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猫に行手を阻まれる運命

時差ぼけで夜中に起き出した台所で飼ってもいない猫に遭遇したことがある。(次の日一日爆睡して無断欠勤する羽目になった)

海岸で銀色の猫に絡まれて行きずりの恋に落ちたことがある。(行かなきゃ御免、と別れて砂浜を歩き出したあと、何度振り返っても猫はじっと座ったままこちらを見つめていた)

あと、これは自慢なのだが、チェシャ猫に会ったことがある。(否、笑ってはいなかった。終始不機嫌な木の上の猫だった)

春には天国を訪れたが、今日は修羅の国に迷い込んでしまった。この先へ行きたかったら、俺を倒してから行けとばかりにメンチ切る猫。車が通れそうでギリギリ通れなさそうな位置に居座って泰然として居る。促しても、拝み倒しても、どやしつけてみても、どいてくれないの。ニッチもサッチもいかないので、仕方なく写真を撮ってもこの調子。奥にも2匹控えているし、右の家屋にも何匹かうごめいているのがお分かりだろうか。教習所では、こんな危険予知トレーニングはなかった。引き返すにしても、結構な距離をバックで走らないといけない。前進と後退、どちらのリスクが高いのか、迷いに迷って、イチかバチかで進むことにした。そろそろと慎重に車を進める。猫は動かない。右手の縁石になるだけ寄せて、左手の猫との幅を、運転席から降りたり、立ち上がったりして何度も確認する。猫はまだ動かない。車幅は確保できた。分かったから、もう動くな。あなたを傷つけるつもりはない。車に傷をつけたくもない。私も傷を負いたくない。だからもう、動いてくれるな。理解していただいたのか、運転席から完全な死角にいる猫は動いていないようだ。最徐行で前進するが、何かに引っかかる様子はない。皆、無傷で抜けたか?振り返ると徐に立ち上がった猫がこちらをチラと見て下手にはけていった。再び前方に視線を移すと奥でじっと見守っていた2匹も道路の脇へ散る。か、勝った?勝ったのか?猫が与える試練を乗り越えたのか?悟りの地にまた一歩近づけたのか?その地に入ることを許されたのか?何猫様か知らないが、行かせていただきます。ありがとう。お元気で。

生温い人間よりも猫が私を成長させてくれる。私は、運命を受け容れることにした。

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