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【書評】試験に出る哲学(斉藤哲也 著 NHK出版)

11代伝蔵書評100本勝負17本目
 日本の高校生が哲学を学ぶ時間は年間50時間程度らしいです。それに対してフランスの高校生は年間200時間以上哲学を学ぶと言います。確かにフランス人は小難しい議論好きというイメージがあります。
 敬愛する佐藤優氏によると思想的な背景が時事問題に深く関わっていることが少なくなく、哲学の教養はより深くニュースを理解できるようになるためには必須の知識らしいです。そこで今更ですが、哲学の勉強をすることにしました。
 本書のユニークさはセンター試験「倫理」で実際に出題された問題を取り掛かりとして古代から近代に至るまでの西洋思想史を概括していることです。筆者は「哲学に入門するきっかけとして、センター試験の問題はうってつけなのです」と主張します。実際読んでみると筆者の意図もよくわかりましたし、曲がりなりにも西洋思想史の流れの一旦が分かったような気がします。
 具体的に本書の構成を追ってみます。例えば16世紀ベーコンの思想を説明するために著者は最初に試験問題を引用します。
ツッコミどころ満載の試験問題ですが、家族でプラトンのイデアを話し合うという設定で父母、兄、妹の会話が文章として記述されています。その会話を受けて「ベーコンの”劇場のイドラ”に囚われているのは誰か」というのが設問です。
 この後にベーコンの「4つのイドラ」についての説明があり、問題の解答と解説が記述されます。共通テストという問題があるため、何が問われているかがわかりやすいし、著者の説明がピンとこなくても問題を見直すことで理解が深まるような気がしました。また本問がプラトンのイデアについての話題でもあるので、古代思想史の復習にもなり、その流れもイメージしやすい仕掛けとなっています。
 一般に哲学の概説書は難易度が両極端なイメージあります。その点本書は試験問題がとっかかりとなっていますから、抽象的な説明に終わりません。前述したように著者の説明でももやもやがスッキリしない場合は共通テストの問題に立ち返ることで各思想家の哲学がより具体的にわかったような気になります。ここでもやはり「気」ですが、難しい思想を理解するためには「気になる」ことも大事ではないかと思いました(ただし自分の理解が「気がする」レベルであることも肝に銘じるべきでしょうけど)。
 
 そして本書の最大の効用は「哲学」が少しだけ身近に感じられ、興味が湧くということでしょう。そうなったらシメたもので巻末にある著者の「ブックガイド」の中から拾い読みをしていけば考える力はグッとつくような気がしています。
著者も認めるように哲学の原典を最初に読んでも多くの人にとっては「ちんぷんかん」です。
 しかしながら本書で哲学が身近になったらやっぱり原典に挑戦したいものです。おそらく一番身近なそして読みやすい原典はプラトンの「ソクラテスの弁明」でしょう。解説の充実度で光文社古典新訳文庫が群を抜くらしいです。ここから始めてみようと思っています。


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