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バカは死ななきゃ直らない

下着は1万円、靴下は5000円。取引するなら新宿や渋谷などなるべく人目の多い場所が安全なこと。事前に約束したこと以上の要求があった場合は強気に出ること。使えそうなおっさんとは取引以外でもまめに連絡を取って仲良くすること(良い人とばかり会えるとは限らないか常連を作る)そんな感じでサキは俺にメジャーデビュー指南ならぬ下着売り指南をしてくれた。

そういうことに抵抗はなかったにせよ、最初はやっぱりちょっと怖い。だから一番最初はサキの知り合い(常連)のおっさんを斡旋してもらった。会うまでめちゃくちゃ緊張したけどサキも知ってる安全な相手だったし、キメェおっさんと歩いてるのを人に見られるのが嫌なこと以外苦じゃなかった。歌舞伎町にある大久保公園のトイレ。おっさんと共に多目的トイレに入り、目の前で服を着たままパンツを脱いで渡す。それと引き換えに1万円貰う。俺が初めて春を売った瞬間でした。こんな簡単に1万円が貰えるなんて嬉しくて、帰りにルミネで服買ったなあ。1万円ってすぐなくなっちゃうのな。

それ以降はサキに教えてもらったサイトで自分でおっさんを調達するようになって、暇さえあればサイトで募集をかけた。当時はそういうサイトなんて腐るほどあったんだよね、家出系の神待ち掲示板然り。18歳未満だから普通の出会い系なんかは登録できなかったけどGREEとかでも簡単におっさん引っ掛けられたし。冷やかしも多いから全然捕まらないとか、捕まっても待ち合わせに来ないなんてこともザラにあるけどね。

俺は定時制だったもんだから普段私服だったけど、おっさんと会うときはなんちゃって制服で行ったりした。制服だとJKの信ぴょう性も高まるしなによりおっさんが喜ぶんだよ、中には約束より多めにくれる人もいたりした。まあそんな感じでよろしくないお金の稼ぎ方にすっかり味をしめてしまったわけですね。 

最初は夏休み中に遊ぶ金が欲しかっただけだった。週に2回くらいおっさんと約束を取り付けて小銭が稼げればよかった。この頃の俺はお金を使う術もよく分からなかったから、友達と遊ぶためか服を買うか好きなバンドのCD買うかお笑いライブに行くくらいでしかお金を使ってなかった。売れない若手芸人に貢いだりはしたけどそれも別にたかが知れてる。

ある日会ったおっさんに、今ここでちんちん触ってくれたらプラス1万円あげるよと持ちかけられ、別にお金貰えるならいいか、とそのくらいの気持ちでOKしたこともある。

ちなみに下着だけを大人しく買ってくれるおっさんは7割くらいで、残りはこういう要求をしてくる。もっと払うからホテル行かない?という奴もいたけど、まだこの頃は自分の中の線引きでセックスするのは違うと思っていたので要求されても手コキ程度しかしなかった。

下着売りも板についてきた頃、その日は待ち合わせで四ツ谷にいた。いつもは大久保公園がメインで自分が詳しくない土地で待ち合わせはしないのになんでだっけな、覚えてないけどとにかく四ツ谷で待ち合わせしたいと言われたのを了承した。金がなく、とりあえず確実に会えればいいと思ったのかもしれない。

相手はスーツ姿の30代後半くらいの普通のおっさん。駅から喋りながら歩いて10分くらいの距離にある公園に行った。夕方過ぎだったから人もまばらでひたすら蝉だけがサイレンみたいに鳴いてたなあ。

駅から公園まで普通に会話をして歩いていたのに、トイレに入った途端豹変したおっさんに口を塞がれて、胸をアホみたいな力で揉まれた。相手の手を噛んで思いっきり股間のあたりを蹴り飛ばすとおっさんが蹲ったので警察呼ぶから!とだけ叫んで走って逃げた。おっさんについてきたせいで道がよく分かんなかったけど、とにかく人のいそうな方に走った。


四ツ谷は元々母親と住んでた家の隣の駅だったから全く知らない土地ではなかった。駅近くにあるグラウンドで中学の体育祭をやったこともあったくらいだし。だから電車には乗らず歩いて家に帰ることにしたんだよね。もちろん家には母親も弟も誰もいないんだけど、帰ってだだっ広いリビングで泣いた。こんなに居心地の悪い家なのにその時はすごく安全な場所に感じて、なんかめっちゃ泣いて、ひとしきり泣いて気が済んだらシャワー浴びて支度をして荷物をまとめてまた家を出た。

まあ普通ならここで懲りるよね。怖い思いをしたのならこんなことはやめる。昔からよく言うバカは死ななきゃ直らないっていうのは本当で、俺は再びおっさんを探すためにサイトを徘徊し、このあとすぐ新宿で待ち合わせ出来るおっさんと約束を取り付けたわけだよ。

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