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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#画家

【美術ブックリスト】 『世界奇想美術館 異端・怪作・贋作でめぐる裏の美術史』エドワード・ブルック=ヒッチング著 

【概要】 疑問だらけの傑作・怪作・珍作・贋作を語りつくす。賢者の石のつくり方が暗号で記されているという「リプリー・スクロール」、妖精画《お伽の樵の入神の一撃》、死者の戴冠を描いた《1361年のイネス・デ・カストロの戴冠》など、無名の画家たちの作品の数々。図版270点以上。 【感想】 『地獄遊覧』の著者による歴史に埋もれた「裏の美術史」。水中画家プリチャードの作品、アメリカ人画家サラ・グッドリッジによる胸だけの自画像、死体が朽ちていく様を描いた日本の九相図のほか、贋作、捏造、

【美術ブックリスト】『長沢蘆雪「かわいい」を描く筆』金子信久

大阪中之島美術館(開催中〜12月3日)、のちに九州国立博物館に巡回する生誕270年展を開催している長沢蘆雪は「奇想の画家」の1人とされる江戸時代中期の画家。そのもう一つの顔は、子犬などのかわいいもの好きだったこと。柔らかく表現されたかわいい作品にフォーカス。拡大図を多用して細部まで探る。 ここまでが概要。 ここからが感想。 とにかく図版が大きくて、拡大して細部を見えるようにしている。 「かわいい」がテーマで、子犬、子ども、雀まではテーマ通りなのだが、後半の虎あたりから「かわ

【美術ブックリスト】『絵が売れないことを誇りに思え!』佐々木豊著

美術家を志す若者に影響を与え続けてきた88歳の現役洋画家の渾身のラストエッセイ集。表題は恩師・三尾公三氏の言葉から。制作だけでなく、いかに売れて世に出るかを本気で考えた画家人生を赤裸々に綴る。同世代画家への嫉妬、若手画家へのエールに純粋さが表れる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 佐々木さんの著作はこれまでも何冊か読んできた。画家になりたい一心で、若くから制作し、発表し、買い手を探し、ライバルを研究し、自己プロデュースしてきた体験はエッセイ集などで端々に記されてきたが、

【美術ブックリスト】『イラストで読む 奇想の画家たち』 杉全美帆子著

「イラストで読む」シリーズの一冊として2014年に刊行された本の新装版。ボス、デューラー、カラヴァッジォ、ゴヤ、ブレイク、ルドン、ルソーといった美術史の鬼才たちの作品と生涯をイラストで解説する。 時代時代の主流とは離れた形で彼らが制作した作品の意義や、画家自身の数奇な人生や個人的トピックを解説している。 ここまでが概要。 ここからが感想。 いまでは類書がたくさんでているけども、画家たちについてちょこっと知るにはちょうどいいかも。 カラヴァッジォが通称で、本名はミケランジェ

【美術ブックリスト】『ジヴェルニーの食卓』原田マハ

2009年から13年に「すばる」に発表された4編の短編集。 主人公はいずれも女性。家政婦がマティスの思い出を語る独白、自身も画家だったメアリー・カサットのドガの彫刻についての証言、ゴッホの人物画のモチーフにもなった画材屋のタンギー爺さんの娘がセザンヌに向けて書いた手紙、モネの制作と生活を支える娘の日常描写といった具合。 著者の出世作『楽園のカンヴァス』と同時期に書かれた模様。 ここまでが概要。 ここからが感想。 印象派以降の画家にまつわる史実をもとにしたフィクションを得意と

【美術ブックリスト】『絵が上手いより大事なこと』永山裕子

画家・永山裕子による書き下ろしの指南書。 「絵画教室に通うメリットは?」「どんな体勢で描いていますか?」「絵のサイズはどうして決めていますか」「行き詰まったときはどうしてますか?」「絵にメッセージ性は必要ですか?」など、学び方から技法的、技術的な疑問、描くときの心理など68の質問に、自身の体験や具体的なエピソードで答えていく。 観念も理屈もなく、生きてきたなかで身につけたことを言葉にする。 図版も120点と豊富で、回答に対する具体例になっている場合がほとんど。アトリエの風景や

【美術ブックリスト】『The Art World Demystified』Brainard Carey 著

タイトルを訳すと『アートの世界の謎を解く』。 副題は「How Artists Define and Achieve Their Goals(アーティストはいかにして目標を設定し達成するか)」。 著者自身が現代アーティストであり、これまでにもアーティスト向けに『アートの世界で成功する』『SNSでうまくいく』『ネットで売ろう』といった指南書を執筆している(全部英語)。 本書は、謎めいたアートの世界を解き明かすのがテーマ。著者自身の体験と考察に加え、さまざまなインタビューで構成

