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マインクラフトにはまっている(た)

マインクラフトをやっている。
ゲーム仲間の建てたRealmsワールド(簡単に言うと共有の世界)でカボチャを自動で生産する農場を作っている。ひとりで。

ぼくがマインクラフトを買って一週間ほどして建てられたそのワールドには、ぼくのハンドルネームを冠した名前がついていた。
マインクラフト好きのゲーム仲間がぼくをキャリーしつつまたマインクラフトの世界で遊ぼうということで集まったサーバーだった。

ぼくが初めてそのサーバーに入った時にはもうざっくりとした拠点ができており、鉄装備やピッケルなどを融通してもらえた。
いくつかのプレイの選択肢がある中で、ぼくの気に入ったプレイは農業だった。
命の危険を冒して暗い洞窟に潜っていくより、明るい地上でジャガイモや小麦を育てるのが楽しく、ふかしたイモや松明をたくさん作って拠点の宝箱いっぱいに詰めておいて仲間に「たすかる」といわれるのが何よりうれしかった。木材は板材じゃなくて原木で収納するほうがいいと教わってなるほどと思った。

拠点にはニンジンがなかったのでニンジンを探すために何千マスも移動して砂漠や雪山を乗り越えて冒険したこともあった。
雪に足を取られたり、サボテンに触れてダメージを負ったり、そうやってようやく見つけたニンジンを拠点に持ち帰る途中、廃鉱を見つけて欲を出して入ったらモンスターに襲われて死んでしまい、そこまでの努力が無駄になったりもした。
みんなにキャリーしてもらってばっかりだったので、自分もなにかみんなに貢献できるような宝物を持ち帰りたいと思ったのが間違いだった。あまりなれないことはするもんじゃないなあと、新しい鉄装備を作って思い直した。
それからぼくはあまり冒険をしなくなった。結局にんじんはほかのメンバーが見つけてくれたので村にはニンジン畑がつくられた。

アップデートで世界を作り直したこともあった。
一度作った畑や装備がなくなってしまうのは少し悲しかったけど、ダンジョンのような新しい要素にワクワクしているみんなと一緒に遊ぶ方が楽しそうだったので、新しい世界で心機一転頑張ることにした。
トライアルチャンバーに潜っているVtuberの配信を眺めたり、実際にゲーム仲間みんなでトライアルチャンバーに挑戦するのは刺激的で楽しかった。
普段農業ばかりで戦闘経験の浅いぼくはあまり前線の戦闘には参加せず、死なないことを第一優先にして倒せそうなモンスターをやっつけていた。

トライアルチャンバーに挑戦するころにはすっかり新しい拠点も出来上がっていて、交易でダイヤモンド装備やポーションをそろえていたからぼくも何とか生き残ることができた。
トライアルチャンバーに挑戦する段になるまでぼくは交易を知らず、地上で農業をしているだけなので装備も全部鉄だった。ダイヤモンド装備というのがあるという話は聞いていたけど、それを作るまでには何度も地下に潜ってたくさんのダイヤモンドを取ってくる必要があると思っていたからわざわざ作ろうと思っていなかった。

ゲーム仲間が村人との交易というシステムのことや、装備へのエンチャント、ダイヤ装備と鉄装備の明らかな性能差を教えてくれて、ぼくのマインクラフトが社会へとつながった。

この瞬間、ぼくのワールド内での職業はパンを作ってみんなのおなかを満たすための農民から、農作業で収穫したカボチャやジャガイモを農民と交易してたくさんのエメラルドを調達する銀行家へとシフトチェンジすることとなった。
広い広い畑を作って、カボチャやジャガイモ、ニンジン、小麦を栽培して村人と交易をする。そうやって集めたエメラルドを拠点に置いているチェストに収納して、みんなのプール金にする。誰かが何かを欲しいと思ったら、そこからエメラルドを引き出して村人たちからアイテムを購入する。
ぼくはそういった社会における富の生産とストックを一手に担うことになった。

一生懸命に畑を開墾して、作物を植え、そこが育っている間に別のところに植えた木を伐りに行って、伐採した木材をチェストの在庫を見ながらかまどに入れて炭に変えたりする。時にはメンバーの注文に応じてガラスを作ったり、逆にメンバーに頼んでアイテムを調達してきてもらったりする。
作物を収穫したら村人に交易を持ち掛けてエメラルドを手に入れて、みんな共同で使っているチェストにしまう。ちょっぴりだけ自分専用のチェストに隠しておくことも忘れなかった。
そうやっているうちにあっという間にマイクラ世界の日は暮れる。ベッドで眠って翌朝また同じことを繰り返す。無駄な時間なんてなかったし、やりがいのある仕事だった。

エンダードラゴンの討伐に連れて行ってもらった。
なんでもこのゲームのラスボスとして設定されているモンスターがいて、複数の世界を行き来してようやくたどり着ける「エンド」という土地を支配するドラゴンらしい。
エンドを探すためのアイテムであるエンダーパールを空に投げる役(エンダーパールを空に投げるとエンドへの門のある方角を指示してくれる)を仰せつかったけど、みんなよりも操作がへたくそで、目的地を目指す道すがらみんなとはぐれたりもした。

何とかたどり着いたエンドにはエンダーマンがたくさんいて、「エンドにいるからエンダーマンって名前なんだな」と一人納得していた。
エンダードラゴンを倒すためにオーブかなにかを壊さなければならなかったのでそれを手伝っていたら、エンダーマンに囲まれて寄ってたかって叩かれて死んでしまった。
でも、仲間たちがその間にエンダードラゴンを倒してくれたので、ぼくも一応クリアということになった。

