宇宙倫理 追記

宇宙移住に対する倫理学的検討

地球における文明の変遷

文明成立以前(分散)

アフリカ→徒歩、船等で世界各地へ移動(新たな土地に人間を定住させる)

文明成立以降(集合)
・地理的移動により孤立していた集団を、より巨大な集団へと統合していく
・物資、情報の移動密度は向上
これを前提に、宇宙植民の倫理的問題を分析していく

今後宇宙移住が起こりうるとしたら、動機は?
人口増加→1980年代あたりはそういった議論もあった(オニール球)が、今後世界人口は頭打ちになっていくと考えられる。
資源獲得→これはありそう。地球上の生活水準向上のために小惑星資源が開発され、そのために宇宙への移住が進む?

3つの移住レベル

ショートレンジ(地球ー月)
想定されるシナリオ
①地球・月軌道上や月に少数人数が生身で居住
・この場合、地球と独立したアイデンティティが形成される事は考えにくい
・地球上の国籍を維持しつつ、従来の有人ミッションと似たような形になる
②同上に、生身の人間が大量居住
・独自の国家としてのアイデンティティが形成される可能性もある
・ただし、やはり地球の延長、として存在するであろう
①②に共通するのが、地球との通信にほとんどラグがなく人間の往来にもそこまでの日数は掛からない点である。この範囲内では前述の集合のプロセスの延長である
また、現在の有人宇宙ミッションの延長として十分起こりうる

ミドルレンジ(太陽系内ー火星、アステロイドベルト)
ショートレンジと違い、通信に分単位、人間の往来に年単位が掛かる
そもそもここまでの移住が行われる可能性を検討する
1,地球から物理的に離れたがっている人々が定住
2,あくまで探査や資源採掘の為に移住するが、地球への移動コストや居住地の規模故、長期滞在せざるを得なくなり、定住
3,最終的には地球圏内(ショートレンジ内)へ持ち込む為に開発していたが、すでに充分居住地として機能することから定住(これは小惑星への移住に主にありうる)

1,2,3いずれにしろ、通信のラグや移動の時間、コストをその土地における成果物が上回ると判断されたときにミドルレンジへの移住はありうる

想定されるシナリオ
①深宇宙に一定規模の居住地ができる
国家以上に発展する可能性もある。数十年~百年で我々とは文化的、身体的にも大きく違う人々が出てくるかもしれない
→地球環境を工学的に模倣すれば人類のアイデンティティを保ち続けられるかもしれない
(その場合、規模は不明だが、テラフォーミングの検討も起こりうる)
また、環境に応じて身体を自己改良する人々が出て来る可能性もある

ロングレンジ(太陽系外)ー割愛
そもそも有人の場合、ここへの移住は向こう百年は計画されないであろう
また、開始以降も数百~数千年かかる
数世代における航行や、人間の改良がほぼ確実に行われる
地球との通信に最低でも数十年掛かるため、ほぼ別種の存在になるであろう

結論

前述の、地球における文明の変遷にてらして考えると、ショートレンジまでは地球の郊外として、集合の一過程になることが考えうる。
一方、ミドルレンジ以降では地球圏外となり、別の価値観を持った集団になる事も期待できる。
遺伝学的知見による、宇宙移住の研究例
宇宙空間で役立ちそうな遺伝子
http://arep.med.harvard.edu/gmc/protect.html
twinstudy
https://www.nasa.gov/twins-study
いずれにしろ、ミドルレンジ以降の大規模移住は地球上ですでに身体改造に抵抗がなくなっている社会が形成されている可能性が高い

出典

・宇宙倫理学
昭和堂
伊勢田哲治、神崎宣次、呉羽真

・宇宙倫理・ロボット倫理・ヒューマン・エンハンス
メント倫理の交差点

明治学院大学リポジトリ

稲葉振一郎


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