旅する「作文の学校」。徳島県上勝町で初めて”合宿型”開催をしたら、新たな可能性が見えてきた。
greenz.jp副編集長のスズキコウタです。今日は、僕のグリーンズでのライフプロジェクトといえる「作文の学校」について少し話したい気分です。
「作文の学校」を始めたのは、2016年。いわゆるライター・編集者養成だけでなく、自分の所属する会社のビジョンや、マイプロジェクトでつくりたい未来を、自身の言葉で表現して発信できる人を増やしたい。同時に、自分が書きたいことを多面的に観察できる人も増やしたい。そんな願望から設計して運営してきたスクールプログラムです。(ちなみに現在は、来年1月始動の東京でのゼミクラスの申し込み受付中!)
これまで東京でのゼミクラスを中心に展開してきたのですが、仙台、山梨、大阪、愛媛など地方でも出張開催してきました。そんななか先日行ってきたのは、徳島県上勝町。「おや?」と思う、greenz.jpの読者の方はいらっしゃるかもしれませんね。ゼロ・ウェイストや葉っぱビジネスで有名な、あのまちです。過去には、平川友紀さんが素敵なレポート記事を書いてくれています。
僕を上勝町に呼んでくれたのは、現地のキーマンと言える存在である「一般社団法人ソシオデザイン」大西正泰さん。しかし、彼と「作文の学校を、上勝町でやりましょう!」と話を決めたときに、それまでと違うアプローチにすることにしたのです。というのは、それまでの地方開催でのプログラムは、東京で行っている内容をそのまま持っていくスタイルで展開していました。しかし、大西さんが「作文の学校」を上勝町で開きたいと言ってくれた背景には、単に執筆・編集技術を持ち込むだけでなく、現地に住む人々・訪れる人々がどのようにまちを観察し、それを記事としてアウトプットするところまでできないか、という考えがあったのです。
左が大西さん
それを聞いたとき、僕は、これは面白いし、「作文の学校」の可能性を拡張するオーダーをくれたことに感謝しました。いつも「作文の学校」の執筆ワークショップのトピックにするのは、受講生が事前に記入してきたワークシートの内容です。だから、それを東京という日本の中心でやるのはアリとしても、せっかく地方に僕が講師として出張していくのに、現地のまちづくりやサステナビリティの取り組みをトピックにできないのは、もったいないことだ…と。
そして県外から上勝町に行きたい人がいる。「東京にはいけないけど、徳島県なら」と、「作文の学校」に行きたい人もいる。それを想定して、みんなで同じ宿に泊まり、同じ釜のご飯を食べ、一緒に街内の視察や観光に出かける。その中に、僕の授業が2コマ(それぞれ2時間強のボリューム)がある。そんな1泊2日の合宿型の「作文の学校」の行程を大西さんと組みました。
今回の参加者は、徳島県内はもちろん、鹿児島や京都、東京から参加も! 今回は初日の天候に恵まれなかったので、急遽のプラン変更も発生しましたが、だいたいこんな感じでスムーズに進みました。
<初日>
午前:飛行機やバスで徳島市内に到着。上勝町へ移動。
正午:上勝町の「一休ランチ(ローカル野菜中心の定食)」を堪能
14時〜16時:上勝町のゼロ・ウェイストの取り組み、葉っぱビジネスの取り組みを視察し、インタビュー取材をする。
16時〜19時:スズキコウタの授業+ワークショップ(書くとは? いい記事とは? いい記事を書くための情報整理手法とは?)
