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涙景

突然流れた。


生まれた喜びを知る間も無いままに。


流れているのが 誰かの頬だとも分からず 重力は加速させた。


慌てて白い何かに吸収されて息継ぎを覚えることなく浸みた。


吸収した白い何かの行先は明らかにされない。


突然溢れる。


生まれた理由を知る由も無いままに。


下っているのが河なのかと錯覚を起こした。


高い所から一直線に落ちた場所が 地面だと誰も教える暇は無くて。


水分を失いながら塩分を残して飛散した。


生み出した彼女以外が 存在に見向きもせず 悪気なく拡散させた。


1つだけ生まれる前の記憶がある。


彼女が流した涙は 失う悲しみと手放せる喜びの両方を含んでいたこと。


複雑な気持ちから生まれたから こんなにお節介な性格に生まれてしまった。


結局のところ 地面に落ちていても そのまま河のように流れていたとしても おそらく言えることは多くない。


そのまま 彼女の頬を離れて落ちてしまって良かったのかもしれない。


もし そのまま彼女の頬で溢れ続けていたら 横槍を刺してしまいそう。


遠くなる意識とバラバラになっていく身体。


最期の最後まで 彼女のことを考えているのは 他にすることがないからなのかも。


いや ただのお節介だ。


たぶん それだけじゃないと思う。


ここまで考えて 意識と身体は 誰かの靴底に宿ったまま離れていく。


あれ?


おかしいな。


涙である自分は彼女の元に戻れないのに 気になって仕方ない。


それを涙である自分以外なんと呼ぶのだろう?

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