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嫉妬メガネ

 新三郷にコストコがある。私にとってコストコと言えばシュリンプカクテルである。成城石井で売ってるカクテルシュリンプもいいが、コストコのカクテルシュリンプもいい。例えるなら、成城石井のカクテルシュリンプは小柄で清楚系で、コストコのはちょっと背丈もあってやんちゃというか。ワイルド。Jkに置き換えると、委員長とギャル。どっちもいい。どっちがよくてどっちが悪いという事じゃない。どっちもいい。甲乙つけられない。甲乙を付けるということ自体が間違ってる。どっちもいいんだ。片方がもう一方の良さを示し、もう片方がもう一方の良さみを表していると思う。そう思う。
 だもんで、コストコに行ったらカクテルシュリンプを買う。必ず買う。そんでそれをAmazonで買ったColemanの保冷バッグに入れて、家に帰る。浦和に。武蔵野線と浦和の相性が良くなくて、それで行くのも帰るのもちょっと大変なんだよな。って言う話もしたいが、あんまりうかうかもしてられないので、それに関しては割愛する。
 浦和駅の駅ビル。アトレ浦和の中には成城石井がある。だからコストコ帰りのAmazonで買ったColemanの保冷バッグの中にコストコで買ったカクテルシュリンプを入れた状態で成城石井に入る。普段成城石井とかコストコとか、なかなか貧困層なので行かないが、新三郷のコストコに行った日は、その帰りは必ず成城石井にも行く。カクテルシュリンプが売ってるからだ。コストコ帰りに成城石井にも行って、成城石井のカクテルシュリンプも買う。それで成城石井の店員さんに見れれないように、保冷バッグの中に成城石井で買ったカクテルシュリンプを入れる。保冷バッグの中には既にコストコで買ったカクテルシュリンプが入っている。その上に成城石井で買ったカクテルシュリンプをのせる。
 この時とても興奮する。
 コストコの大き目パックのカクテルシュリンプの上に、成城石井の小さめパックのカクテルシュリンプをのせる。
 この時とても興奮する。
 家に帰って冷蔵庫にその二つ、コストコのカクテルシュリンプと成城石井のカクテルシュリンプを入れる時も興奮する。この時、冷蔵庫にあんまり何も入っていないといい。なおいい。一旦扉を閉めて、ちょっと時間を空けて、再びドアを開けた時、冷蔵庫のちょうど目線の段の所にコストコのカクテルシュリンプと、成城石井のカクテルシュリンプが並んで置かれているのを見ると、それはもう興奮する。
 神々しい。煌々とした冷蔵庫の白いライトの中、
 大きめコストコカクテルシュリンプと、小さめ成城石井カクテルシュリンプが並んでいる。
 煌々したライトの中。
 私の中に、前の席に座ってるギャルと後ろの席に座らされた委員長みたいなイメージが湧く。委員長はきっとギャルの面倒を見るように言われたんだろうな。だからそういう席の並びなんだ。勿論逆でもいい。逆でも設定自体は活かせるだろう。
 それを見ると、
 私は、
 嗚呼。
 ってなる。
 この世は素晴らしい。戦う価値がある。
 なんて柄にもない事を思ったりする。
 今、ここで、この瞬間、死んだほうがいいんじゃないか。
 と思ったりもする。

 コストコに行くと大きなカートを装備させられる。店内に籠などの類が一切ないからだ。しかしこの大きなカートがなかなかの強敵で、これがコストコ自体を強敵としている要因だと思う。
 というのもこの大きなカートの為にコストコ店内が渋滞するのである。特に最初の大通りを抜けて肉のゾーンに到達すると渋滞がピークを迎える。お盆の帰省ラッシュの高速道路の映像みたいになる。
 この肉のゾーンの先に魚のゾーンがある。そしてその魚のゾーンにカクテルシュリンプがある。故にカクテルシュリンプを買うためにはこの渋滞に並ばなくてはいけない。これがしんどい。本当に辛い。渋滞はなかなか進まない。私はカクテルシュリンプを買ってさっさと帰りたいのだけど、でも肉とかを眺めなくてはいけない。そら肉にだって興味はあるけども、でもそこに並んでいるのは常軌を逸した肉の数々である。とてもじゃないが処理しきれない。しかしその渋滞に入らないとカクテルシュリンプも手に入らない。メンタルががっつりいかれる。エネルギーも80%くらいは減る。それにコストコに来るのに10パー使ってる。もう後はだましだましになる。早く帰りたいって思う。死にたいとさえ思う。
 コストコに行く時は、心を決めて、決意して、そして心を殺さないといけない。余計なものを視界に入れないように。余計な事を考えないように。そうしなければあの渋滞で発狂する可能性がある。

 その日その渋滞の中、私が肉を眺め飽きて前を見ると、私の車両(コストコカート)の前に、金髪カールの女性と黒髪ストレートの女性がいた。どちらもまだ年端も行かぬ、テレビの世界の用語で言うとT層~F1層くらいの感じ。その二人は、二人で一つの車両(コストコカート)を押しており、そしてあーでもないこーでもないと話していた。
 行儀もマナー酷い奴だと思われるかもしれないが、私はその渋滞に対して発生したストレスの処理が必要でその二人の会話に耳のアンテナ、周波数を合わせた。二人はおおよそ以下のような会話をしていた。
「メガネいいよね」
「増税クソメガネの事?」
「最近は、恩着せメガネって言われてるんでしょ」
「減税ウソメガネじゃなかったっけ?」
「それは前よ」
「今、恩着せメガネって言われてるの?」
「そうだって」
「でも、メガネいいよね」
「スーツ着てるからじゃないの?」
「ああ、黄色いネクタイの時は確かによかった」
「それ何の時?」
「知らねえ」
「蝶ネクは?」
「蝶ネクじゃないのよ。普通のネクで、スーツで、メガネがいいわ」
「まあ、そうな」
「メガネいいよ。私の座右の銘にしてもいい」
「座右の銘にする?」
「してもいい。普通ネクスーツメガネがいい」
「普通ネクスーツメガネはいいな。分かる」
 二人は肉を眺めながら、そして時々ブロックの肉を、手に取ったり、戻したりしながら、そんな会話をしていた。

 その後なんとか、カクテルシュリンプを買って、浦和に戻り、成城石井に行くと運の悪いことにカクテルシュリンプが売り切れていた。仕方がないので、再び電車に乗って大宮に行って、ルミネ大宮ルミネ1の一階にある成城石井に行き、そこでカクテルシュリンプを買って再び浦和に戻って家に帰った。
 いつものように冷蔵庫に二種類のカクテルシュリンプを並べる。
 すると自動的に情景が頭の中に浮かび上がる。ちょっと背の高めギャルと、小さめ委員長。興奮した。
 でも、
 その日はギャルの方が半身を委員長の側に向けて座って会話を始めた。
「メガネよくない?」
「増税クソメガネ?」
「今、恩着せメガネだって」
「いい。分かる」
「いいよねえ」
 それを見てたら無性にイライラしてきて、私は普段、増税クソメガネとも、恩着せメガネとも呼んでないのだけど、ガースーの流れで、ダーキシって呼んでたんだけど、でも、なんか、その時ばかりはなんか、クソメガネって思った。
 ヤキモチだと思う。
 嫉妬だと思う。
 糞醜い。

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