時間依存社会モデルver1.0(ミクロ編:自由と平等)

前項にて、「個人の効用方程式」の効用係数と行動時間の最大値を変化させ、「最適自由行動」自体の最適化を図ってゆくのが人間が群れを成し、組織を作り、社会を生む最大の理由であると述べた。この行為は「最適自由行動」の「平等化」と定義できる。これはすなわち、「全員が好きなことを平等に行うことができる」ようにするため、自由を束縛する操作であるからだ。また、「平等化」の為に人間が集まること自体を「組織化」と呼び、その集まりを「組織」とよぼう。以下のnoteは、組織において効用方程式がどのような影響を受けるかをまとめたものとなる。

3.効用関数の組織化と最適自由組織

前項の内容と平等化を考慮した「個人の効用方程式」は以下の多項式で書き表せる。

「効用=生命維持時間×生命維持係数×人数^人効用乗数+自由行動時間1×自由効用係数関数1×人数^人効用乗数1+自由行動時間2×自由効用係数関数2×人数^人効用乗数2+……+自由行動時間n×自由効用係数関数n×人数^人効用乗数n」

ここから、「組織の経過時間」「組織の効用方程式」として以下の多項式を定義しよう。一般的に、組織は(細かい差異は有っても)大きな差異を持たない個人の集合なのだから、各多項式は単純に個人の式を合計したものとして定義される。

「組織の経過時間=個人の経過時間の組織人数合計=組織の生命維持時間+組織の自由行動時間」

ここで重要なのは、組織の経過時間の時間配分比率は個人の経過時間の時間配分比率と同じであることだ。複数の人間が異なる作業をする組織であっても、その目的とするところは同じなのだから、全員が同じように時間を使う必要があるのだ。

「組織の効用=個人の効用の組織人数合計=組織の生命維持時間×組織の生命維持係数+組織の自由行動時間1×組織の自由効用係数関数1+組織の自由行動時間2×組織の自由効用係数関数2+……+組織の自由行動時間n×組織の自由効用係数関数n」(ここで、組織の自由行動時間1は全個人の自由行動時間1の合計。その他効用係数関数なども合計)

一つの組織の目標は、個人の時と同様に「組織の効用方程式」の値を最大にすることとなる。これを「組織の最適自由行動」と呼び、そのような行動を取る組織を「最適自由組織」と定義する。

ここで注意すべきことは、組織における生命維持係数には、次世代の育成が含まれることである。これは個人の効用方程式には全く意味をなさない(育成が効用という人間を除けば)が、これを怠れば組織は疲弊し、やがて人数そのものが減少してしまう事によって組織の自由効用係数や生命維持係数の減少を招くことになる。

4.戦闘と教化と機械化

ここで、上記の「最適自由組織」には一つの欠点が生じる。それは「最適自由組織内の個人の効用は最適とは限らない」ということである。組織の効用の定義によれば、個人の時と同様、自由行動時間の選択と集中によって自由効用係数が最も高い行動を最も多く行うのが原理的に最大の効用を得ることになるからだ。すなわち、最適自由の状態かどうかを見ただけでは公平性に大きな問題があるかどうかが分からないのである。この意味で、最適自由組織とは望ましい組織の十分条件ではなく必要条件であると言える。

もしも、ある個人にとって「人数の増加にともなう生命維持係数と自由効用係数関数の増加」の効果を受けてなお、「個人の最適自由行動」がその組織内での「最適自由行動」によって得られる効用を上回る場合、本モデルにおいてはそれを「差別」と呼ぶ。なぜならば、彼にとってその組織に居ることは本来得られる効用を不当に失う事であるからだ。彼の取るべき最善手はその組織を脱退する、となるだろう。以後、本モデルにおいて、「差別とは、組織内での自身の時間配分によって得られる効用が、個人で得られる最大効用に劣る状態」を指す。

組織内において差別を解消し、個人の効用を平等化するためには、行動を行う攻撃側と行動を受ける防御側の間に三つのアクションが存在する。ただしいずれも、一般的には誰かの効用を犠牲にして他の誰かの効用を改善する行動である。もしも、誰の効用も犠牲にせずに個人の効用を平等化できる場合、それを「組織の改善」と呼ぶ。本モデルにおいては、組織を平等化することは即ち組織を改善することではない。平等化によって、「組織の最適自由行動」の絶対的な値が増えるとは限らないからだ。

一つは戦闘である。これは自由行動時間の配分を操作する行為であり、直接的に自身にとって最も多い効用を得られる行動をより多く行おうとする試みである。一般的に、戦闘は攻撃側の数が防御側より少ない場合に選択される。

もう一つは教化である。これは自由効用係数を操作する行為であり、他者にとって最も多い効用を得られる行動を自身にとって最も多い効用を得られる行動に変更しようとする試みである。一般的に、強化は防御側の数が攻撃側より少ない場合に選択される。

最後の一つは機械化である。これは人効用乗数を操作する行為であり、人数が増えることによる効用増加を抑えることで、間接的に自身にとって最も多い効用を得られる行動をより多く行おうとする試みである。一般的に、機械化はテクノロジーの進歩など、様々な外的要因によって引き起こされる。

これらの操作により、組織内の効用は平等化される。そして、これらの操作によって、全ての個人の効用が完全に平等化された組織は、「最適平等組織」と定義される。また、「最適平等組織」である組織が「最適自由組織」としてふるまう場合、その組織を「最適完全組織」と定義する。本モデルにおいては、ある組織内において、これ以上に効用を改善する方法は原理的に存在し得ない。


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