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月、満ちる、懸ける②


 ――――今日は新月だったっけか。

 見上げる空に月の姿を探すも見当たらない。小さい頃、走る俺を追いかけてくれていたってのに、久しぶりに見上げた時に限って月は俺を見ていない。
「まぁそんなもんだ、世界ってヤツは」
 悲劇的になりたくて思わず呟いた大袈裟な言葉は、自分の背筋すら震わせた。

 俺とミチルは双子だった。男女の二卵性双生児。だけれど性格以外は限りなく似ていた。顔も体格も、声も。色素の薄い白い肌も茶色みがかった髪の毛も。見開いた時に瞳孔に映る世界の色だって。きっと美人な母親の遺伝子をこれでもかと受け取った結果なのだろう。 
 その証に、世界が清く美しい二人のためにため息を吹きかけてくれるほどだった。祝福。俺たちはその吐息に微笑みをこぼし合っていた。それすらが浄化された歌のように。

 そう、あの日までは。


〈つづく〉

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