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【美術ブックリスト】 「沖縄画 8人の美術家による、現代沖縄の美術の諸相』土屋誠一、富澤ケイ愛理子、町田恵美編 

2023年8月に沖縄県立芸術大学で開催された同名展の記録。
作品と作家紹介に加えトークイベント「『沖縄画』展をめぐって」の白熱した議論も収録。素材もジャンルもことなり、もともと多様な沖縄の作家たちの作品をあえて地名でくくることへの賛 否がほぼそのまま記載されている。ここまでが概要。

ここからが感想。
作品を見る限り、沖縄に関わりのある画家8人とはいえ、なにか共通する特質があるわけではない。日本とは別の歴史と文化をもった沖縄には、「日本画」とは別の「沖縄画」というものが成立していい、あるいはしているのではないかという著者の「仮説」がもとになっていて、それを探ったプロセスを伝えている。画家の三瀬夏之介さんが20年前に東北芸術工科大学で問いとして発した「東北画は可能か?」の沖縄版ともいえ、実際に三瀬さんがトークのなかでそう言っている。

さて、日本画であれ、東北画であれ、沖縄画であれ、ナショナリズムをもとに他との差別化の一環として命名されたものだと思う。それは自文化への呼称であれ、他の文化圏からの他称であれ、ナショナリズムがもとにあることはかわらない。しかしながら、現代ではそうした概念の組み立て方にあまり説得力はないのではないか。
例えば喜納昌吉やネーネーズは沖縄音楽といえるかもしれないが、安室奈美江やDA PUMPは沖縄発ではあっても、土地に縛られない認知度と人気をもち、決して「沖縄」という言葉で括られることはなく、日本の歌謡シーンの一角として捉えられている。
それと同様で、沖縄発だから、沖縄の名前を冠していいわけではないし、それを望んでいる人は多いとは思えない。
沖縄をことさらに叫ばなくても、認知され、評価され、流通し、残されていく作家と作品を育成していくことが大切なのではないか。

ところで個人的には仁添まりな作品は、沖縄以外でももっと見られるべきだと思う。なんとか東京で展示の機会を増やせないものか。

アートダイバー B5変 80ページ  1500円

【作品収録】
泉川のはな
平良優季
髙橋相馬
陳佑而
寺田健人
西永怜央菜
仁添まりな
湯浅要

【論考】
バラバラなるものたちのアソシエーションとしての「沖縄画」|土屋誠一
沖縄の〈日本画〉一海外からの視点|富澤ケイ愛理子
沖縄の美術の現在地|町田恵美

【収録元シンポジウム】
「「沖縄画」展をめぐって」

登壇者
三瀬夏之介(画家、東北芸術工科大学教授)
大城さゆり(沖縄県立博物館・美術館学芸員)
富澤ケイ愛理子(美術史家、イースト・アングリア大学専任講師)

進行
土屋誠一

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