地政学の進歩と夢の終わり

 昨今のAIとビッグデータ解析により、地政学分野は大きな進歩を見せている。統計地政学とでもいうべきこの分野は、物資の輸送時間と輸送距離、輸送コストをもとに国家を切り分け、人々のマクロ的な挙動をビッグデータ解析で数値化し、切り分けた地図内でグラフ理論に従う数値計算をすることで、「その国家にとっての正しい周囲環境と物資分配」を求めることができるという強力なものである。

 おそらく、現在ではほとんどの国家がこの統計地政学を採用して未来の国家運営を検討していると思われる。しかし、この統計地政学が採用されたことで、人類は一つの大きな業を抱えることになった。

 単純に言えば、全世界規模でカルネアデスの板問題が発生したのである。

 当然ながら統計地政学から得られる結果は「国家のとるべき最適解」であり、その最適解を外れた分のダメージはそのまま国民に跳ね返る。「それをやりたくない選択肢」が「国家の取るべき最適解」であってもお構いなしである。やらねばならない、そうでなければ誰かが犠牲になる。犠牲者を出すなら、せめて別の国で出さねばならないのだ。

 昨今の国家からは自由や平等といった夢がなくなりつつあるように思える。それは決して統計地政学の圧倒的な力と無関係ではないのではないかとふと思ったのである。

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