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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#絵画

【美術ブックリスト】『50の傑作絵画で見る 聖書の世界』ジェラール・ドゥニゾ 著

聖書の50のエピソードから伝説的な物語を読みなおすとともに、美術史に残る見事な絵画を味わえる。「十字架にかけられたイエス・キリストの下にいる人物は?」「最後の晩餐を描いた絵で、イエスを裏切った弟子のユダはどこにいる?」などキリスト教絵画を一歩踏み込んで理解できる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 本書は大きな判型で作品を見やすく掲載。細部についての解説も細かい。「プレゼントに最適」とのコピーがついているとおり、本棚にあるとちょっと箔がつくかんじもする。 【余談】 Yo

【美術ブックリスト】 『図説 聖書物語 新約篇』 山形孝夫著、山形美加図版解説

新約聖書の内容を順を追って解説。中心となる福音書を、キリストの神の国運動についてのマルコ、マタイ、ルカ、ヨハネという四人の記者による言行録と捉え、重複した内容を一本化して物語として語る。それぞれの場面を描いた絵画をちりばめて挿絵のように掲載することで、物語を理解しやすくしている。 2002年に出版され、ロングセラーを続ける本で、最近「新装版」として発刊された。 ここまでが概要。 ここからが感想。 世間では、西洋の絵画を理解するにはキリスト教の知識が必要であることから、その両

【美術ブックリスト】『韓国近代美術研究―植民地期「朝鮮美術展覧会」にみる異文化支配と文化表象』金惠信

2005年に刊行された韓国の植民地時代の美術に関する研究。「朝鮮美術展覧会」(鮮展)について、その日本の植民地支配の影響を表象分析する。その際、ジェンダーの視座で、描かれたモチーフを分類していく。 第1章は西洋絵画が韓国にどのように導入されたか。第2章は、韓国併合によって日本の統治が始まり、文化政策の1つとして日本の官展である文展に倣って朝鮮美術展覧会が開設され、それがどのように運営されていったか。第3章では朝鮮美術展覧会でどのような作品が評価されたかを検証。支配と被支配の

【美術ブックリスト】 『キリスト教美術史-東方正教会とカトリックの二大潮流』瀧口美香著

 西洋美術史を学ぶとなると、大抵はギリシア・ローマの古代美術と中世のロマネスクとゴシックのキリスト教美術を前史として、ルネサンスからバロック、ロココ、古典派、ロマン派、印象派、表現派、現代という歴史が語られる。そしてそのほとんどがキリスト教をモチーフにしているか、キリスト教的な世界観や信仰を前提にしているとされる。  著者はそれはローマン・カトリック美術という、キリスト教美術全体の半分しかなしていないという。残された半分とは、東方正教会に引きつがれているギリシア・ビザンティ

【美術ブックリスト】『世界史で読み解く名画の秘密』内藤博文著

ジョットとイタリア都市国家、ラファエロと教皇たち、ミケランジェロと反宗教改革、レンブラントとオランダ海上帝国など、誰もが知る画家と当時の歴史状況あるいは歴史上の人物との関係を解説していく。ルネサンスがほとんどだが、ゴーギャンと帝国主義、ピカソと世界大戦など近代までカバーしている。 ここまでが概要。 ここからが感想。著者は1961年生まれの歴史ライター。私より10歳ほど上の割には、言葉が古いというか、あまり使われない言葉が散見される。「奸雄」(かんゆう. 悪知恵を働かせて英雄

【美術ブックリスト】『物語で読む国宝の謎100』かみゆ歴史編集部

国宝といっても絵画、彫刻、工芸、歴史的資料、建造物など多岐にわたり、現在のところ1131件もの登録がある。という。その国宝にまつわるウンチクを100問のQ&A方式で解説したもの。第1章「知っておきたい国宝の基礎知識」は、重要文化財や重要美術品とどう違うか、国宝は誰が決めているのかなどの基本を教えてくれて勉強になる。第2章から個々の美術品や建造物についての、知っていると話しのネタにはなる小噺が続く。 ここまでが概要。 ここからが感想。 「物語で読む」「ドラマがある」という割に

【美術ブックリスト】『春はまた巡る』デイヴィッド・ホックニー

イギリスの著名画家ホックニーの現在のライフスタイルや発言を、美術評論家のマーティン・ゲイフォードがインタビューやメール、SNSでのやりとりを組み合わせてまとめたもの。副題は「芸術と人生とこれからを語る」。 プールのある情景などで知られる現代ポップアートの代表作家であり、古典絵画についても造詣が深い。2人の前著『絵画の歴史』は洞窟壁画からipadで描く絵画までを創作者の立場から解説して相当面白かったが、今回はいわばホックニー自身が生活の中でどう描いてきたか、何を考えてきたかを記

