教育
犬養道子「お嬢さん放浪記」を読み、その才気煥発と明朗な光の放射にうたれつつ、明るかった祖母を思いだした。犬飼さんは祖父と同い年、祖母は少し年下だ。
その昔中学生の頃、祖母からノートをもらった。「本の好きなけいた君へ、素敵な言葉を集めてください」とあり、書き始めやすいように様々なフレーズがあらかじめ記されていた。今覚えているのは「霏霏として/しずかに雪のふるさま」とか。
中学生の俺はビアス「悪魔の辞典」から
【教育】理解が未だ及んでないということを、賢い者には教え、そうではない者には隠すこと
という皮肉な言葉を書いたきりだった。
後年ノートを見つけたときはその典型的「厨二」に笑ってしまったが、実のところ教育はその効果がいつ及ぶかわからないところが面白い。ある時ふと、あのとき言われたこと、してもらったことの良さに気づくのだと思う。教育効果の評価は短期スパンではできない。
ノートを掘り起こした時、祖母はすでにこの世にいなかった。「賢い者ではない者」は時間が経たないと受けた恩に気づけず、プレゼントへのお返しができない。そのかわり、いまだ中2のように覚えたカッコイイ言葉を記すのみである。
「sit tibi terra levis 御身に土の軽からんことを」