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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#アート

【美術ブックリスト】 『ひと目でわかる アートのしくみとはたらき図鑑』池上英洋監修 岡本由香子訳

【概要】 アートの概念から素材や道具、技法、世界各地の伝統美術と現代までの美術史などを概略したビジュアル重視の図鑑。有名絵画も写真でなくイラスト化して示す。 【感想】 調べるのではなく、ページをめくりながらアートをざっくり知るには便利。 創元社 24×20.3cm 224ページ 4000円

【美術ブックリスト】 『古家野雄紀 ーDOUBLE HELIXー』古家野雄紀著

【概要】 日本画と現代アートを行き交う次世代注目アーティスト、古家野雄紀の初画集。小さな可愛いキャラクターたちが、群像となって宇宙の渦を形成したり大波のなか舟を漕いだりするポップで楽しいアートが満載。中島千波、玉井伸弥とのざっくばらんな鼎談も楽しい。 【感想】 画家にとって画集の出版はひとつの区切りであり、画業のステップの1つ。その意味でこれまでを振り返るとともに、新しい展開への布石にもなる。今後に注目したい。 求龍堂 A4変 176ページ 3800円

【美術ブックリスト】『アートコレクター入門: 銀座老舗画廊の主人と学ぶ特別教室』田中千秋著

【概要】 著者は銀座の画廊・秋華洞のオーナー。 画廊で月一回開催される「アート講座」8回分という架空の対話型講義が設定され、その参加者の一人でレストラン経営者の栗田という人物の立場から見聞きしたストーリーということになっている。 講義ではアートとは何か、芸術と美の関係とは、書とは何かといった概念から、宗教との関わり、値づけ、税金についてなど、あらゆる角度で解説。アートが投資になるか、ビジネスにどう役立てるかといった今日的な話題にも言及しつつ、アートとは人生を楽しむものであり、

【美術ブックリスト】『How to Collect Art』 Magnus Resch著

【概要】 これまで『画廊経営(Management of Art Gallery)』『アーティストで成功する方法(How to become a successful Artist)』といった、アート業界の担い手になる指南書を続けて刊行してきた著者による「アートコレクションの方法」についての指南書。  アートを買うことでもたらされる喜びを概説したあと、美術品は金銭的な投資には向かないことが早々に語られる。アートコレクションは楽しい。では、どこで、どの作家の作品を買うのがいいか

【美術ブックリスト】『もっと知りたいキュビスム』松井裕美著

東京美術「もっと知りたい」シリーズの一冊。 国立西洋美術館で開催中(2024年1月28日まで)でいままた注目されるキュビスム。ピカソとブラックの実験的試みを起点に、同時代の科学や思想を取り込みながら、絵画のみならず、彫刻や建築、テキスタイルまで多様で国際的な展開を見せた潮流を、様々な芸術家の試みと作品を通して理解する。 ここまでが概要。 ここからが感想。 まず図版が大きめできれい。解説は長文が多く、平易とはいえないけども、学者が書いたわりには読みやすい。 キュビスムというと

【美術ブックリスト】『虫めづる美術家たち』芸術新聞社監修

満田晴穂、佐藤正和重孝、 牟田陽日、福井敬貴など本誌でもおなじみの虫をモチーフに選んだ彫刻家・工芸家など美術家20名が大集結。昆虫とアートがクロスオーバーする現在の状況、昆虫学者の丸山宗利氏による解説、安村敏信氏の日本美術に描かれた虫たちの解説など「昆虫愛」に満ちた一冊。 ここまでが概要。 ここからが感想。 月刊美術では過去に「ムシとアートの相似形」という特集がある。パート2も企画されたほどの人気だった。これを企画・担当したのが同僚Sで、本書にも登場して昨今の虫アートの人気

【美術ブックリスト】上路市剛作品集『受肉|INCARNATION』上路市剛著

ミケランジェロ作のダビデ像、康勝作の空也上人立像などの著名作品をモチーフに、生身の人間のようにリアルな彫刻へと作り上げる彫刻家による作品集。 美術史では語られてこなかったが、著者はこうした過去の作品には「同性愛的美意識」があったはずで、それを現代的な視点で再現しているとのこと。原型制作、型取り、彩色、植毛などの工程を経た制作は、彫刻というより「受肉化」といった方が良いようで、タイトルはそれに因む。巻末に制作に関する作家インタビューを収録。 上路市剛によるオリジナル義眼(桐

