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マルクス・ガブリエルの日本観察

精鋭哲学者ドイツ・ボン大学哲学科・正教授「マルクス・ガブリエル」が放つ乾坤一擲の世界分析。

これまで経済学上で、この世紀の大変革が、どこから出ているのか、という論争は百出しているが、どれも正鵠に届いていない。

この文節を読破して、その根源がはっきり分かった。諸悪の根源GAFAの何がけないのか、世界の金融の98%をかき集めて何が悪いのか。その問いに誰も明確なアンサーを出せなかった。

マルクス・ガブリエルははっきりこういった。GAFAに搾取されてしまった我々ネットユーザーは、これからその労働対価のバランスシート均等等価に請求しようとアピールした。この理論啓蒙に反対するのは2%の資本家富裕者であり、ケインズ以来の資本論は、もはや通用しないと最新ロジックを展開した。


天才哲学者マルクス・ガブリエル論評日本  2020年02月12日付
「日本はソフトな独裁国家」マルクス・ガブリエルが評するワケ
 経済・政治 News&Analysis  ダイヤモンド2020.2.12 5:20

「世界で最も注目を浴びる天才哲学者」と呼ばれるマルクス・ガブリエル氏。すべてがフラットになり、あらゆる情報が氾濫し、何が真実なのか、真実など存在するのかわからなくなった現代を、彼はどう見ているのか。
日本の読者に向けて行われた独占インタビューを基にしたマルクス・ガブリエル氏の最新作『世界史の針が巻き戻るとき~「新しい実在論」は世界をどう見ているか』から一部を抜粋して、世界が直面している危機に対する彼の舌鋒鋭い意見を紹介する。(マルクス・ガブリエル、訳/大野和基) Photo by Pere Virgili img_ff450122

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我々はGAFAに「タダ働き」させられている


GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)は、今や世界を統治しているとも言える状況にあります。GAFAの統治を止めるべく、何か規則や法律を設けるべきだと私は思います。身動きできないくらい徹底的に規制すべきです。

 どのような理由、方法、法制度で、など議論の余地はありますが、私の提案はこうです。GAFAはデータで利益を得ていますね。データム(データの単数形)とは、アルゴリズムと私が行うインプットの間にある差異です。

 まず、インプットとは何かについてお話ししましょう。私がバーベキューパーティを主催したとする。写真を撮ってアップする。フェイスブックやグーグルは、そのアップされた写真から利益を得ます。バーベキューパーティ自体からでは当然ありません。でも、バーベキューパーティを主催して写真を撮るのは私です。これは労働と言っていい。私が手を動かしているのです。歯牙にもかけないような会社のために価値を生み出しています。

 フェイスブックが存在する前は、写真のアップなんてしようとも思わなかった。フェイスブックがなかったからです。恐らく写真を撮ることすらなかったでしょう。家族のアルバム用には撮ったかもしれません。それが、今や人々はフェイスブックのために写真を撮っている。これはつまり、人々がフェイスブックに雇われているということです。フェイスブックのために、文字通り働いているんです。

 フェイスブックは彼らにいくら払っているか?ゼロです。ですから、我々はフェイスブックに税金を課すべきです。それが解決策の一つですが、法的な問題などがいろいろありますから、難しいでしょうね。もっといいのは、税金の代わりにベーシックインカムを払わせることです。

 想像してみてください。GAFA企業が、彼らのサービスを使っている人々に分単位でベーシックインカムを払わなければならなくなったとしたら。ドイツでの最低賃金は一時間約10ユーロです。ですから、私がGAFAのいずれかのサービスをネット上で一時間使ったとする。彼らはユーザーが何時間消費するか簡単にわかります。GAFAのユーザーなら当然アカウントがありますから、彼らが提供する価値からマイナスして、私が生み出した価値を私のアカウントに紐づけることができる。

 彼らは私にデータを提供してくれます。レストランに行きたいと思ったら、レストランに関するデータをくれます。その彼らがくれる価値を10ユーロからマイナスして払ってもらえばいい。きっと金額に換算できます。そんなに難しいことではない。私の推定では、1時間につき7ユーロか8ユーロくらいになるでしょう。これが、よりよい解決策です。

