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【美術ブックリスト】『いとをかしき20世紀美術』筧菜奈子著

現代美術と装飾史の研究者である著者が、デュシャンからランドアートまでの20世紀美術をマンガとイラストで解説する。文だけでなく、マンガも著者が描いている。
京都の大学で仏像など日本美術史を学ぶ主人公が、美大生と知り合い、抽象絵画、ポップアート、コンセプチュアル・アートなどについてともに学んでいくというストーリー。著名な人物や作品が、すべて写真ではなくイラスト化されて登場する。
現代アートについての入門と中級の間くらいの内容。
ここまでが概要。

ここからが感想。
現代アートを分かりやすく解説するという目的のために、イラストとマンガを駆使して、ストーリー仕立てにして理解させようという意図はよく伝わる。現代書館のフォービギナーズシリーズよりも文が少なく、小林よしのりほど細かくないので読みやすいので、1時間弱で読み終わった。

「現代アートは分かりづらい」ことが前提になっているのだけど、それは20世紀美術に特有なのかもしれない。作品の意味は作品を通して理解されるべきだが、20世紀美術ではそれが明確には示されない。よって、鑑賞者が芸術家の頭の中にあるコンセプトを理解しようと試みることになる。そして芸術家の言葉や作品内のメタファーからそれを読み解こうとするようになると、誤解や難解な批評が介在してますます理解から遠ざかったりする。(それに比べると21世紀の美術は俄然分かりやすい)

さて本書は、そうした難解なアートを主人公とともに「勉強」する体裁になっている。研究者らしく文献表やお薦めの図書も紹介してあって便利なので、入門の最初のステップとしていいと思う。

その一方、見立てや禅との共通点を指摘して、日本の文化と現代アートとの親和性を探るという試みは、蛇足の感がある。したがって「いとをかしき」「謎とき歴史絵巻」といった煽りの割には、その親和性の部分が消化不良というのが正直な感想。

184ページ A5判 1760円 亜紀書房

【目次】

  1. マルセル・デュシャン──アートの定義をひっくり返せ

  2. 抽象絵画Ⅰ ワシリー・カンディンスキー──色と形が音楽を奏でる

  3. シュルレアリスム──見慣れた現実を一皮むけば

  4. 抽象絵画Ⅱ ジャクソン・ポロック──アメリカン・アートの荒野を切りひらく

  5. ポップ・アート アンディ・ウォーホル──華やかで、軽くて、シリアスな

  6. コンセプチュアル・アート ヨーゼフ・ボイス──アイデアはアートを超越する

  7. ランド・アート/環境アート──広大な自然・環境をキャンバスに

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