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命懸けだよ、木登りは。

 これは、私が小学校2年生の時の話。

 この頃、私は東京の官舎に住んでいた。庭のようなところには、たくさんの木々が植えられていて、そこは子ども達の格好の遊び場だった。

 極度の人見知りだった私も、この庭の中では違った。「超」が付くほどのおてんば娘。木登りをしてはターザンごっこをしたし、隣の家の塀に上ってはザクロの実を取って食べた。今思えば、こんな遊びができたのも昭和ならではだったのかもしれない。

 官舎の友達であみちゃん(仮名)という2歳年上のお姉さんがいた。お姉さんというにはちょっと幼く、どちらかというと私を常にライバル視する遊び友達。「これ、持ってる?」とか「あそこ、行ったことある?」とか。何かにつけてマウントを取るお姉さんだった。

 そんなマウントお姉さんあみちゃんを、快く思わない人達がいた。それは、同級生の男の子達。何かにつけてマウントを取られるので、あみちゃんが目の上のたんこぶのような存在だったことは小学2年生の私でも分かった。

 ある日、あみちゃんと二人で庭にあるもみじの木に登って遊んでいた時のこと。5,6人の男子が近づいてくるのが見えた。あみちゃんから、ピリッとした気配を感じる。どうやら、亜美ちゃんのクラスの男子のようだ。

 男子がもみじの木の根元までやってくると、あみちゃんに向かって叫んだ。

「おい、あみ!おまえ、小学4年生にもなって木登りしてんのか?」

「ガキだな、お前は!あはははは!」

 その言葉に、真っ赤な顔をして怒りを押し殺しているあみちゃんがいた。私は、その場から去ることもできず、ただただあみちゃんを見ることしかできなかった。

 すると、男子の1人が私の存在に気付いた。私は、ちょっと嫌な予感を感じた。その男子は、私の真下までくると叫んだ。

「おまえ、まみの友達か?こいつと遊ぶと、バカが移るぞ!」

 私は何も言えずに、その男子を見ていた。その視線が気に入らなかったのだろう。その男子は、私の登っていた枝の根元をゆすり始めた。

「おい、お前!俺の言うことを無視するんじゃねぇ!」

「生意気なガキだな!落としちゃえ!」

 瞬く間に、男子全員が私の登っている枝の根元をゆすり始めた。私は焦りながらも、必死になって近くの枝につかまり、耐えた。けれど、男子達の攻撃は収まる気配がない。このままでは落ちてしまう……と考えた私は、近くの枝に乗り移った。

 その時だった、乗り移った先の枝の根元がぽきっと折れて、私は地面に真っ逆さまに落ちた。『真っ逆さま』という言葉がこれ程までにぴったりとくることもないだろう。スローモーションで流れていく景色は、本当に天と地が入れ替わっていた。

 ゴツッ。。。

 鈍い音の後に、私は地面に横倒しになった。しばらく動けなかった。私は、もみじの木の下にあった岩に、頭から直撃したのだった。横たわっている私のところへ、男子達が駆け寄った。

「死んでないよな?」

「生きてるよ、目が開いたもん。」

「俺達のせいじゃないよな?」

「とにかく、逃げるぞ!」

 男子は、雲の子を散らしたように駆けて逃げて行った。あっという間に姿が見えなくなった。すると、慌てて木から下りてきたあみちゃんが、目の前に跪いて心配そうにしているのが見える。

「大丈夫?起きられる?」

 その言葉に、私は起き上がろうとした。左後頭部が痛くてなかなか起き上がれなかったが、負けん気だけは強かった私は泣くこともせず、ただ大丈夫だと伝えて帰路についた。

 私の住んでいたところは、4階だった。長い長い階段をようやく上って玄関のドアノブを回したが、母も兄も留守のようで鍵が閉まっていた。涙が溢れてくるのと同時に、気分が悪くなり、吐きそうになった。玄関にもたれかかってぐったりしていたところに母が帰って来た。

 私を見て、真っ青な顔をしている。どうやら、私は大けがをしているらしい。とりあえず、吐き気を堪えながら一部始終を伝えると、私は気を失った……。

 気が付くと、私は大学病院の病室にいた。生きていた。頭蓋骨にひびが入り、オペをするという話だったが、オペの直前の検査で回復が見られたため、オペをせずに済んだ(らしい)。

 私は人生で何度か大けがをしたり、死にかけたりしている。が、何とかここまで生き延びてきた。これも皆、ご先祖様等の目に見えないチカラに守られているからなのだと思う。感謝しかない。(ちなみに私は無宗教)

 つまり、やたらに木に登ると、怪我をするよ!という話。じゃんじゃん。

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