 各国政府は、我々国民がGAFAに雇われているという事実を認識したほうがいい。近いうちに、GAFAはすべてを変えるか我々にお金を支払うかのどちらかを行うと思います。それで経済的な問題の多くは解決されるでしょう。ネット検索をするだけでお金持ちになれるのですから(笑)。富豪は言い過ぎかもしれませんが、十分食べていくことはできるでしょう。

デジタル・プロレタリアートが生まれている

 2019年5月1日の「エル・パイス」(スペインの新聞)のインタビューでも述べたことですが、我々は自分たちがデジタル・プロレタリアート(無産階級)であることに気づいたほうがいい。一つ、あるいは複数の企業のためにタダ働きしているのですから。人類史上、こんな状況は一度も起こったことがありません。GAFAは「我々はビッグデータを吸い上げる代わりにたいへん便利なサービスを無料で提供している」などと言います。でも、実質無料ではありません。我々は気づかないうちに彼らのために働いているのですから。

 たとえば、あなたが今フライドポテトを食べたいと思ったとしましょう。そこでボンの町にあるフライドポテトの屋台に行くと、「この店のポテトは無料です」と言われた。それはいい、いただこう。でも店員はこう続けます。「ポテトを受け取る前にあの畑からじゃが芋を採ってきなさい、そうしたら揚げてフライドポテトにしてあげましょう」と。「じゃが芋を採るのも無料です。ただ行って採ればいい、無料開放されています。採って持ってきなさい」と、こうです。

 その実態は、フライドポテト会社のために働くということです。フライドポテトを無料提供ですって?それは無料ではありません。これがGAFAの行っていることです。彼らは何も無料で与えてくれてやしません。トリックです。いくばくかの広告収入はあるかもしれないが、本当の収益は我々のタダ働きから来ているのです。

 我々はそのことに気づいていません。それがトリックです。なぜなら我々の労働に対する概念がひどいものだからです。我々は皆、マルクス主義的な労働概念を持っています。実はマルクス主義の労働観はそこまで間違っているわけではないかもしれませんね。マルクス主義における労働とは、肉体的・活動的な現実を別の形に変換することを指します。木を削ってテーブルを作る、これが労働です。

 インターネットではこれがどう起きるかというと、バーベキューパーティ、つまり肉体的・活動的な現実を開催し、写真を撮る。これが変換です。その変換した写真をアップする。アップも変換に当たります。

 それでも我々はインターネットに関して、「それが物質的なものではない」という素朴な労働観を持っている。これが間違いです。(情報空間でのやりとりは)精神的なものだと思うかもしれませんが、インターネットは完全に物質的なものです。サービスも半導体チップも物質的なものでしょう。それがインターネットです。一定の方法で組み立てられた配線、チップ、電磁放射線の集合体です。我々は、その事実にまったく気付いていません。

 最近の調査では、我々は1年間のうち約4カ月もネットをして過ごしているといいます。1年のうち4カ月も、びた一文くれない人間のために働いて過ごしているのです。彼らは何かしらのサービスをくれているかもしれません。でも実際は、そのサービスで得られるものより多くの代償を我々は支払っているんです。

日本はテックイデオロギーを生み出す巧者

 グーグルがベルリンのクロイツベルク地区に新たな拠点を設立しようとしたとき、ベルリンでは反対運動が起きました。このような巨大テック企業への反対運動は、日本では見られませんね。人々の認識には、日独でかなりのギャップがあると感じます。

 それは、日本がテクノロジーに関するイデオロギーを生み出すのが抜群にうまいからだと私は思います。このようなストーリーの紡ぎ手としては、日本は第一級の国の1つで、90年代はカリフォルニア以上、少なくとも同等に重要な存在だったと思います。今はそこまでの存在感はありませんが。とはいえ、モダニティに対する日本の貢献がなければテレビゲームは今日の姿にはなっていなかったでしょうし、それゆえインターネットで我々が得る経験も今の状態にはかすりもしないものになっていたでしょう。

