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「むやみに切なく」。ラブストーリーの皮をかぶった親子の物語。(感想・独り言。)

「なにを描きたいんだ、このドラマは」と思いながら見続けて19話でやっと「ああ、親子の物語だったのね」となった。
いや、ぜんぜんラブストーリーちゃいまんがな。

韓ドラ「むやみに切なく」
あらすじ:国民的スターであるシン・ジュニョンは、ある事件がきっかけで離れ離れになった初恋相手のノ・ウルと再会する。だが、ウルは学生時代の正義感溢れる性格から一変、お金に貪欲なドキュメンタリープロデューサーとなっていた。番組の出演オファーに来たウルに、冷たい態度を取るジュニョン。そこには、ウルと距離を置かなければならない辛い過去があった―。そんな中、ジュニョンは激しい頭痛に襲われ、病院で余命宣告を受ける。残された時間を知り、自分の気持ちに正直に生きようと決意したジュニョンは、ウルへ「3カ月間、本気で恋愛しよう」と告白するが…。(引用:ホームドラマチャンネル)

ーーー以下、視聴後のひとり後夜祭ーーー
あらすじの最後の一文に期待を寄せて見る人多いと思う。もちろんわたしも。
「期間限定の本気の恋愛?!いいじゃないの!」って。ワクワクで。
そこは完全に肩透かしだった。まともに主人公ふたりが心を通わせあった時間は、20話中1話分あったかなぁ。
実はあやうく何度も脱落しかかった。
理由は、この「ラブストーリー匂わせ」のせいだけじゃない。
もうひとつの理由は、ヒロインの魅力の弱さかな。
彼女は髪を3日洗わなくても平気で、すぐにキレルし、守銭奴で、打算的で、行動が突飛で、弟以外の誰かを思いやる様子はほぼない。・・・共感しづらい。
いや、「変わり者」設定でも、いいのよ。
そこに人間的な魅力が見えれば、ついていけるのよ。
ペ・スジは「あなたが眠っている間に」でも、まっすぐなヒロインを同じように大雑把に演じていたので、きっとこの人の芸風なんだろう。

特筆すべきは、シン・ジュニョンの父親を演じたユ・オソン。
「キミはロボット」で、殺人もいとわない腹黒い財閥の役員を演じたせいで、私の中では悪役俳優。
今作では、清濁併せ呑む政治家ではあるけれど、かつて持っていた清廉さを時折表情で垣間見せる。絶妙だ。絶妙な匙加減だ。
家族に見せる顔が本当にいい人に見えちゃう。
「友へ。チング」に出てた人なのね。わたし人生の第一次韓流ブームのころ映画館で見たはずなのに、気づかなかった。もう一回見た方がいいな。
19話では、息子たちからかつての高潔だった自分への憧憬の念を聴かされ、我が身を正そうという想いに至る。
くぅ。ここでやっと「ここまで見ててよかった」って思ったよね。
ありがとう。ユ・オソン。

主人公シン・ジュニョンを演じたキム・ウビンは、日本では希少な爬虫類系俳優さん(失礼!)なのだけど、何話も見てるうちにだんだんイケメンに見えてくる。
表情がいい。いろんな顔ができる人。
最終回の母子の会話が秀逸。あのシーンを見られたからこのドラマ完全に結果オーライになった。
息子は精一杯生きたことを伝えたうえで、「それでも、やっぱり、おかあさんに謝りたい。」と先立つことを詫びる。
やっと弱音を吐いた息子に母は「ドアを開けておくから、いつでもいらっしゃい。花が咲いてもあなたが来たと思う。風が吹いても、あなたを感じる。雨が降ってもあなたの気配を感じる。雪が降っても、あなたが来たと思うわ。ありがとう。ジュニョン。」と言う。
ほらね。ラブストーリーじゃないよ。親子の情愛がメインテーマだよ。
いいセリフだなぁ。ふたりともいい芝居だなぁ。
韓国文化なのかなぁ、風や雨に亡くなった人の気配を感じるの。「トッケビ」でもこういう考え方あった。
ちょっと話がそれるけど、韓ドラでは、「来世で」とか、「月日が流れておじいちゃんおばあちゃんになってから」とか、おっそろしく時間が流れてやっと結ばれるパターンがある。
日本では、恋は若いときのほんの一瞬の花火的な価値観があると思うのよ。
恋愛の描き方の違いは、日本の若さ偏重のせいなのか、それとも韓国の時間の感覚が悠大なのか。
韓国の方が、ずーっとロマンチックだなー。

それから、ご都合主義に「死んだと見せかけて実はアメリカの名医によって命が助かり、オレオレ幸せに暮らしました。」といった結末ではなかったのが、これまた良かった。
主人公は余命宣告からの限られた時間で、周囲の人たちの人生をあるべき形に正していく。正義を忘れたウルを、世の中を正すために政治家になった志を忘れた父を、息子に自分の願う人生を歩ませようとした母を、臭いものに蓋をしてきた義兄を。
残されたわずかな時間を、愛する女性のために使うことで、周囲の人たちまでも変えるストーリーでもあった。

うん。やっぱりラブストーリーじゃないわ。


#むやみに切なく
#感想
#キム・ウビン
#ユ・オソン

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