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『ラストMovie』企画書


【キャッチコピー】

最期に見るのは、大切な想い出であって欲しい。
『貴方の走馬灯を制作します』

【あらすじ】

御子柴 哲兎(みこしば てつと)は、小さい頃からの憧れであった映画の制作会社に就職する為に何社も受けたが、ことごとく落ちてしまった。傷心していた時、一本の電話が……。内定で歓喜するも、『ラストMovie』という社名で映画の制作会社だろうと何も考えずに受けた会社だった。
初出勤に心躍らせる御子柴に告げられたのは、「ここは走馬灯を制作する会社」という事実だった。

【第一話ストーリー】

 誰にだって、忘れられない映画ってあると思うんだよね。俺の場合は、餓鬼の時に観た映画だった。母さんと観た、タイトルは忘れちゃったし、内容も餓鬼が観るようなアクションやヒーロー物ではなかった事は確かだ。ただ、暗くて、静かな空間に皆んなが夢中になっていた事、何より隣にいる母さんが泣いていた事が印象に残っていた。
 人を惹きつける映画ってすごい、餓鬼の頃の俺は素直にそう思った訳で、それからは小遣いを貰ったら映画館に足繁く通った。
 ラブストーリー、アクション、ホラー、ミステリー、サスペンス。高校生になってからはR18も観れるようになり、幅が広がった。

 高校卒業後は、映画専門学校の映像学科でシナリオライター、脚本家、映画監督、映像カメラ、編集まで一通り学んだ。
 卒業制作で取り組んだ映画制作では、友達の清人が飼っている「わたげ」というポメラニアンを主人公にした。
 ストーリーは、夜遊びが過ぎる飼い主を健気に待ち続けるわたげ。わたげが日に日に弱っていく姿を見た飼い主が改心するも、時すでに遅し。わたげは飼い主の腕の中で飼い主と沢山遊んだ記憶を思い出しながら静かに息を引き取り、飼い主が慟哭するというセンチメンタルな映画だ。協力してくれた忠犬ポメ公にはお礼として、ジャーキーを買ってやった。
 この卒業制作をポートフォリオとして、映画制作の会社を片っ端から受けるもことごとく落ちた。「もう全滅だ……」と匙を投げかけた時、一本の電話がかかってきた。
 株式会社ラストMovieという会社からの内定の電話だった。確か、個人向けのショートムービー制作会社だったか?正直、記憶に残ってない程度の小規模の会社だったが、受かった事に舞い上がってしまった俺は何も考えずに、二つ返事をした。

【第二話以降】

 初出勤の日を迎え、緊張しながらも憧れの職業に就ける事に浮かれていた、この時までは。

 新卒は、9時に4階の会議室に集合らしい。古めかしい建物に少し不安を覚えながら、会議室に着くと既に3人の新入社員がいた。入り口から一番奥の席にモテそうな優男、入り口付近には艶やかな髪にキツそうな目が印象的な女、その近くにはコミュ力がなさそうなメガネ男。席に着くと、大柄な女が入って来て、「おはよう!」と快活に言った。
 その女は、片桐小町と名乗り、俺たちの上司である事と簡単な自己紹介をした後、株式会社ラストMovieの業務内容を伝えた。

 その業務内容が……
死の直前に次々と記憶が蘇る状態
=走馬灯
の制作だというのだ。
思わず俺は、
「走馬灯って記憶の中にある物でその制作とか意味わかんないだけど!」
 と言うと片桐は笑いながら、
「その通り!でも、その走馬灯はぜーんぶ我が株式会社ラストMovieが制作した物なんだよ」
 知らなかったでしょ?とニヤニヤしている。
 俺だけでなく他の奴らも意味がわからないと、困惑しているようだ。

 その時、再び会議室の扉が開いてショートカットの女が飛び込んで来た。
 「っお、遅れましたっ!吉野千秋です!電車が遅延していてっ!申し訳ありませんっ!」
 頭を勢いよく下げる吉野を見て、
「丁度いいや」と片桐は呟き、
「よく見ておきなよ。記憶の断片をあんた達に見せてあげる」そう言うと、片桐は吉野の額に手を当てた。

******

 すると、映像が俺たちの目の前に浮かび上がった。スマホのアラームが鳴っている音がする。暗い映像と明るい映像が交互に繰り返されるが、しばらく経つと画面は再び暗くなった。
 何処からともなく、今度は目覚まし時計の音が聞こえてようやく画面が変わった。目覚まし時計の針は8時15分を指していた。
 寝ぼけた声で「まだ、大丈夫か」と独り言が聞こえた。もたもたと朝食を食べ、鏡に映る吉野が化粧をしているのが映し出された。見ていいのかわからないが着替えをして、ようやく玄関を出ようとした時、腕時計の針は8時50分を指していた。声にならないような叫びが聞こえたと思ったら、画面が揺れ始めた。どうやら、走っているようだ。

******

 片桐は、「完全に寝坊による遅刻だな、以後気をつけるように」とお灸を据えた。吉野はしゅんっとして小さく「はい」と返事をした。
 「まぁ、こんな感じで記憶、特に印象深い記憶や心の奥に眠っている大切な記憶を読み取って、いい感じのBGMを入れたり、ナレーション入れるなど編集するのが我々の仕事だ。因みに、これは政府公認&秘匿の仕事なので業務内容については他言無用で頼む」
その後も、片桐は説明を続けたがもう思考が追いつかなかった。

 取り敢えず、わかった事をメモに取った。
・口外したら、罰則がある
・記憶を読み取るのは、相当難しいので訓練必須
・全国民の走馬灯を制作する
 →誰の走馬灯を制作するかは、上層部が順番を決めている(死に近い奴から制作するとか?)
・決して、自分自身の走馬灯は制作しない事
(狂った人がいるらしい)

 「走馬灯制作には、訓練が必要だ。3ヶ月の試用期間の内、走馬灯を制作できなければ、辞めてもらう」と片桐は冷たく言い放った。
 「尚、この期間の記憶は消させてもらうが、悪しからず」
 記憶を操作できるって事か?ヤバすぎだろ!
そんな俺の顔を見て、片桐は「お前のポートフォリオ良かったぞ」とだけ言った。

 始めの訓練内容は、新入社員同士の記憶の断片を読み取りだった。
 その後、色々な教官に同行し、サポート兼生の現場で仕事のノウハウを学ぶ。走馬灯制作は書類でその人物と人となりを知るだけでは、いい物は出来ない。その人物と親しくなって、相手の心の扉が開いた時、若しくはその逆で、高圧的でこの人には逆らえないと相手を服従させた時に記憶の断片をスムーズに読み取る事が出来る。それが難しいと言われる所以だ。

 その後も教官の一人、武林という男が記憶の改変をしている所を目撃してしまう。
それは、上層部の指示による物だった?
 また、悪夢を回収するライバル会社『夢喰いのバク』も現れる。悪夢は何のために回収されているのかーーー


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