 ですから日本は、地球上でテクノロジーがもっとも進んでいる地域の一つであり続けているのです。昔はやった「たまごっち」は、機械に愛情を投影することで、人間としての欲望が置き換えられるものでした。日本は一社会として、こうしたモデルを受け入れる傾向が他の地域よりもあると思うのです。

 ドイツで起きた反GAFA運動に関して一つ私が強く思っているのは、ドイツは実に長い期間、テクノロジーと独裁主義、イデオロギーとの関わりを味わってきたということです。ドイツは自動車を発明しましたね。忘れてはならない、ドイツが行った人類滅亡への多大な「貢献」です。ドイツのイデオロギーというのは――私は今これをかつての姿に修復しようと使命感を持ってやっているんですが――ともかく、ドイツの発明というのは人類史上最悪に近い。

 もちろん他にも人類滅亡に「貢献」している国はありますし、ドイツにも、カントやヘーゲルらがモダニティに素晴らしい貢献をした面もあります。それでも、ドイツの発明は最悪です。

 それからドイツは、二度の世界大戦で非常に重大な役割を果たしました。実際はもっとさまざまな要因が絡み合って引き起こされたのですが、端的にいうとそうなります。あれは人間を破壊するためにテクノロジーが使われた戦争でした。ドイツのテクノロジーに対する見識は、そういうものです。テクノロジーとは、壊滅という悪の力だと思っています。ですから、テクノロジーで利益を得ている一部の人々を除き、ドイツにおける批判的思考の持ち主は誰でも、デジタルテクノロジーに強い抵抗を示すでしょう。これは独裁だ、と本能的に反応します。直感的に、独裁に対して反発を起こすのです。

優しい独裁国家・日本

 私は日本が好きですが、日本へ行くと独裁国家にいるような感覚を覚えます。とても民主主義的だし、人々も優しい。中国にいるときのような感覚はない。でも、非常に柔和で優しい独裁国家です。誰もがそれを受け入れている、ソフトな独裁国家のような感覚です。

 日本の電車のシステムは完璧ですね。でもホームで列に並び、来たのがピンク色の女性専用車両だったら、私は別の車両へ移動しなければならない。もしそのシステムを理解せず、従わなかったら、いわゆる白手袋の駅員がやってきて追い出されることもあります。

 実際、そうだったんです。東京を訪れた際、ピンク色のシステムを知らないまま女性専用車両に立っていて、なぜピンク色なんだろうと考えていたら、もう白手袋がやってきていました。これが、ソフトな独裁国家ということです。

 このように完璧になめらかな機能性には、ダークサイド(暗黒面)があります。精神性や美が高まるというよい面もありますが。日本文化は非常に発達していて、誰もが美の共通認識を持っており、食べ物も、庭園も、すべて完璧に秩序が保たれている。それが日本文化のすばらしい面であり、よい面です。

 でも、暗黒の力もあるのです。抑圧されたもののすべてが、その力です。時間に遅れてはいけない、問題を起こしてはいけないと、まるで精神性まで抑えるかのような力です。先ほどの白手袋のように、テクノロジーへ服従させられます。私は、これは日本を規定する対立関係(antagonism)だと思います。どんな先進社会にも構造的な対立関係が組み込まれていますが、対立関係、つまりは弁証法です。

※本文は書籍『世界史の針が巻き戻るとき~「新しい実在論」は世界をどう見ているか』を一部抜粋して掲載しています。

マルクス・ガブリエル 1980年生まれ。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の哲学科・正教授に。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱して世界的に注目される。また、著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は世界中でベストセラーとなった。NHK・Eテレ『欲望の時代の哲学』等への出演も話題に。他著書に『「私」は脳ではない』(講談社選書メチエ)、『新実存主義』(岩波新書)、『神話・狂気・哄笑』(S・ジジェク他との共著、堀之内出版)など。



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