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福祉施設・企業・自治体みんなで学生を育てる「シブヤフォント」はもう”ファミリー”なんじゃないかな

シブヤフォント発表会記念写真

2020年12月6日、4時間にわたるシブヤフォントの新データ(フォント・パターン)の発表会が終了した。

シブヤフォントとは、渋谷区内の障がいのある人の絵や文字を、デザインを学ぶ学生がフォントやパターン化し、それを渋谷区公認パブリックデータとして公開する事業である。毎年、学生が新フォント・新パターンをプレゼンテーションする機会を設けている。

学生の発表後に連携した福祉施設職員にコメントをもらうのだが、もう気分は完全に父兄参観日か卒業式(^_^) およそ数ヶ月にわたり一緒に活動することもあって、もう思い入れたっぷり、失敗しないかヒヤヒヤ、祈る気持ちでプレゼンを観る。それぞれの特性や進捗を把握しているだけに、成長ぶりを感じられると涙がでそうになる。実際、施設職員の中には感極まってポロリとしてしまうシーンもあったりする。

学生が携わる意義

シブヤフォントは、そのフォント・データを採用して企業が商品を販売し、その売上の一部が福祉施設に支払われる。ただ唯一、学生のみが報酬のないボランティアでの関わりとなる。

「シブヤフォントに携わる学生に果たして何を提供できるか?」

運営側として、この問いにどう答えるか? きっとデザイナーとして社会にでる学生にとって大切なことは、金銭的な報酬ではないと思っている。

シブヤフォントは期日までにアウトプットを求めるのではなく、学生の資質と施設の特徴を踏まえたペアリングを行い、学生の施設訪問時には同席し(今年度はオンライン)、学生のスキルに応じてグラフィックソフトの操作方法を教え、 フォントやパターンを作成する上でのポイントを伝え、およそ月2回のオンライン会議とLINEでデザイン的なアドバイスなどデザインの学びがあるように心がけている。時には「フォント道場」と称して、個別に技術を教えるオンラインクラスも開催する。

*今年度はインターンとして秋田の大学生が、私たちのプロセスに寄り添いレポートを書いてもらった。そちらもぜひ参照いただきたい。

そもそも学校の授業と比べ、シブヤフォントは障がいのある人から生まれた原画の良いところを見立て、どこまで手をつけるかを判断し、施設の要望も加味しながらまとめていくという共創のアクティブラーニングの絶好の機会とも考えている。

デザイナーとしての学び

社会に出ると、一人で成果物を社会に届けるのは不可能であることに気づくはずだ。デザイナーは、フォトグラファー、コピーライター、イラストレーター、アーティスト、ディレクターなど多様なプロフェッショナルと共同してモノづくりをしていく。それに対し学校の授業は、その多くが自分で考え、自分で作り、講師にプレゼンして終了するという閉じた世界でプロセスが完結する。当然、社会に出てから戸惑いが生まれる。

学生にとって、福祉との共創体験はとてもフラットで、自分ごととして推進せなばならない点において非常に良い。いくら共創とはいえ、プロのアーティスト、フォトグラファー等と一緒に活動するとなると、どうしても受け身になりがちだが、シブヤフォントにおいては、デザインやアートのプロではない福祉との共創がフラットな関係性構築につながり、学生自身の主体的な活動を育む。

そして、そもそも発表会のようなプレゼンテーションも、学生が成長する上でとても貴重な場のはずである。実は当日朝からプレゼンリハを行い、その場でアドバイスするのだが、本番では見違えるほど良くなっている。

企業賞を授与する意義

発表会では、各社から賞を授与いただいている。キヤノン賞、東急レクリエーション賞、マグスタイル賞、伊澤タオル賞、アンビルト賞、渋谷サービス公社賞、NIZYUKANO賞など企業名を冠した賞に加えて、副賞もご提供いただいている。副賞には宿泊券やスーツの仕立て券などなかなか豪華なものもある。そして、順次、商品化に向けて動いていただいているが、本当に商品採用ともなれば、これもまた大きな自信につながるはずだ。

桑沢デザイン研究所所長からの直接の講評も、学生にとっては貴重な機会である。その一言一言が学生に心に染みていくはずだ。

これらは学生が成長する上でとても大きな励みであり、また就活でのアピール材料となる。 一部上場の企業名が冠された賞など、社会人になってもそうそうもらえるものでもない。学生が今後デザイナーとして活動する上での、自信になってくれればと切に思う。

