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【美術ブックリスト】『コンテンポラリーアートライティングの技術』 ギルダ・ウイリアムズ著、GOTO LAB(京都造形芸術大学)監修

編集者でもあり、大学でも教えるイギリスの女性美術評論家の著者が2014年に出版した『How to Write About Contemporary Art』を、後藤繁雄のチームが翻訳し2020年に刊行した翻訳書。

第1章はコンテンポラリーアートについて書くことの役割。第2章は実践的な書き方。第3章は論文、雑誌記事、リリース、アーティストステートメントといった形式別の書き方の秘訣となっている。

何を、どう書くか。書く人の立場によって文の意味合いが異なること、それが論文なのか雑誌記事なのかプレスリリースなのかで描き方が異なること、名刺の選び方、形容詞は1つに絞った方がよい、動詞はたくさんがいいなど、思いつくままにそれぞれの文の書き方を説明していく。
ここまでが概要。

ここからが感想。
まず翻訳がヒドイ。日本語として読みづらい上に意味がとりづらい。訳した人は内容を理解してこの日本語を書いているのかもかなり怪しい。
次に原文や文の構成をなるべくそのまま日本語に移行しようとしているのはいいのだが、原著者の意図を理解していないために余計わかりづくなっている。特に箇条書きの部分。
最後に、そうした訳文のまずさを理解した上で内容を吟味したところ、原著の論述自体に無理がある。というのも、本書は「コンテンポラリーアートについて書く」というテーマではあるが、論文と批評と雑誌などの展覧会評とアーティストステートメントとでは、書く主体も形式も方向性もまるで異なるのだから、それぞれ別個に説明するべきである。それを、名詞の選び方や形容詞の使い方、動詞の集め方といった共通項があるように説明することがそもそもふさわしくない。
またたびたび引用される批評家による批評文がまったく的を射ていないので、読者を余計混乱させる。ベンヤミンやクラウスなどの有名な著述家の文は、一般の人が参考にするには高度すぎて真似するどころか理解すらできないはず。

なんとかアート系ライターや美術系の学生の役に立てるためには、これからでも改訳して、日本人向けに補足や注釈を入れる必要があるのではないか、というのが私の感想。

A5判 320ページ 3520円 光村推古書院


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