【美術ブックリスト】『世界史で読み解く名画の秘密』内藤博文著

ジョットとイタリア都市国家、ラファエロと教皇たち、ミケランジェロと反宗教改革、レンブラントとオランダ海上帝国など、誰もが知る画家と当時の歴史状況あるいは歴史上の人物との関係を解説していく。ルネサンスがほとんどだが、ゴーギャンと帝国主義、ピカソと世界大戦など近代までカバーしている。 ここまでが概要。 ここからが感想。著者は1961年生まれの歴史ライター。私より10歳ほど上の割には、言葉が古いというか、あまり使われない言葉が散見される。「奸雄」(かんゆう. 悪知恵を働かせて英雄

【美術ブックリスト】『図説 セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」の世界』工藤弘二著

セザンヌがライフワークとして終生描き続けた故郷の象徴《サント=ヴィクトワール山》。制作の歩みと背景、見どころを徹底解説。パリとプロヴァンスの風景画とも対比しつつ油彩画、水彩画など全83点を収録。いわば「まるごと一冊サント=ヴィクトワール山」ともいうべき永久保存版。 ここまでが概要。 ここからが感想。 文字と図版のバランスがいいので、見ていて楽しい。美術史を学ぶと、ある作品を論じるのに同じ画家の別作品を参照して比較する必要がある。こうして同じモチーフを網羅してあると、初学者に

【美術ブックリスト】『ジェームズ・アンソール : 仮面と骸骨の幻想』 (自作を語る画文集)

同社の《自作を語る画文集》シリーズの一冊。著書、書簡、講演録、インタビュー、展覧会のコメントなど、画家自身が残した言葉を作品画像とともに編集することで、画家自身を語る画文集。 アンソールは、近代ベルギーを代表する画家の一人。表現主義やシュルレアリスムの先駆ともされる。仮面と骸骨を多用した画家で、なぜそんな不気味なモチーフを選んだかなどの謎に迫る。 幼少期の思い出、美術学校で何を考えていたか、コンクールへの野心など、その都度アンソールが考えたことを追っていく。ルーベンスを敬

【美術ブックリスト】『野田弘志 真理のリアリズム』

「野田弘志 真理のリアリズム」展は日本における写実絵画の現存する代表画家・野田弘志の最初期から近作までを選りすぐった回顧展。そのために制作された展覧会図録兼書籍が本書。 学生時代の作品、広告会社時代のイラストやデザイン、黒を背景とした細密な静物画、新聞連載小説の挿絵原画、大作シリーズ、近年の等身大人物画シリーズなど、余すところなくその画業を網羅している。 絵画作品はページに一点と大きく掲載してあるので細密さ、写実性がよく分かる。逆に挿絵やドローイングはモノクロ図版で多数掲

【美術ブックリスト】松本典昭『図説 メディチ家の興亡』

ルネサンス発祥の地・フィレンツェを支配した富豪の家系がメディチ家。芸術を保護し、ルネサンスの原動力ともなった一族の500年の歴史を豊富なビジュアルで解説する。 銀行の経営から始まり、二人のローマ教皇と二人のフランス王妃を生んだ経緯などを時代時代の状況とともに説明してくれるため、ひととおりのことはわかる。ここまでが概要。 ここからが感想。 レオナルドやミケランジェロ、ボッティチェリやルーベンスなどの画家が関係し、実際に肖像画や結婚式の模様を残していることがわかる。そうした絵

【美術ブックリスト】林洋海『印象派とタイヤ王: 石橋正二郎のブリヂストン美術館』

ブリヂストンの創業者・石橋正二郎は、印象派を中心にコレクションを築き上げ、ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)、石橋美術館(現・久留米市美術館)、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本間、東京国立美術館の四つの美術館を造った。 戦時中は美術品の売買は盛んで、敗戦後も進んで購入していった。そうした具体的なエピソードの連続で読者を飽きさせない。例えば日動画廊の長谷川仁氏が、セザンヌの一級の作品を購入できる人物として石橋氏以外に思いあたらず、直々に交渉した経緯も綴る。ここまでが概

【美術ブックリスト】岡部昌幸監修『西洋美術 105人の巨匠』

105人の画家の代表作と逸話をたどることで、西洋絵画史を一気に理解できると謳う。ランブール兄弟、ファブリアーノで始まるところから見て分かる通り、有名画家ばかりでない。ファン・エイクでようやく知られた名前にたどりつき、13番目にやっとレオナルド・ダ・ヴィンチが登場する。 画家ひとりにつき代表作1ないし2点の作品画像を掲載して解説。作家については画業よりも人間関係、師弟関係、金銭問題、犯罪、自殺などのエピソードを豊富に紹介しているのが特徴。ここまでが概要。 ここからが感想。1