さようなら、介護士さん

もう六年も前になるが、85歳の老人が一人死んだ。のどにモノを詰まらせて死んだので死に方自体は別に大した話ではない、年齢からみればよくあることだろう。だが、死んだ場所が問題だった。そこは老人ホームで、食事の介助を行っていたのは准看護師だった。そして、看護師は罪に問われることになった。業務上過失致死というのが彼女の罪状、見事な有罪判決だ。

本当に業務上に過失があったかどうかはさほど問題ではない。問題は老人である以上どうしても発生する悲劇を罪に問うていることだ。人間がみな死ぬ以上、人生の末期に至った老人には、決定的事態というものが必ず発生するのだ。確実に発生する悲劇を罪に問うのであれば、そのような仕事は成立しえない。

この裁判により、全国の老人ホームは更に状況が悪化することになるだろう。ただでさえ介護業界は崩壊が見えている業界だ。崩壊は更に加速してもおかしくない。誰だって誰かの死の責任を押し付けられたくないからだ。

我々は思い出さねばならない。人間が老いるのは誰のせいでもないということをだ。ある程度老いた後の死は誰であっても避けられないということをだ。死ぬべき日が来たからには死ななければならないのだ。

この世は全てが有限だ。ある程度人の命を粗末に扱うことで全体の時間を確保し、人生の質を上昇させることで余生を幸福にするというのはきわめて大切な考え方だと言えるだろう。そして、それが通らない世界であるのなら、人の命を救うことなどやめてしまうことだ。

あなたの人生はあなたとあなたの大切な人のために使うべきなのである。

ありがとうございます。