また発表会終了後「個別にアドバイスが欲しい」とリクエストを受けることもある。私もデザインに二十年以上身を置き、デザイン教育に携わる立場として、しっかりとフィードバックすることを心掛けている。こうしたことも学生が成長する良い機会になればと思う。

上記リンクは、2019年度参加した学生がシブヤフォントの活動をまとめ、ポートフォリオとして展開した事例だ。 毎月、優秀なポートフォリオを評価する「ビビビット新人賞」を受賞したようだ。他者との関わりが学びになったと書かれている。

人としての成長

福祉に触れることも、人としての成長につながるものと思う。「今まで障がいのある人にどう接したら良いかわからなかったけれども、実際に会ってみると、すぐに仲良くなれて、普段通りに接すればいいんだと思えた。」など、障がいのある人に対する固定観念が、シブヤフォントをきっかけに大きく変わっている。

実は学生が施設に訪れると、その施設利用者から大歓迎を受ける。「○○さんが来たよ!」となり、今まで描いた絵を「見て見て!」と学生に見せにいくそうだ。そして、学生の中には施設の旅行にも同行するなど、個人的なつながりも生まれているよう。今回の発表会終了後も、施設と学生とで、オンラインお疲れ様会が予定されているなど、それぞれの交流も広がっているようだ。

産官学福のファミリー

一緒に取り組む学生の制作プロセスに寄り添い、その成長を感じ、その上で発表会を見守る。福祉施設はその発表を応援し、ハラハラし、無事に終わったことを共に喜ぶ。障がいのある人のアートワークがこうして世に出ていくことに施設全体でワクワクしている。その成果に対して企業から客観的な評価をいただき、その結果を共に喜ぶ。こうしたプロセスをオンラインで公開し、このつながりこそがシブヤフォントの核であることを社会に伝える。渋谷区の基本構想であるダイバーシティ&インクルージョンの理念が実体として、ここに顕在化していることを社会に示している。

そして、この発表会をきっかけに参加企業同士でもつながりも生まれている。互いのシブヤフォント商品の販路を連携したり、自社のノベルティに採用しあったり、共同開発も進められている。

シブヤフォントは産官学福、何一つかけても成立しない。これほど見事に、こんな素晴らしい関係が生まれるなど思いもよらなかった。

もう「コミュニティ」という言葉では、なにか足りないな。そうだな、きっと、シブヤフォントは「ファミリー」になってるんじゃないかな。

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参加ゲスト(審査委員)

伊澤タオル株式会社 企画営業部3課 兼 タオルイノベーションセンター課長  清永泰未
株式会社ワールド UNBUILT TAKEO KIKUCHI 屋号長 江口智貴
株式会社キヤノン コンシューマインクジェット戦略推進第二課長 小川 望
株式会社渋谷サービス公社 課長 山﨑優
株式会社東急レクリエーション ライフ・デザイン事業部ランキン営業部係長 阿部日果里 
株式会社マグスタイル 代表取締役 菅沼志乃
NIZYU KANO 共同代表 三輪 英知
専門学校桑沢デザイン研究所 所長 工藤 強
渋谷区福祉部障がい者福祉課長 斎藤 貢司

参加学生(プレゼンテーター)

井上 智絵、上栗 優紀、小池 彩果、小池 あゆみ、小林 夏芽、末永 岬、十倉 亜紀子、吉岡 風美、吉野 美瑞紀

参加施設(プレゼンサポート)

ストライドクラブ、はぁとぴあ原宿、福祉作業所おかし屋ぱれっと/工房ぱれっと、福祉作業所ふれんど、ホープ就労支援センター渋谷 アトリエ福花、むつみ工房、のぞみ作業所、ワークささはた、ワークセンターひかわ

運営/メディアデザイン/インターン

福島 治、高橋 圭、高部 宗太朗、三谷 万由子、水野 弘子、平山はな

ディレクター

磯村歩、ライラ・カセム

主催:渋谷区
協力:専門学校桑沢デザイン研究所
事務局:株式会社フクフクプラス

*トップ画像はシブヤフォントの「Wonder Creatures」というパターンです。ポストカード、チラシなどにご活用ください。売上の一部は渋谷区内の障害者支援施設に還元されます。


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