【美術ブックリスト】『野田弘志 真理のリアリズム』

「野田弘志 真理のリアリズム」展は日本における写実絵画の現存する代表画家・野田弘志の最初期から近作までを選りすぐった回顧展。そのために制作された展覧会図録兼書籍が本書。 学生時代の作品、広告会社時代のイラストやデザイン、黒を背景とした細密な静物画、新聞連載小説の挿絵原画、大作シリーズ、近年の等身大人物画シリーズなど、余すところなくその画業を網羅している。 絵画作品はページに一点と大きく掲載してあるので細密さ、写実性がよく分かる。逆に挿絵やドローイングはモノクロ図版で多数掲

【美術ブックリスト】らちまゆみ『大人の雑学 西洋画家事典 - 人柄がわかるエピソードで楽しく読める!』

著者はどうやらラジオでアートを語る番組のナビゲーターとのこと。美術や画家にまつわるエピソードを解説しているようです。Youtubeでも配信しているとのことで2本ほどみたのですが、美術系ユーチューバーには珍しい若い女性でした。 さて本書はラジオで語ってきた内容の書籍化。ボッティチェリ、カラヴァッジオ、ピカソなど有名どころの歴史上の画家を時代を追って解説していきます。美術的な内容よりも、人柄や生き様にフォーカスしているところが他との違いといえば違いです。35人の画家を紹介してい

【美術ブックリスト】大槻香奈『日本現代うつわ論1』

少女をモチーフに描き続ける画家・大槻香奈が、「空虚」をテーマに友人・知人の画家、写真家人形作家と交わしたインタビューや論考を集めたのが本書。 大槻が感じてきた日本の「中心のなさ、主体性のなさ、空虚さ」を、これまで空・殻といった言葉で言い表してきたが、それが多様なかたちの中空構造という積極的な意味をもつ「うつわ」として捉えなおしたいということのよう。大槻によればボーカロイド、バーチャルユーチューバー、VTuber、量産されるアニメキャラクター、大人数のアイドルグループなどが「

【美術・アート系のブックリスト】 小針 由紀隆『サルヴァトール・ローザ—17世紀イタリアの美術家が追い求めた自由と名声』

サルヴァトール・ローザは、17世紀イタリアの風景画家。 こう書いても日本人にはあまりビンとこないかもしれないが、「風景画家」と呼ばれることは、当時の画家にとってはある意味屈辱的だったかもしれない。というのも、絵画ジャンルにはヒエラルキーがあり、神話画や歴史画といった上位ジャンルに対して、風景画や戦闘画は下位に置かれ、実際ローザは神話画なども描いていたにもかかわらず、風景画でしか評価されずに憤っていたとされる。  またパトロンに依存する伝統にも反発し、注文ではなく展覧会で発

【美術・アート系のブックリスト】高山百合「近代日本洋画史再考──「官展アカデミズム」の成立と展開」

官展とは、官設展覧会のことで、明治40年を第一回とする文展(文部省美術展覧会)を原点に、そののち帝展、新文展、日展と名称を変えていった日本特有の展覧会のこと。日展は昭和33年に完全に民営化されるので、厳密には日展も入るのだが、一般には戦前の日展以前の官展を指す。  本書はその成立と展開を追いながら、「官展アカデミズム」と呼ばれる穏健な写実表現の意義と評価の変遷についても言及していく。とはいえ厖大な展覧会の回数、厖大な画家、厖大な作品を対象とすることはできない。そこで著者は、

【美術・アート系のブックリスト】杉全美帆子 「イラストで読む 新約聖書の物語と絵画」

イラスト読むシリーズの最新刊。これまでルネサンスの巨匠、印象派の画家といった美術からギリシア神話、旧約聖書とテーマを広げ、今回の新約聖書の刊行となった。 イエス、マリア、使徒たちといった登場人物や受胎告知、復活といった主要なトピックを、イラストとマンガに混じって西洋絵画も登場させて説明していく。 読者を飽きさせない工夫が満載で、かなり自由な作り。聖書の物語についてざっくり知りたい人にはオススメです。 河出書房新社 1837円

【美術・アート系のブックリスト】佐藤優「大人の教養ドリル」

作家で元外務省主任分析官の佐藤優による教養本。大人ノが知っておくべき一般教養を8つのジャンルでドリル形式で指南していく。巻頭は「政治)で、日本国憲法やアメリカの政治制度、イスラム国や中国などを解説。すると2番目には、経済や哲学、文学などを抑えて「美術」が続く。古代ギリシア、ルネサンス 、バロック現代アートなど、かなりざっくりだが一通り問題と解説で紹介している。佐藤さんはプロテスタントのクリスチャンで、西洋美術にも造詣が深い。 深掘りするのではなく、一通り全ジャンルのトピックを