コラム:安倍政権の地政学的評価と朝鮮半島の価値の変動
2020年8月28日に、安倍総理が辞任することを表明しました。第二次安倍政権は歴代最長の政権であり、その仕事量の多さ故に立ち位置によって様々な評価がありますが、地政学的には彼の外交はかなり高く評価されます。
今回のコラムでは、安倍政権の政権運営が地政学的に見てどのような結果を齎したか、そして安倍政権の退陣で最も影響を受ける中国及び朝鮮半島について書くことにしましょう。
このコラムは以下のコラムの内容をベースに書かれています。
1.セキュリティダイヤモンド構想
安倍総理の外交における成果は多々ありますが、地政学的に見て安倍総理が優れているのは、日本を大きく発展させるであろう強力な外交安全保障構想を作り上げ、それをアメリカの対アジア戦略にインド太平洋構想という名で採用させるに至ったことです。
これをセキュリティダイヤモンド構想と呼びます。これはオーストラリア、インド、アメリカ合衆国(ハワイ)の三ヶ国と日本を四角形に結ぶ巨大な連合で、インド洋と太平洋における貿易ルートと法の支配を守るために設計されたものです。
これはあからさまに中国を狙い撃ちする戦略です。中国は内陸国(ランドパワーと言います)から海洋国家(シーパワーと言います)へのステップアップを狙っており、東シナ海、南シナ海への進出はその足掛かりとなります。この中国の外海進出はこのセキュリティダイヤモンド構想によって阻むことができます。
この構想に基づき、少なくとも日本からアメリカ、日本からインド、日本からオーストラリアの軍事的な関係はそれなり以上の強度を持つに至っています。
セキュリティダイヤモンドおよびインド太平洋構想は、日本にとって極めて大きな利益があります。なんといっても、中国と日本は中東から運ばれる原油を取り合う中で、しかも地政学的には敵対する関係です。このような状況であれば、一方が完全に倒れてしまえばもう一方が残りの資源を総取りできます。
引けば押される、押して引かせる、というのは地政学の重要な考え方です。物資の取り合いは基本的には情け無用、友情も倫理もなく、有るのはただ利益だけなのです。
2.セキュリティダイヤモンドの問題点
ただし、この構想はインドと中国の関係、およびオーストラリアと中国の関係にそれぞれ問題があります。
インドは本来中国と敵対するランドパワーですが、水源に課題を抱えているために国内の産業が弱く、中国の経済に依存せざるを得ません。更にインドを流れる河川の源流は中国が支配するチベットにあり、水源の奪い合いという意味でもインドは中国に負けています。
オーストラリアは中国と日本のいずれからも攻められにくく、また東南アジアが地政学的な敵であるため日本のシーレーン維持にはあまり旨味がありません。日本からの支援は嬉しいのでセキュリティダイヤモンドが有っても困らないのですが、今の中国経済から得ている利益と比べて判断する程度には無くてもいいため、中国と日本で両天秤をかけた外交をしています。
どちらの国家も中国とは経済力に大きな差が付いているため、積極的に中国と敵対する気がないのです。加えて中国も一帯一路という外交戦略の実現に動いているため、どちらに乗るかを慎重に判断する必要があります。
とはいえ、本来敵対してもおかしくなかったこれらの国家を日本の陣営に引き込んだだけでも大戦果と言えます。セキュリティダイヤモンド構想は十五年ほど前に麻生政権が打ち出した「自由と繁栄の弧」を更に先に推し進めたものであり、安倍総理の優れた戦略眼と実行力を示しているものだと言えるでしょう。
3.極東アジアとセキュリティダイヤモンド
さて、セキュリティダイヤモンド構想で最も困るのは中国、次いで韓国です。
中国はそもそもセキュリティダイヤモンド構想で封じ込められる対象ですから困って当然ですが、韓国の方は幾つかの理由が絡み合うことによります。
まず、韓国の経済は、基本的には「日本から部品や原料を買い取って中国および自国で組み立てる」という形で成り立っています。この時点で韓国は日中関係が劣悪であっては困るのです。
加えて、地政学的にも歴史的にも韓国は日本主動の連合に参加しにくい国家です。そもそも中東からインド、東南アジア(纏めてリムランドと呼びます)を通る航路を共有し、日本という強大なシーパワーに蓋をされている韓国は、地政学的には日本と敵対関係にあります。実のところ、日本が一方的に韓国を利用する関係はあっても、その逆は本来ないのです。
更に、韓国と日本の場合は歴史的な問題もあり、旧宗主国の日本の傘下に入ることはなるべく避けたいことになります。
北朝鮮もセキュリティダイヤモンド構想で困る国の一つです。北朝鮮は巨大なランドパワーである中国・ロシアと敵対しており、中国のパワーダウン自体は歓迎すべきものなのですが、ロシアと中国のパワーバランスが崩れることは全く歓迎できないからです。
ただ、唯一台湾は中国が封じ込められることで大きな利益を得ることができます。即ち、極東アジアの国家において、日本と台湾以外の国家はセキュリティダイヤモンド構想で利益を得ることはほぼありません。
つまり、麻生-安倍ラインの自民党の総理大臣は極東アジアの地政学的敵国家を、明確に排除し封じ込める方向で動いている、ということになります。
4.今後の日本の戦略と極東アジア
以上の前提から、安倍総理が立ち去った後の極東アジアの変動を推測してみましょう。
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