【美術ブックリスト】 『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』奥本素子 編

サイエンスコミュニケーションとは、科学についての対話や合意形成を成り立たせるコミュニケーションのこと。例えば原発について、ワクチンについて、ヒトゲノムについてなどは、専門家だけでなく広く一般の合意にもとづいて決定されるべき事案であり、それには専門的な知識を多くの人びとに理解してもらうための告知や説明が前提として求められる。 本書はそうしたサイエンスコミュニケーションに、アートを活かす方法を、実例を豊富に挙げて探っていく。 冒頭でアートとは現代アートを主に取り扱うことが宣言さ

【美術ブックリスト】『パブリックアート入門』浦島茂世著 イースト・プレス

副題は「タダで観られるけど、タダならぬアートの世界」。 街中や公園、駅や建物などの公共空間に設置される彫刻や壁画をパブリックアートという。本書は全国各地のパブリックアートの具体例を挙げて、設置の経緯、制作者の意図、市民の反応などをひとつひとつ解説していく。岡本太郎の「太陽の塔」「明日の神話」、瀬戸内の草間彌生のかぼちゃなど、著名芸術家のものから、商店街の片隅の銅像まで範囲は広い。 どんな時代の要請でこうした彫刻や壁画が「生産」され、「消費」され、時に「廃棄」されるのかという歴

【美術ブックリスト】『イノベーション創出を実現する「アート思考」の技術』長谷川一英著

少し前から流行しているアート思考について、経営者の立場から実例をあげてその意義を解説する本。 著者は創薬研究ののち、新規事業・企業変革コンサルティングの会社を経営する企業人。産業とアーティストとのコラボレーション(アーティスティック・インターベンションというらしい)を促すことで、「イノベーションを創出」し「鮮やかな未来社会を築く」と謳う。 アート思考を「アーティストが作品を制作する過程での着眼点や問題意識、それらを発展させていくための思考方法」と定義し、特に現代アートのアー

【美術ブックリスト】『神の値段』一色さゆり著

ミステリー小説。2016年の「このミステリーがすごい」大賞でグランプリとなった2作品のうちの1つ。 美術業界を舞台に、書を現代アートとして高めたとされる美術家の作品をめぐって、画廊オーナー、世界的コレクター、学芸員といった人々が交錯しつつ殺人事件が起こり、画廊スタッフである主人公が謎を解いていく。画廊、倉庫、アトリエ、オークション、アートフェアなどあまり知られていない場所を行き来して物語は進む。 ここまでが概要。 ここからが感想。 『ピカソになれない私たち』という美大生を描

【美術ブックリスト】『いとをかしき20世紀美術』筧菜奈子著

現代美術と装飾史の研究者である著者が、デュシャンからランドアートまでの20世紀美術をマンガとイラストで解説する。文だけでなく、マンガも著者が描いている。 京都の大学で仏像など日本美術史を学ぶ主人公が、美大生と知り合い、抽象絵画、ポップアート、コンセプチュアル・アートなどについてともに学んでいくというストーリー。著名な人物や作品が、すべて写真ではなくイラスト化されて登場する。 現代アートについての入門と中級の間くらいの内容。 ここまでが概要。 ここからが感想。 現代アートを分

【美術ブックリスト】『誰のための排除アート?: 不寛容と自己責任論』五十嵐太郎

著者は建築史が専門の大学教授。 寝そべることのできないベンチ、突起物で埋め尽くされた空き地など、都市空間にたくさん見られる「排除アート」の成立と問題点を考察する。2020年東京・幡ヶ谷で起きた女性ホームレス殺害事件を機にひろがったものだが、それ以前から新宿西口地下街のホームレスを排除したあとに動く歩道とともに設置された突起物など前例は多数あった。 ホームレスという特定の層のみに有効な排除目的のものがアートの名目で公共空間に増えることへの疑問から、実態を批判的にレポートしたのが

【美術ブックリスト】『The Art World Demystified』Brainard Carey 著

タイトルを訳すと『アートの世界の謎を解く』。 副題は「How Artists Define and Achieve Their Goals(アーティストはいかにして目標を設定し達成するか)」。 著者自身が現代アーティストであり、これまでにもアーティスト向けに『アートの世界で成功する』『SNSでうまくいく』『ネットで売ろう』といった指南書を執筆している(全部英語)。 本書は、謎めいたアートの世界を解き明かすのがテーマ。著者自身の体験と考察に加え、さまざまなインタビューで構成