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【美術ブックリスト】『評伝良寛:わけへだてのない世を開く乞食僧』阿部龍一著
江戸時代の禅僧、良寛について様々な角度から光を照らす評伝。
相馬御風、斎藤茂吉、夏目漱石といった大正期の文豪によって顕彰されることで全国的に知られるようになった経緯から書き起こされる。一般的な伝記と異なり、環境、宗門との関係、そしてなにより残された詩歌に深く分け入って読み解くことで、良寛像を更新する。
ここまでが概要。
ここからが感想。
良寛といえば童心のような純粋で素朴な人柄の「大愚」のイメージで語られる。それはそれで間違いではないのかもしれないが、地位や財産を捨て、宗門から離れて他者の救済に幸福を得た生涯の意味はそれでは汲み尽くせない。江戸時代後期の格差社会に分け隔てなく癒し、励まし、慰めた良寛の生き方は現代にも必要な指針だと思った。
592ページ A5 8000円+税 ミネルヴァ書房
【目次】
はしがき
序 章 大正五年春の良寛——良寛の近代性を求めて
1 相馬御風の新潟帰郷と良寛
御風の文学の方向転換
御風が発見した「良寛」
良寛の越後帰郷と御風の糸魚川への還元
2 斎藤茂吉の和歌の近代化と良寛
茂吉と万葉集と良寛
茂吉が注目した良寛の写生
3 夏目漱石が良寛の詩と書に見たもの
漱石が良寛に送った賛辞
近代書道の変容と漱石の批判
「守拙」の実践としての良寛の創作
漱石が見た「大愚」の真価
第一章 良寛の生い立ちと教育
1 良寛を生み育てた時と場
幕府直轄地としての出雲崎
橘屋山本家の名主職と幕府の行政
生家の学問と教養
幕府の治世イデオロギーの破綻
2 良寛の学問の始まり——寺子屋教育の普及と良寛
なぜ良寛は地蔵堂で教育を受けたのか
江戸後期の手習塾の実用的教育法
読み書きと表裏一体の道徳教育
3 良寛の本格的な学問——古文辞学の習得
古文辞学と漢詩
禅僧大舟——古文辞学と禅仏教の接近
大森子陽の江戸での学問
子陽の地蔵堂帰郷とその後
良寛が三峰館で受けた高等教育
体制的儒教と古文辞学の違い
朱子学への批判としての古文辞学
切磋琢磨——良寛詩に示される古文辞学の成果
孔子の「正名」と徂徠の「弁名」と良寛の「戒語」
第二章 失踪、放浪、出家——良寛の疾風怒濤時代
1 失踪と出家——良寛の転身
良寛の「欠落」と放浪
良寛の禅僧としての出家
2 経世の学としての古文辞学と良寛の人生の選択肢
実学としての古文辞学
徂徠の「旅宿の境界」
旅宿の境界解消への抜本策(一)——土に付く
抜本策(二)——礼法制度
3 良寛の生家失踪と出家の原因
一八歳の良寛が見た橘屋山本家の現状
出雲崎名主職を継ぐことを拒絶した現実的な理由
良寛が禅仏教を選択した理由
第三章 良寛の禅の修行と宗門教団
1 円通寺での禅仏教の修行
出家と円通寺僧団への入門
越後からの旅立ち——父以南と母のぶとの別れ
修行生活の日常
円通寺の年中行事
作務の重視
母のぶの三回忌——大而宗龍への参禅は重要だったか
父以南との再会
2 禅僧としての良寛の精神的危機
大忍国仙からの印可——良寛の道号と法諱について
国仙から与えられた印可の偈
良寛詩「読永平録」と『正法眼蔵』
「疎懶」の語が示す極上のものぐさ
良寛詩「夜読永平録」に描かれた良寛の翻身
3 円通寺教団からの離脱
僧院での修行生活で直面した疑問
修業時代の孤独
『正法眼蔵』の読習の衝撃
4 宗門の諸国行脚を棄却する
諸国行脚と『正法眼蔵』
「本色行脚僧」としての良寛
『正法眼蔵』の教えと宗門寺院の実態の落差
仏教の実情を見る庶民の眼
「曹洞宗」という歴史的虚構
『正法眼蔵』に注がれた良寛の涙
第四章 乞食僧良寛の誕生への道程
1 修行の行き詰まりとその打開
土佐での苦悶
『荘子』学習の意味
2 真の修行の旅としての「遍参」を追求する
行脚、放浪から遍参へ
天神の夢と望郷の念
遍参としての山陽道から紀伊への旅
良寛が学んだ『法華経』の教えとは
良寛の旅と「衣裏懸珠」の喩え
3 父以南の死と良寛の禅修行の深化
父以南の京桂川入水の意味
以南の漂泊と良寛の遍参の近似点
以南の死と良寛の修行の方向転換
他者への思いやりと良寛の禅修行
福田の思想——他者のための実践としての乞食行
4 越後への帰郷に向けて
天真仏と真父と越後の山河
夜の雁
越後への道程
帰郷をめぐる諸説
越後の人と自然に迎え入れられる
第五章 良寛が成し遂げたもの——五合庵時代を中心に
1 乞食僧良寛の日常
五合庵の環境
天真に生きる
乞食行の毎日
乞食行の支援者たち
良寛が乞食行に持参した品々
旅宿の境界を打ち消す良寛
良寛の食事——人々とつながる修行として
豊穣なる孤独の時
故郷の平穏を守る誓い
無用の僧とは
2 良寛の仏教の特徴
良寛の悟り
自虐的表現の真意
なぜ良寛は法事を行わなかったのか
諸宗派の垣根を超えて行く乞食行
良寛と戒律
3 大而宗龍との比較
宗龍の生涯と業績
宗龍はなぜ終生懺悔行を続けたのか
良寛の無価の実践
第六章 乞食僧の言葉が紡ぎ出す美の世界——乙子草庵時代の円熟
1 良寛の書の独創性
書家ぎらいの名筆
文化文政期の文人たち
職業化する文人と書画会の流行
良寛の筆を動かしたもの
書と月と心と
「痩」と「疎」——乞食僧の書
良寛の「拙」
2 越後の人々に育まれた良寛の詩歌
良寛の書と詩歌の即興性
良寛の周囲の在村文人たちの実力
良寛の真の理解者だった原田鵲斎
阿部定珍と良寛と詩歌
良寛の詩論
言と事——良寛の言語感覚
体制批判を兼ねた良寛の歌論
自画像から見た良寛の書と詩歌
第七章 良寛のなぐさめとはげまし——島崎草庵時代からの回顧と展望
1 良寛の悲しみと慰め
老いと病を見つめ見極める
死の悲しみを慰める
大災害を耐え忍ぶ
貧窮者と疫病の犠牲者を見つめる目
生家の没落と良寛
2 人の心に届く良寛の言葉使い
意味の言葉から力の言葉へ——良寛の「戒語」
業としての言葉の力
世界を変革する「愛語」の力
説教嫌いの良寛の教え
3 良寛の喜びと励まし
良寛と盆踊り
子供たちと戯れる
女性への感謝と理解
歪曲された『法華経』の龍女の物語
良寛による龍女譚の正しい解釈と賛美
遊女への思いやり
なぜ貞心尼は良寛のよき理解者となったのか
良寛と貞心尼が共有した仏教の深い理解
永遠の世界への回帰
終 章 良寛のおきみやげ
「おれがの」
幸福への方程式
淡雪の一片による浄化
参考文献
あとがき
良寛略年譜
索引
人名索引
事項索引
良寛詩歌初句索引
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