それからしばらくして、仲間たちのログイン頻度が減っていった。

麻雀をやったり、アモングアスをやったり、スト6をプレイしているらしいと、ディスコードの通知欄を見て知った。
ぼくもそこに混ざってもよかったけど、マインクラフトで畑を耕した。
戦うのが苦手な性分をしているから、人と戦わずに畑を耕しているだけでいいマインクラフトの居心地がよかった。
それに、みんなが麻雀に飽きてワールドに帰ってきたときに、ぼくのためたいっぱいのエメラルドをみてびっくりしてくれるといいなと思っていた。

みんなは戻ってこなかった。
ワールドを建ててくれたプレイヤーだけがたまにログインして様子を見たりなにか建築をしているようだった。
ぼくは畑を耕していた。

ぼくは彼から回路の存在を教わった。
特殊なアイテムを使うことで農業を自動化できるらしい。

効率が上がるのなら、と早速YouTubeで動画を検索して自動の農場を作った。
レッドストーンは村人との交易で手に入るけど、ネザークオーツはネザーで採掘した方がよさそうだったので頑張って採掘をした。
ピストンやオブザーバー、トロッコの装置一式を作って、動画を見ながら慎重に組み立てた。
畑に起こった産業革命の瞬間を一緒に喜んでくれる人はいなかったけど、設置したチェストにジャガイモが入ってきたときはうれしかった。

ぼくはカボチャの自動生産をすることにした。エメラルド交易でのレートがいいからだ。スイカは収穫した後一度クラフトするのが大変だからいったんカボチャの自動生産をすることにした。うまいことやればスイカも自動でクラフトできるようだったけど、カボチャの方がシンプルな装置で済みそうだった。

カボチャの自動農場はシンプルな装置だったのでたくさん作れた。
作りすぎたのかニンテンドーswitchの挙動が重くなったので、もともとあった畑をつぶした。
何時間もかけて耕して、何十時間も使って、何百何千ものエメラルドを生み出した思い入れのある畑をつぶすのは心苦しかったけど、効率を考えてぼくは畑を草原に戻した。

そうやって畑をつぶした後、ぼくは一日の大半をカボチャが水路を流れてチェストに収納される様子を眺めることに使った。
すべての農作物が自動で生産される上に、広い畑を作ると重くなる可能性がある以上新たに畑を開墾する必要なんてないし、ぼくにアイテムの調達を頼むひとたちはもういない。レッドストーンを集めるために地下に潜ると自動農場が読み込み範囲を出てしまい機能してくれないらしいことが分かった。

エメラルドを得る効率は上がったが、ぼくのマインクラフトでの仕事はオブザーバーとピストンに奪われてしまった。
昔どこかで聞いた効率化の悲劇のお話を思い出した。途上国に井戸か何かを作ったところ、川へ水を汲みに行くのが唯一心の休まる時間だった人たちの憩いの場を奪ってしまったという話。

ぼくにできることといえばどんぶらこと流れるカボチャを眺めることと、畑をつぶした後にできた広い広い土地を歩き回ること、あとは作った施設を増築してさらに効率を上げることくらいだった。

ぼくはカボチャの自動農場を大きくしていった。試しに作った農場の横に、少し改良して拡張性を上げた農場を作って、そこを増築することを一つのライフワークとした。
シンプルにカボチャの数を倍にすれば収穫効率も倍になる。ぼくの農業は地下とネザーに潜ってレッドストーンとネザークオーツを取ってくる作業が主になった。

そうやってコツコツと、農場と呼んでいる建物を大きくしていった。
そして今日、ついに効率が自分のモチベーションを上回る量に達した。
簡単に言うと、交易に出すカボチャの量を収穫量が上回って、カボチャがあまり始めた。
村人は一度交易をすると数日間は交易のレートが下がってしまう仕様になっている。カボチャ6コでエメラルド1コをもらえていたのが、翌日すぐに交易すると9:1を要求され、それでも交易を繰り返すとどんどんこのレートは吊り上がっていき、損をしてしまう。だから一度交易をしたら数日間は交易をお休みするのだが、その間にもカボチャはたまっていく。このペースが、交易のペースを上回るようになってきた。
おそらく最高率で交易し続ければまだ大丈夫なのだが、そこまでモチベーションがないのでカボチャがあまりだしている。

交易のたびに、だれも使うことがないエメラルドが400コほどチェストにたまるようになった。もう数千個のエメラルドがたまっている。
スイカや、ほかの作物の自動化に本格的に乗り出せばもっと得られるようになるだろう。

いろんな魔導書を買って効果ごとに本棚に飾ったり、建築に手を出してみたりしてもいいかもしれない。
それを見せびらかす相手も今となってはもういないが、かっこいい建造物を作ってみたいという気持ちもある。

でもぼくは農民で、農作物を作ることしか知らない。

サーバー主が作ってくれた便利な建造物も、今はまだ何とか持ちこたえているけれど、一度壊れたらぼく一人では修復できないだろう。
そうやっていまとなっては死を待つだけのワールドに、今ぼくは生きている。

今日もカボチャの流れる水路を眺めていた。
一人孤独なワールドになってしまったが、意外といやな気持でもない。
カボチャの水路を眺めていると心が安らぐし、ストーリー上のタスクがないので穏やかな気持ちで作業ができる。たいていのモンスターは倒せるし、間違って死んでしまっても蓄えたエメラルドですぐに装備を作り直せる。
一時期の熱はもうないけど、心地の良い寂しさのようなものがある。
これはこれで悪くない。
マインクラフトというゲームはとても面白いと思う。

でも、今は誰もいないけど、いつかは誰かが来るかもしれない。それは戻ってきたかつての住人か、新しい住人か、それは分からないけど、この日記を読んだ誰かがぼくのカボチャ水路を見に来るような、そんな気がしている。


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