フィリピンの新しい政府系ファンド、マハルリカファンド


 現在フィリピンでは「社会保障(SSS、GSIS)の財源に手をつけるな!!」という訴えが響き渡っています。日本の国家予算運用、たとえば年金運用(公的年金積立金運用)はたびたび赤字や黒字を度々出していますが大きな社会運動には遭遇していません。しかし現在のフィリピンではやや状況が異なります。現在議論されているマルコス大統領の親族議員らが創設を目指す総額2500億ペソの政府系ファンド「マハルリカ・ウェルス・ファンド」は財源が国民が納めた保険料や年金から来ています。(正確には公務員保険機構(Government Service Insurance System,GSIS) から1250億ペソ、社会保険機構(Social Security System, SSS) とフィリピン不動産銀行(Land Bank of the Philippines,Land Bank) からそれぞれ500億ペソ、フィリピン開発銀行と国庫からそれぞれ250億ペソが支出される予定です。)。現在、東南アジア5カ国には6つの政府系ファンドがあり、そのうちの2つは金融・商業の中心地として膨大な外貨準備を蓄積したシンガポールのものです。ブルネイ、東ティモール、インドネシア、ベトナムも政府系ファンドを保有しており、もし、マハルリカ・ファンドが実現すれば、5番目か6番目に大きな政府系ファンドになる可能性があります。

政府系ファンド自体は90年代から存在し珍しくはないものの、まとめるとこのマハルリカ・ファンドには以下の問題があります。

ひとつは汚職の可能性です。このファンドはGOCCガバナンス法、政府調達改革法、競争法などといった公共の利益を守るための保護措置を備えた法律の適用除外であり、汚職の温床となる可能性が指摘されています。また現状、どこに投資するかといった透明性が不十分で、投資が失敗した際のファンド側の説明責任も曖昧なことから、左派系ブロックどころか経済界からも批判されています。加えて、会計監察委員会(COA)が報告する頃には資金はすでに行方知れずとなっている可能性も指摘されてます。

ふたつめは、2000億ペソの脱税疑惑のあるボンボン・マルコス大統領のいとこや息子が作成した法律で作られた基金の指揮を、大統領自身が執る点、そして汚職問題で取り沙汰されたアロヨ元大統領がかかわっている点です。端的に言うならば、年金資金をリスクの高い投資に回す運用能力が全く信頼されていません。

最後の問題は財源です。まずなぜ大企業ではなく社会保障費からなのかという点と、ファンドに使われた予算が年金や社会保障の財源に補填されない、純粋な接収である点です。ここは僕が最も勘違いしていた点なのですが、日本の年金運用では黒字になれば増えるかそのまま年金の財源に戻ってきますが、マハルリカ・ファンドではそうはなりません。そうなるともはや支持する理由がなくなるどころか、むしろ中間層にとってはリスクでしかありません。

最初はこのマハルリカ・ファンドを日本の年金運用と比較しながら捉えていたのでかなりの質の違いに驚いています。これから詳しいマハルリカ・ファンドの動向を追っていきますが、これはかなり中間層からすればホットトピックであるはずなので、反マハルリカファンドの声がどこまで広く、そして大きく響くか見ものです。

https://www.rappler.com/business/things-to-know-maharlika-wealth-fund/?fbclid=IwAR3Tt2d2i32KKznV46XR1KPL-Ol80lasCgyVD5Au4tCK68y1AfYKzJ8Wrrw

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