じた山本恵太郎さん。この方の「あっ、これ本物の人や!」感は観ていて気持ち良い程でニヤリッとしてしてしまう。この方の演じる「精神的な不安定さが挙動不審に繋がっている人物」は本当に個人的にツボ。
 地下偶像の蘭を演じきった左右田歌鈴ちゃんは本気でアイドルだった。僕ぁネ、本当に歌鈴ちゃんの事が大好きなんですよ。凛として厳かな佇まいからノリノリの地下偶像まで熟し経験を全て自分の糧にしてる。蘭にも歌鈴ちゃんにもお布施したい。そして帰依したい。多分こういう気持ちが高じると最終的に赤羽根みたいにマネージャーとかになって尽くしたいって思うんだろうな。それで、写真集はどこで予約すればいいのかな?後、MVもお願いします。
 で、その一切信用出来ない笑顔がチャームポイントの赤羽根を演じたは鋤柄拓也さん。六道MIXとファン時代に鍛えたオタ芸で蘭のライブをテンション高く盛り上げる。あの瞬間あの空間は本当にライブ会場だった。実際赤羽根が居なければあそこまで観客と演者さんの一体感は生まれなかったと思う。あの場の空気を作っていた第一功労者。
 その赤羽根と一緒にライブを盛り上げる料亭の働き者、ミチアケ役の安曇真実ことどんちゃん。ん?どんちゃんこと安曇真実か?インフルエンザの為途中参戦だったけど、その分を取り戻すかの様な熱演を見せてくれた。千穐楽ではまさに全てを出し切るかの様な迫真の演技で、この一年で本当に役者さんになっていた。
 料亭のもう一人の働き者、ヨバリを演じるドドメリナ。これ思い返して気が付いたんだけど、台詞はそれほど多くは無い筈なのに随分印象に残っている。決して前に出て来る訳では無いのに存在感がある。それも常に目を惹く様な分かりやすい存在感では無く思い返した時に気が付く存在感。登場していないシーンにも出てた様に錯覚する。えー?何これ?これってちょっと凄い事なんじゃない?ドドメの不思議なダンジョンだ。
 ジェボーダンの獣が男の色気担当なら、女性のお色気担当、辻真理乃さん演じるストリッパーのニコ。ニコはその姿態を惜し気もなく披露し男の欲情を誘っている。そしてまんまと誘われたのが俺な訳だが。勿論自分ももう良い年なのでどれ程綺麗でもただ女性の裸を観ただけで欲情する程ウブくはない。前回の乱歩の時もそうだけど、この人はホントに妖艶。以前に知り合ったストリッパーの方が「男の性欲を掻きたてるのは技術」って言ってたのを思い出した。
 そして百眼の舞台では「一作品に一ボケ」がお約束となりつつある柚木成美演じるコンスタンツェ。今回も姉妹ゲンカから号泣、リストカットと情緒不安定なご様子。それが逆に安定の持ち味活かしてる感に。しかしよく見れば体作りからしっかりと、そして地道に努力していたのがちゃんと見て取れる。多分、色々迷いながらも目標に向かって一歩一歩進んでいける人なんだと思う。内緒だけど実は密かに尊敬してたりする。
 そのお色気姉妹に振り回されている弟、リボン投げの邑上笙太朗さん。この異能を最初に知った時は流石に正気を疑ったわ。リボン投げて。今の若い子とか「リボン投げ」って言われてピンと来るの?しかしポジション的にもキャラクター的にも良い役所だよね。言動がいちいち可愛いんだよ。愛され虐げられキャラと言うか。投げたリボンを回収する動きも高速なアライグマみたいだし。
 こもだまりさん演じるミサキ。そのポジションの為全体を俯瞰している立ち位置で、随所随所で登場するけど彼女自身については余白が多いから色々と想像させられる。自分の中ではこもださんって、老舗のお店みたいなイメージの人なんだよね。「地元に愛されて○○年。安心と信頼の××屋」みたいな。やっぱりね、こもださんがいると安心感があるんですよ。素敵な大人の女性の安心感。こう言う積み重ねた物からしか生まれない魅力を持っている人って得難い存在だと思う。

いやー、書いても書いても終わらないな。

 殺し屋ランキング1位、天下りのニニギを演じた桜井咲黒。ざっくんは今回も割と酷い目に合っている安定の不遇率。飄々として掴み所がないこの手のキャラクターはざっくん、本当に上手いよね。でも桔梗に対してごっついライフル使ってたのは流石に何でもあり過ぎだろうと思ったよ。後マウントとってボコり倒してたけど、霊能力ってか物理じゃん!ともね。でもよく考えるとライフル使う位に距離が離れてる相手を殴ってる訳だから、アレは依り代使った陰陽系の術だったのかと後で思い至った。
 紅日毬子演じる桔梗はまさに自分がイメージしている「紅日毬子の真骨頂」だった。紅日毬子は間違いなくその内に魔力を持っている。その魔力がそのまま桔梗に宿り観客に感染する。なんかもう「紅日毬子」と言う名前自体が真言なんじゃ無いかと思えてくる。"日の本最大の霊魂の障り"桔梗の怖さは紅日毬子と言う女優の持つ魔力の怖さだ。
 最後に今回の主人公、歩き巫女のサロメを演じた十三月紅夜さん。今回のサロメは状況に翻弄されていた。そもそもサロメは殺しを是としている訳では無い様に見える。育てられた恩義によって神紙省に従っているのではないだろうか。桔梗が母親を欲した時ミサキの名を挙げたのはサロメがミサキを母の様に思っていたからかもしれない。と、思ってしまうのは紅夜さんの演技に迷いとか憂とかそう言う情緒がちゃんと表現されているからじゃないだろうか。紅夜さんはこう言う葛藤を抱えた悩ましい役が似合うよね。

○最後に
 こんな取り留めない文章を読み切る人もちょっとどうかしていると思うけど、最後までお付き合い下さり有難う御座いました。
 書き忘れてたけど、西邑さんの牛の育成って、何?

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