コラム:ユーラシア大陸の未来と中東の重要性

 今回のコラムでは、ユーラシア大陸の未来に大きくかかわる地域である中東について書いていこうと思います。

1.中東地域とはなにか

 そもそも中東というのはどういう地域なのか。実は、その定義はあまり正確には決まっていません。一般的には西はモロッコ、東はアフガニスタン、北はトルコ、南はスーダンまでに跨る、ユーラシア大陸の中心部を支配するアラブ人が中心となる地域を指します。しかし、時と場合、会話の内容によって中東という地域は伸縮するのが通例です。

 なぜかというと、中東という地域の概念は政治的に決定されるものであって、地理的に決定されるものではないからです。

 中東という地域を見る時には、中東を形成し伸縮させる国際政治の力学、および支配的な戦略・外交政策、更には人々の認識の広がりや定着を見る必要があるのです。中東には、「中東人」が存在せず、「中東国」も存在せず、「中東政府」も存在しない…ただ、地政学的な要因だけが、中東の規模や性質を決定づけるからです。

2.中東の地政学的な重要性

 そうは言っても、中東という地域の性格を大まかに決定しているのは地理的要因です

 まず重要なのが、中東がヨーロッパとアジアとアフリカの結節点に位置しており、更に地中海にも接していることです。このため、グローバル大国には覇権的地域を確立・維持するために、中東を掌握することが必要不可欠となる場面が恒常的に発生します。これは近代のみならず、古代からずっと知られていたことです。それこそローマ帝国の時代から、戦略的に重要な地域として中東では戦争が起こってきました。

 古代ローマにおける最初の最高権力者、カエサルは中東を抑えたことで他の二人を追い落とすことに成功しました。衰退したローマ帝国が中東の方に首都を遷したのも、中東の重要性が良く知られていたからです。現在でも、グローバルな通商貿易を維持するためには中東地方の安定と、其処を経由する自由で安定した物流路が絶対に必要になります

 近代における海洋権力ベースの議論においても、「チョークポイント」と呼ばれる、戦略的に重要となる海上物流路の多くが中東にあることが知られています。例えばスエズ運河、ボスフォラス海峡、ジブラルタル海峡、バーブルマンデブ海峡、ホルムズ海峡などです。

 シーパワーとしてのイギリスおよびアメリカ、そして何より日本の発展と、自由主義陣営の覇権の維持に不可欠なチョークポイントを多く抱える場所、それが近代における中東の地政学的な重要性なのです。つまり、中東の地政学的な重要性は中東という地域そのものにあるのではなく、あくまで他国の影響に基づく相対的なものなのです。

 当然ながら、ドイツや中国を中心とするランドパワー陣営など、シーパワーに敵対する国家から見ても、中東は極めて重要な地域となります。以上の議論が、そのまま大陸側が中東の覇権を奪う理由になるからです。

3.中東の資源的な重要性

 この地理的な条件により、相対的に極めて重要な地域とされる中東に、石油や天然ガスが産出されるというのが近代の地政学的な中東の重要性を更に跳ね上げています。中東に偏在する資源を消費国まで運ぶシーレーンやパイプラインの維持が中東をめぐる国際政治の重要な課題となっています。

 このような資源の獲得という視点で見た時、何よりも重要になるのがシーパワーが中東に干渉するのは極めて難しいという点にあります。中東は河川が弱く、内部の大部分がハートランド、つまり海から攻めることができない地域に属するからです。

 特に、第二次世界大戦以後において日本や中国、韓国などの東アジア諸国は中東の資源に極めて強く依存しています。ロシアやアメリカは資源を自ら輸出することもできますが、日本や韓国、中国が資源輸出国になる可能性は限りなく低いと言えます。

 中東における資源の生産が滞れば日本と中国のパワーバランスが崩れ、そして日本は極めて苦しい状況に陥ります。故に、中東における軍事的・政治的な覇権は、アジアの命運と共に世界の命運を握ることにもなるのです。

4.中東の宗教的な重要性

 このような状況でありながら、中東はイスラム教、キリスト教、ユダヤ教の三大一神教の中心的地域として君臨しています。これらの宗教は無数の信者を抱えており、その信者たちは物資の輸送など物質的な判断を行うべきところにすらも食い込んでいます。

 つまり、宗教を中心とした価値判断を行う集団が中東の大部分を支配しているということになります。中東自体がグローバル社会で非常に重要な結節点であることも含めて、中東はグローバルな宗教的ネットワークの結節点でもあるのです。

 この宗教的ネットワークは、イスラエルという国家を生み出したり、イラン革命を引き起こしたり、と中東内外で様々な戦乱に関わっています。この意味で、中東は地政学的な価値のみならず、精神的な価値においても大きな意味を持っています。

5.中東の重要性とユーラシア大陸の未来

 さて、以上の三種類の重要性を抱える中東において、近年において最も重大な変化をもたらしたのはイラン革命です。

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