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それでも前にすすむ者たち

あまり話をしたことのなかった掃除のおばちゃん。
ぱっと見50歳ちょうどぐらいか。
いつも一生懸命に掃除をしている。
僕のデスク周りに来るタイミングはいつもあまり良くなく僕は椅子を退かさない事を度々する。
おそらく嫌なやつ、と思われているのかもしれない。
見下している訳じゃない。
かかってくる電話が良くないのだ。
掃除のタイミングを出来ればずらして欲しい。
僕のデスクは出来るだけ後回しにして欲しい。

僕はいつも会社一番乗り

そのまま月日が経ち
夏も終わり涼しげな秋に季節は変わった頃
会社内のバイク乗り一団がなにやら噂話をはじめた。
聞き耳を立てると
「えーまじかよ、昨日のニュースはあの人の‥」
大抵休み時間の社内のバイク乗りの話は
1、休みの日にどこか行った話
2、バイクの整備やウェアの話
3、バイク事故の話
この三つのどれかだ。
今回はどうやら3、の事故の話のようだ。。

何日か後
その事故の情報が回ってきて
僕の耳にも入った。、

いつも僕との掃除の息が合わない
あのおばちゃん。
おばちゃんが仕事途中で急に帰った日があった。
その日
旦那さんがバイク事故で‥

旦那さん、バイク乗っていたんだ、
同じバイク乗りとして悲しかった。
そしてやはりバイクは危ない乗り物だと再認識する。そう
誰もが危ない目には一度はあっている。
僕もいつどうなるかわからない。
会社のバイク乗り達もだ。

会社のバイクブームはここ3年ぐらい。
日に日にバイク中免許を取るもの
中免許を持っているものは大型へとランクを上げる。100人そこそこの中小企業だが
バイク乗りの統計は13人いる。
なかなかの確率だ。

以前コロナ禍が流行った時
どこにも出かけられないバイク乗りの一団は
6人ぐらいで県外ツーリングした時があった。
その帰り道、
ひとりが山道で転倒しドクターヘリで病院へ送り込まれた小さな事件があった。
その時の会社の対応は厳しかった。
バイクは危険な乗り物!と決めつけた偉い人が
バッサリと転倒した人含め一緒にツーリングに行った物も罰則を与えてしまった。

それからというもの
うちのバイク乗り一団は
今も肩身の狭い思いで
バイクの話しをし、
あまり遠くへ集団で行かないようになってしまった。
僕もバイク好きで一団と話しをするし
今年10月に大型免許を取得し
15年ぶりに念願のリターンライダーに返り咲いた。

悲しい報告を知る

掃除のおばちゃんは
旦那の事故後しばらく会社に姿を見せなかった。
1週間が経ち、噂で
もう掃除には来ないだろう。と一部では言われていた。
新聞記事から事故の場所を検索してどうなってそうなったのかを想像してみたがイマイチよめなかった。名前が出ている。
フェイスブックで一応検索をかけた。
おもいっきりバイクで駆ける画像が出てきた。
しっかりプロテクターを着た旦那さん。
整備の記事や、というかアップした記事は全てバイク関連だ。
昔からの根っからのバイク乗り。
車種は隼の様なカールがついたスポーツタイプの大型バイク。。

もう何十年もライドしてきた人でもこうなるのか。。
自分に重ねて自信を失う。
怖いな、バイクは。

僕はプロテクターもまだ買っていない。
それなのに大型バイクには先に乗ってしまった。
もし僕ならもっと大事故になっていたのかもしれない。そんな僕よりもちゃんとプロテクターをして乗っている人が先にいなくなってしまった。

バイク好きはバイクであの世を渡るのかも知れない

何日かしておばちゃんは復帰した。
その復帰した第1日目。
はじめてちゃんと話しをして香典を渡した。
「俺もバイク乗りだからさぁ」
と渡すと色々なくなった旦那の姿が目に見えた。
昔からバイク好き
整備もしっかりやっていて車検も自分で出しにいってた。
過去に山でバイクだけ崖から落とした事があったエピソードなど。
おばちゃんは優しいんだな。
そんなバイクバカな旦那を許し
好きなバイクに乗せてあげていた。
見守っていた。
結果はこうなったが
バイク乗りはいつでもこういう覚悟は抱えてバイクと向き合うのだろう。

悲しい
悲しい。
そして、こうしてひとりのバイク乗りがいたことを
ちゃんと覚えておく。
その彼もきっと
バイクの走る風が好きで
エンジン音の駆ける音と振動が好きで
カーブからアクセルを回して立ち上がる感覚がたまらなかったんだと思う。、
そう
バイクはたまらないんだ。
乗りたくて
跨りたくて
やめられない。
そこには危険が潜んでいても
やはりバイクは最高だから。
ごめんね迷惑かけて。
俺はバカだからさあ
それでもバイクに乗っていて後悔はないよ。
最高だよ。
ありがとう。
そう言っているかもしれない。

そんな今晩は月蝕。僕の親戚の旦那もバイクで亡くなって二人の子供を残していってしまった。身内のバイク乗りイメージは今でも固い。身内では僕はバイクの話はしない。

掃除のおばちゃんの働く
後ろ姿には
バイク乗りの気配がし
どうも
人ごととは思えない
後ろめたさみたいなもんを感じてしまう。

僕もいつかはこうして
家族に迷惑や心配をかけることが
これからあるのかもしれない。
そう思うと
なんかやるせなく
バイクにも後ろめたい気持ちがあるが
シートカバーを捲ると
鍵を回し
暖気して
アクセルを回すぼくがいる。
だめなんだよなぁ
こんな
あんな
話聞いても
それでもやめらんねぇなぁ
”俺、バイクやっぱすっきやねん〟

悪いが乗るよ。俺。

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