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提言⑫職員は財産である。

 痛ましい記事を目にした。

 

「2年足らずの間に、職員が3人も自ら命を絶ってしまった」(役場の中堅職員)
 長野県上高井郡小布施(おぶせ)町。長野市の北東15キロほどに位置する同町は、面積が19平方キロメートルと県内で最も小さな自治体であり、人口は1万人余り。その町の、職員がたった100人しかいない役場内で自殺者が相次いでいた――。   

(文春オンライン 「主人が帰ってこない」…2年で3人が自殺 長野“職員100人の町”で何が起きているのか
https://bunshun.jp/articles/-/54025より引用)

 小布施町と言えば、葛飾北斎ゆかりの地として知られ、伝統的な街並みと美術館、博物館が街の中に点在する街として知られているが、スポーツに関心がある自分における小布施町の魅力は、なんといっても「小布施見にマラソン」である。

 このマラソンは、全国各地で行われる「マラソン大会」の中でもかなり異質なマラソン大会で、「マラソンをいかに速く走るか?」というよりも「いかに小布施町を堪能してもらうか?」というマラソン大会である。
 「マラソン大会」と言う名の観光イベントといってもいい。

 10,000人という小布施町と同じ規模人数が参加するこのマラソン大会では、整備されたアスファルトの上のマラソンコースを走るのではなく、地元のぶどう畑やリンゴ畑の間のあぜ道を走ったり、民地の路地裏を走ったりする。
 そしてコースのいたるところに、地元住民によるおもてなしエリアが点在する。
 そこで振る舞われるのは、地元産の果物のジュースであったり、牛乳であったり、野沢菜、信州牛なんていうのもあるようだ。
 いずれにしろ、ホスピタリティを前面に押し出した大会で、走る(歩く)+観光と言うスポーツツーリズムの優良事例として、昔から関心を持って見ていた。

 そんな町の町役場が、このような痛ましい状況になっているとは知らなかった。
 記事からは、トップリーダーや町幹部と、自死した方の直接的な因果関係は分からなかったが、自分が仮に組織のリーダーであったとしたら、部下が自死するような組織は組織としてありえない。言語同断である。
 
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 今日(5月5日)の昼時にNHKで放送されていた「サラメシ」で、帝国ホテルの社員食堂が紹介されていた。

 帝国ホテルでは、長引くコロナ禍でホテルの利用客が減少する中、300人ほどいる厨房スタッフの雇用を考え、これまで外部に委託してきた社員食堂を自営化し、厨房スタッフの一部を社員食堂に配置転換したという。

   番組ではホテルのレストランで使用する食材の端材を社員食堂で活用しフードロスに取り組んでいることや、若手職員が創意工夫してメニューを提供するなど研修の場になっていることなど、社員食堂の自営化による様々な相乗効果も紹介されていた。
 
 実際に従業員の評判も良く、社員食堂でレストラン並みの昼食を食べることが、働くモチベーションにもつながっているらしい。

 この番組の中で一番印象に残ったのが、社員食堂の自営化に踏み切った代表取締役常務の方の言葉だった。

 「従業員は財産ですから。」

 何よりも従業員の雇用を守る、そしてモチベーションを低下させない。

 老舗ホテルの組織のリーダーの言葉だけに重みがある。


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 慶應大学大学院教授の前野隆司氏の著書「実践ポジティブ心理学」(PHP新書」の中で、2016年度のホワイト企業大賞を受賞した西精工株式会社(徳島県)の経営が紹介されていた。

 西精工がホワイト企業大賞に選ばれた理由は、社員一人ひとりを尊重していることと、大家族経営を柱にしていることです。大家族経営自体は目新しいものではありませんが、西精工の大家族経営の特徴は、かつての家父長制のようにトップの言うことが絶対というようなものではなく、社員一人ひとりを尊重した上での家族経営だという点です。
 例えば西精工では、毎朝一時間近くに及ぶ対話を通じて、一人ひとりの意見を聞き、職場環境を改善し、社員のやりがいを引き出しています。そして、社員アンケートにおいてほぼすべての社員が「月曜日に出社するのが楽しみ」と回答しており、家族のように会社のみんなのことが好きだと言います。

(実践 ポジティブ心理学(PHP新書)より引用) 

 実際、西精工のホームページやホームページ内のブログを見ても、社員のイキイキとしている様子が伝わってくる。
 
   著書では、こういった「社員を大切にする会社」の「幸せな経営」が、長期的に見ると企業の業績や成長に貢献する、と説明している。

 手元にブラック企業と比較したエビデンスがないので業績に関することについては明言は避けるが、確かに「社員が幸せな会社」の方が社員のモチベーションを上げ、創意工夫によるアイデアがふんだんにでてくることは間違いないだろう。

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 これは市町村役場でも同じことが言える。

 かつて、市町村役場は企業よりも福利厚生が充実しており、地方職員共済組合の宿泊施設などを利用した職場旅行や、職員による運動会、定期的な懇親会などが行われていた。
 若い職員にとっては、プライベートの時間を削ってまでの職場同士の付き合いは苦痛を伴うものでもあったが、そういう職場の付き合いが実は職員のモチベーションの維持に一役買っていたという側面もある。

 近年の地方公務員のメンタルヘルスに関しては別記事で書いたが、心身の不調による休職が年々増加している。
 別記事では、その対策として「仕事」以外での「活動」や「学び」をすることに活路を求めたが、考えてみれば、職場内での「福利厚生」がその部分を補っていたのかもしれない。

 いずれ、福利厚生と言う機能を失った職場は、職員の個人化とコミュニケーション不足を生み、それがおそらくメンタルヘルス不調の一因となっている。

 また、トップリーダーのいうことが絶対という職場では、「職員の創意工夫」も生まれないし、多様なアイデアの創出を阻害してしまう。

 小布施町役場がどういう組織なのかはわからない。

 だが、「職員を財産とする」組織でなかったことは事実だ。

 そのような市町村役場は全国にたくさんある。

 早急に「職員を財産とする」組織に生まれかわらなければならない。


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