19時:宿で豪華な夕食。こちらもローカルフード満載。
20時以降:温泉でゆっくり。部屋で飲み会。翌日のワークショップに向けた宿題に取り組む。
<二日目>
午前:朝食の後、絶景と苔が眺める「山犬嶽」でハイキング。
11時〜13時:スズキコウタの授業+ワークショップ(情報整理の実践、グループで作文実践)
14時:美味しいローカルフードのランチ
15時:解散
「一休ランチ」
ゼロ・ウェイストの拠点「ごみステーション」
山犬嶽の苔
すっかり観光気分になってしまった僕は、「ああ美味しいものを食べれて観光できて、受講生の満足度も高くて、幸せな仕事だなあ」なんて思って帰京したのですが、じっくりこの2日間の収穫を振り返ると、実に大きな意味がある取り組みができたなと感じました。
(1)合宿だからこそ、受講生が高いクリエイティビティを発揮できる
というのは、合宿という受講生同士、受講生と講師の接触が多いスタイルで、”作文”というクリエイティブな領域に挑戦すると、チームワークが思いっきり発揮され、最終グループワークでアウトプットされる作文の内容が高いレベルまで行ける。「作文の学校」は、実際に作文する時間は40〜50分程度と短めなのですが、その限られた時間で何をどう進めたら、読み物として成立させられるか。一丸となって取り組みやすくなっていました。
作文前の事前情報整理〜ブレストの様子
(2)自分の住むまちを客観的に観察し直して、アウトプットする機会が生まれる。
初日に僕は情報整理手法を伝授しました。これは自分の手持ちの情報を眺めてみて、足りない情報があったら調べたり取材しようということはもちろんなのですが、同時にその”書きたい”ことをどのように観察するか。自分はどう思うか。そして書くことで、受け取り手にどうなってほしいか。そんな自己内コミュニケーションもすすめます。すると、「あ、僕はこんなまちの側面が好きだったんだ!」という発見や、「あ、こんな一面が読者にとっては良い学びになるのか!」という気づきに至る。そんなアウトプットを通して、ローカル愛が増幅していくのだと思います。
(3)県外から参加した受講生にとっては、単なる観光ツアーで終わらない。
今回は県外からの参加者が多かったですが、彼らにとって上勝町をみんなで視察取材した。いい話、いい風景、いい食事に出会えた。そこまでだと、観光で終わっちゃうんですよね。そこに「作文の学校」が入ってくることで、具体的に自分が見て聞いて体験したことを、文章によって保存できます。そして、「作文の学校」には事後サポートで、提出いただいた原稿をプロの目で校正するサービスも含まれているので、納得するまで自分の文章を追求できるようにしています。
みんなで気になることは、その場でどんどん質問! その共通する体験を作文していったので、円滑にすすみました。
(4)クライアントは、まち・取り組みをプロモートするだけでなく、書いてくれる仲間も生まれるので、単なる視察ツアーよりもベネフィットが大きい。
嬉しいことに、NPO法人グリーンズでは日本各地の視察をクライアントと企画する幸運に恵まれています。(いつもありがとうございます!)そんな視察ツアーを行う際、必ずしもプロのライターさんを同行させて、記事化しているわけではないんですよね。でも、このように視察の中に「作文の学校」を埋め込むことにより、ツアーに参加した全員がレポートライターになってくれ、それぞれの視点でヴィヴィッドな体験録を書いてくれます。彼らが書いたブログ記事を読んで、「なるほど、そう観察してくれたのか‥‥!」という発見がありそうですし、視察ツアーの記録が保存されていく価値はすごく大きいのではないでしょうか。
昨今、ライター養成講座はすごく増えましたし、ライターインレジデンスなど地方開催のプログラムに赴く人も多い様子ですよね。上の4点を見聞きして、「そういうのすでにあるよね」と思われるかもしれません。
そんななかで「作文の学校」は、単に”書く”ことにフォーカスするのではなく、書くためにどんな体験をどのようにするか。そして「書くこと」を見つめ、「自分の見て体験したこと」に向き合う。その結果、どのようなアプローチで読者に読み物で提案すれば、持続可能で明るい未来を感じてもらえるか。そんな視野を受講生には会得してもらいたいし、プログラムの視野も広くあり続けたいと思います。
東京での開催も毎回スリリングで楽しいのですが、社会に対する貢献という点では、地方開催を活発にすることにこそ意義がある感覚も。これから絶対に、もっとサステナビリティやローカリゼーションへの機運は高まります。そうしたときにリードするのは、都市圏じゃなく地方です。そんな地方にみんなで足を運んで、現地の人も巻き込んで、あちこち視察して最後に作文する。そんな取り組みが繰り返されていくと、持続可能な未来への意識が高まるし、面白いローカルがどんどん情報化され、人々に伝搬していく。
ぜひ、なにか興味ある方いたら僕までご連絡ください!