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んがいい

故・松下幸之助さんは面接の最後に次の質問をしたそうです。
「あなたは運のいい人ですか?」

松下さんは関西人なので「あんた、ツイてまっか?」と訊いたと思われます。応募者の学歴は採否に関係なかったとのこと。ご自身は小学校中退で学歴を気にしなかったのかもしれません。

「ツイてまっか?」の質問に対し、「いや、ツイてません。努力だけでやってきました」という人は採用しなかったそうです。逆に、「自分はラッキーつきまくりです。運だけでやってきました」という人を採用しました。

そうして松下電器にはツイている社員が集まり、ツイてるナショナルの商品は売れに売れて日本一の会社になった、という都市伝説です。

ぼくは某大学でキャリアカウンセラーをしており、このエピソードを就職指導の際によく話していました。そうすると、学生から報告が届くようになりました。

学生「面接で例の質問をされました!」
ぼく「例の質問って?」
学生「『あなたは運のいい人ですか?』と訊かれたんです」
ぼく「で、どう答えたの?」
学生「『ウン!』と答えました。それで内定ゲットです!!」

もし面接で「あなたは運がいいですか?」と質問されたときは、握り拳とともに「運!」と答えましょう。きっと、いいことがあります。

ここで残念なお知らせですが、これから就職活動する学生は運がありません。これまでの数年間、就活は売り手市場が続いて複数内定をもらう学生が沢山いましたが、今年は厳しいです。

昔、ぼくが就職したときの状況を思い出します。大学を1993年に卒業し、バブル経済はすでに崩壊していましたが、就職活動はぼくの学年までがギリギリセーフでした。

大阪の大学でした。就職活動で東京にいくと一社3万円の交通費が支給されました。複数社の面接を掛け持ちすると結構な稼ぎになり、就活バイトになりました。内定者の拘束で軽井沢のテニス合宿やグアム旅行にいった同級生もいました。

翌年、大手企業は軒並み新卒採用を凍結して、就職氷河期に突入。バブル就職の浮かれた話しは一切消えました。有効求人率が1を下回った年が13年続き、リーマンショック後の数年は超氷河期といわれる就職困難に陥りました。

就職氷河期に就職した人たちは「ロスジェネ世代」と呼ばれています。昨年政府が「人生再設計第一世代」と名づけたりもしました。

就職が容易か困難かは、本人の能力以上に景気動向による影響を大きく受けます。これから数年は景気が減退し、就職は厳しい状況がしばらく続くことになるでしょう。

これからコロナ氷河期が到来して、採用の黒歴史が繰り返されるのか。なんともいえないところがあります。企業は過去の失敗経験があるからです。

就職氷河期に大企業は新卒採用を絞り、役所は行政改革で職員の採用を抑制しました。そのため人員の年齢構成がいびつとなり、様々な組織課題を抱えています。

現在、伝統的大企業と官公庁は50代と20代30代前半が多く、30代後半40代は少ない年齢構成です。学校の先生も同様で、中堅層の人員が薄いためにリーダーシップや人材育成に難が生じ、組織のパワーが十全に発揮できません。

その反省を踏まえ、同じ轍を踏まずに採用を続けると願いたいところです。ただ、そうもいってられないほど経営状況が厳しくなり、背に腹は変えられない選択になるかもしれません。

ともあれ、学年が一つ違っただけで就職困難に見舞われたのは運がなかったとしか言いようがありません。就職で悩んでいる方には「あなたが悪いわけではない」とお伝えしたいです。

もちろん、運がないのは就職に限りません。3月4月と卒業式や入学式ができなかった学校が多く、今年の卒業生と入学生は運がありませんでした。とくに新入生は自宅待機オンラインのスタートとなり、戸惑っていると思います。

高校野球やインターハイの中止が決まり、部活で今年に賭けていた学生は残念でした。オリンピックを来年に賭けた関係者の運試しも風向きがよくない様子です。

運がよかったかどうかは比較の問題でもあります。去年と比べたら、たしかに運がなかったかもしれない。でも、戦争時と比べたら随分とマシであるともいえます。

地域で比較すれば、いまなお戦争や飢餓で苦しんでいる国が世界にはあります。それを思えば、いまの日本は平和で豊かです。

なにより、新型ウィルスの感染が日本で比較的抑えられているのは運がよかった。

3月の終わり頃「新型ウィルス感染拡大で医療が崩壊し、2週間後の東京はニューヨークになる」と言われ、身震いしたものです。都市封鎖で家から全く出られなくなったり、生産活動の停止で食料不足が起きることを覚悟しました。

日本で緩やかなロックダウンが実行されて、2ヶ月近く経ちます。買い占め騒動が一時的にありましたが、いまスーパーでは食料や日用品が普通に売られています。日常生活が普通にできているのは奇跡に思えたりします。

そして、運がよくても悪くても、ぼくたちはこれからの世の中を生きていかねばなりません。死んで花実が咲くものか。

運に頼れないとき、頼りになるのは「縁」です。親しき人とのご縁によって励まされたり、救われることがあるでしょう。

そうしたご縁は「恩」から生まれます。受けた恩、与えた恩、恩を送ることで人はつながることができます。運がなくても、縁がなくても、恩は忘れずに。

そして、運・縁・恩の前には「愛」があります。All You Need Is Love.

「あい・うん・えん・おん」と共にあらんことを

五十音順のキーワードで毎日更新していたnoteは、「ん」をもって終了いたします。これまでお読みくださった方々、ありがとうございました。

いつもなら子育てと親父ギャグを綴るのですが、今回は出なくてゴメンなさい。
総理大臣に代わって、お詫びします。

アイム・ソーリー


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