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【美術ブックリスト】『アートを書く!クリティカル文章術』 杉原賢彦、前島秀国、暮沢剛巳編著

【概要】
2006年に出版された批評文の指南書。美術、音楽、映画の各分野の評論家がそれぞれの特性や書き方の例、有名評論家について解説している。

【感想】
以前と比べて、美術の世界では、評論家の文を読むことが少なくなった。考えられる理由はいろいろある。
世の中全体から評論文が減っている、というかインターネットやSNSに評論まがいの一般人の意見文が増えたことで評論家の意見が特権的でなくなり、わざわざ評論文を必要としなくなった。美術の世界では、美術館やアートイベントのオープニングといえば昔はマスコミと評論家が呼ばれていたが、現在はインフルエンサーと呼ばれるブロガーが呼ばれ、評論家の姿を見なくなっている。
次に評論を必要とするアートが減っていること。例えば写実絵画は見たままなので、それに解釈を必要としない。作家は必要に感じていたとしても、鑑賞者は再現度の高さや描かれた美人にうっとりしたいだけの場合が多く、何かその裏側の意味を探ろうとはしない。ベラスケスやレンブラントのように発掘すべき美術上の意義があればいいけども、現存作家なのでそれもない。
そしてこれがもっとも大きな理由だと思われるけども、評論家の文が硬かったり、難解で需要が減ったこと。特に現代アートの分野では日本語として理解不能な文で言いたいことが分からなかったり、分からないのは読者の力不足と突き放すような文もあるほどだった。また執筆者の独自性を出すためなのか執筆者個人の興味と価値判断だけで作品を論じる、随筆のような文も評論と言われたが、これも現在では求められていない。
平たくいえば、評論にニーズがなくなった。
さて本書は、これから評論文を書きたい人のために書かれたようなのだけど、書き方や取材方法が示されるわけではない。過去にはこんな評論家がいたので、参考にしよう、ということか。美術評論は悪文になりがちな理由が、逆説的に分かった気がする。

追記
評論家の独自解釈としての評論に代わって現在のニーズに合っているのは、ある分野の共通理解としての「教養」である。教養というと、これまでは歴史的名画の知識がこれを満たしていたけども、今後は今の時代のアートについての教養つまり目の前の作品を誰にでも分かる道具立てで根拠を示して理解することが求められている。

218ページ フィルムアート社




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