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朝日楼 (朝日のあたる家)

 家に帰っている時の事です。駅から。最寄り駅を出て、家に向かって歩いている時の事です。その日、その時、私はいつも使わない道を使って家に帰っていました。なんでそんな事をしたのでしょうか。特に理由はありません。パイナップルアーミーの漫画の、暗殺されない為にやるべき事講習の中に、そういうのがあったからもしれません。
 よく知らない道、たまに、稀に、ごく稀、かなり前に一回使ったその道のまわりは、久々だからなのか、色々、多少、以前とは様相が変わっていました。例えば、
「確かここには家が建ってたような気がする」
 という所が、更地になっていたり。
「あれ、ここコンビニじゃなかったっけ?」
 という所が、住宅になっていたり。
 なんかそういう感じです。勿論以前、どれくらい前にその道を使ったのか、記憶にもないくらい前の事ですから、定かではありません。
「あら、ここにはアパートが建ってる。いや、これはマンションか?」
 ある更地だった場所にはニ階建ての集合住宅が建っていました。立派な。四角い。瀟洒な。瀟洒の使い方あってる? 瀟洒ってどういう意味? 読み方しょうしゃでいいの? ニ階建てだからアパートだろうか。でも立派なアパートだなあ。マンションかな。立派なマンションだなあ。入口にセキュリティの暗証番号入力するやつがついてるんだ。すげー。マンションかな。アパートかな。ラウンジ。ラウンジっていうのかな。違うかも知れない。でも、入口入った所の集合ポストの所の照明もオレンジで優しげな色味をしている。いいなあ。
 集合住宅の看板を見ると、ルミナスと書いてありました。
「ルミナスなあ」
 素敵ですねえ。とはいえ、私には関係ありません。そこに住んでいるわけでもありませんし、引っ越す、ルミナスに引っ越してくる予定もありませんし。お疲れ様です。素敵なお住まいですね。瀟洒な、つくりで憧れます。さようなら。
 私は帰宅を再開させました。歩みを再開させました。
 ルミナスを通り過ぎると、また見覚えのない集合住宅が建っていました。
「あらあら、いつの間にやら色々と建ってるのねえ」
 その集合住宅も、ルミナスに負けず劣らず立派な集合住宅でした。私にはもはやそれがマンションかアパートかどっちなのか判断できません。ルミナスに比べて少し丸みのある。高さは四階あるのかな。洒脱な。洒脱? 洒脱でいいのかな。洒脱な。しゃだつ? 髙さが四階あるからこれはマンションかな。マンションと言ってもいいのかな。四階もあるアパートはないんじゃないかな どうだろう。知らねえ。入口が大きいな自動ドアが大きいなあ。立派だなあ。素敵ですねえ。いいですねえ。看板を見ると、ホワイトレジデンスと書かれていました。レジデンスはマンションかな。しかしそれにしたって。私はルミナスに戻りました。ルミナスだよな。これ。ルミナス。うん。ルミナスだ。ルミナスで間違いない。それを確認してからホワイトレジデンスに戻りました。
「これは……」
 ホワイトレジデンス。うん。ホワイトレジデンスだ。間違いなく。ホワイト。ホントにホワイト? ホワイトっていう程建物はホワイトじゃないけどなあ。でもホワイトレジデンスだ。ホワイトレジデンスで間違いないわ。他人様が建てた建物の名前に文句付けるのとかよくないよな。うん。すいませんでした。素敵なマンションで羨ましいです。お疲れさまです。さようなら。
 ホワイトレジデンスを通り過ぎた所にも、また、見慣れない集合住宅が建っていました。こちらは三階建てです。お洒落な。いやもうオシャレとかどうでもいい。名前は。名前なんて書いてある?
 その集合住宅の見ると、ブラックオリーブと書かれていました。
 おい。
 おい!
 私は再度ルミナスに戻りました。ルミナスだなお前。間違いないな。で、ホワイトレジデンス前に移動しました。ホワイトレジデンス。お前はホワイトレジデンスで間違いないな。うん。間違いない。そしてその隣はブラックオリーブ。ブラックオリーブだ。どう見たってブラックオリーブだ。ブラックオリーブはブラック。ブラックかな。いう程ブラックか? でもブラックオリーブだ。ブラックオリーブっていうんだもん。ブラックオリーブだ。
 これは、
 私は心の中で思ったことを必死に押し返そうとしました。押し殺そうとしました。そうしないと口からそれが、その考えが出てきてしまいそうだったのです。偶然。偶然だよ。偶然。偶然に決まってるだろ。
 走って帰ろう。そう思いました。ここで見た事は忘れて。忘れよう。走って帰ろう。家に帰ろう。
 そう決意したものの、そのあとすぐに私の中のイマジナリー私が「調べてみたら?」と声をかけてきて、それで、だから、私はその場でスマホを出して、その時の事を調べました。
 昔の事を。
 それは2005年から2006年にかけての事でした。
 ああ、
 ああ、やっぱり。
 そしてそれを調べているうちに、向かい、道を挟んだ向かいに立っている家の事が気になりだしました。そこには以前から、多分前と、以前と変わっていない。家が。一軒家が建っていました。みると『小津』という表札が門扉の所についています。
 小津だ。小津さんだ。
 その隣には居酒屋があって、そこは確か、入口の所に、1000円自販機、モヤモヤさまぁ~ずでお馴染みの1000円自販機がある。行った事ないけど、居酒屋の名前は、
『居酒屋響』
 響だ! やっぱり響だ。鬼こそついてないけど、響でねえが!
 ここは、ここ一帯はいつの間にか。
 私は走って家に帰りました。

 家に帰って、シャワーを浴びて服を着替えて、冷静になってから思いました。
「絶対に狙ってああいう感じになったに違いない。集合住宅造ったやつが狙ってああしたに違いない」
 ネットとかでももう知られてるんだろ。ねとらぼとかに記事出てるだろ。しかし、いくら検索してもそのような検索結果は出てきません。
 私しか知らないのかな。まさか。そんなバカな。
 だって、
 あの一帯2005年から2006年の一年間、日曜日の朝、テレビ朝日のニチアサキッズタイムになってるじゃないか。あの一帯。いつの間にか。完璧な、完璧に日曜日に、完璧にニチアサキッズタイムになってるじゃないか。仮面ライダー響鬼。魔法戦隊マジレンジャーの小津家。ブラックホワイトルミナスでふたりはプリキュアMaxHeart。になってるじゃないか。あの一帯。
 これ私しか知らないのか。まさか。そんな、まさか。嘘だろ。
 誰かに言いたい。
 誰かに。誰でもいいから。
 偶然だよって言ってほしい。
 偶然だよ。偶然。
 でも私が自分で私に言っても効果ない。イマジナリー私が私に言っても効果ない。

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