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今でもサンデーカップ見かけるとあの時の緊張感を思い出す

犬小屋行きになって数日経った頃、同じく犬小屋行きになったはずのミキが俺のところにやって来た。

バレたらやばいよ!と慌てる俺にミキは、運動の日は職員もみんな外に出て人がいないから大丈夫だと説明してきて、その日は運動の日だった。

言われてから気付いたけど確かに運動の時間、この階には職員がいないんだよね。今思うとガバガバじゃねえかと思うけど。
運動が終わるのは毎回11時半くらいで、その時間になると職員と児童がぞろぞろ戻ってくる。

その日ミキとは今までとは違う深い話をした。
ミキはもう少しで児相に来て3ヶ月を迎える。別の児相に移る話も出ていたけど結局は両親が離婚して、母親の元へ引き取られるのがほぼ確定らしい。だからもしかしたらもうすぐいなくなるけど、児相を出たあとも仲良くしてほしいと泣きながら話してきた。

入所のとき、児相は3ヶ月いられる(3ヶ月を超えてもう少し様子見の場合はまた別の児相へ行く)というのは聞いていたから、ミキがそろそろいなくなるのは薄々気付いていたけど本人の口から言われると寂しかったし友達でいるに決まってるじゃん!とか中学生ノリの熱い約束を交わしたと思う。

このまた2日後、再び運動の日。
誰もいないのをいいことにミキと犬小屋を抜け出して勝手に調理室へ侵入して、冷凍庫のアイスを勝手に食べた。そのアイスが画像のサンデーカップです。

途中で誰か来るとヤバいから俺は調理室前で見張り、ミキがアイスとスプーンを持って来る手順で犯行を行った。

誰もいないホールの片隅で心臓バクバクさせながらアイス食べたのめっちゃ楽しかったな。使ったスプーンはティッシュで拭いて元に戻して、アイスのカップはトイレの窓から投げ捨てた。今思うと最悪なガキだよ。

ちなみにこのアイスの件は誰にもバレなかった。いや実際にはバレてたのかもしれないけどなにも言われなかった。

その日の夜、なぜか俺だけ先に犬小屋生活が終わり大部屋に戻ることになった。
ミキも翌日には大部屋に戻ってきたけど、児相を出る最終調整に入っていて日中は面会とかでいないことが多かった。

話は飛んで、ミキが児相を出る前日。
夜の自由時間中に携帯番号の書かれた紙を渡され、ここを出たら電話して。もし電話が来なければ、これを渡したことがバレたと思うことにすると言ってきた。

俺は絶対電話すると約束して、ミキがいなくなってしまう寂しさでその日は中々眠れなかったんだよなあ。それまでのミキとの思い出を回想して泣いたし。

翌日勉強の時間中、ミキは職員に連れて行かれてそのまま戻ってくることはなかった。

誰かが児相を出るときは他の児童には知らされないし、プライベートな話はしちゃいけないのがあるから職員の前では何も知らないふりをしなければならない。
ちなみにミキに渡されたメモは自室のロッカーの服とか下着とか入れてるところに隠して入れていた。

ミキがいなくなったのは俺が児相に来て1ヶ月くらいの頃で、そのあたりから俺もここを出るための最終調整に入ったと思う。
 連日児童福祉のおばちゃんが面会に来て、今後の話をするんだけど時には母親も面会に来ることがあったのね。

ただこの面会に来る母親、とんでもない女優でした。思い出すだけでもこの親から産まれたことが恥ずかしくて仕方ないくらいに。とにかく娘を連れて行かれた"可哀想な母親"を完全に演じきっていてめちゃくちゃしんどかった。

泣き啜り、帰ってきたら何が食べたい?早く帰っておいで、待ってるからなどとほざく。
もちろんここへ来たのは当時の俺の問題児っぷりも原因の一つにあったけど、そもそも俺がおかしくなったのはお前のせいだと思っていたから母親に対しては冷めた目で対応してたと思う。小学生までは少なからず、母親のこと好きなことも多かったんだよ。怒ると怖いけど自分にとってママはママなわけで。でも中学になってからはこっちも半分大人だからね、母親のズルい部分とか分かるじゃん。だから中学くらいから本格的に母親を信用してなかった。

家には帰りたくなかったし、福祉のおばちゃんに何度もこれまでの母親の暴力のことを訴えた。あなたの前では普通の母親の顔をするけど、また家に戻ったら同じことが繰り返されるだけだと。母親が妊娠中だったこともあって児相を出て半年間はばーちゃんちで生活するということで話は進んだ。

児相生活中、中学の担任と学年主任が面会に来てくれたこともあったがそこらへんは特に面白くないので省きます。

次回 久しぶりのシャバの空気!うゆ丸はミキに渡されたメモを無事に持ち出せたのか?

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