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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#書評

【美術ブックリスト】Brainard Carey『Making it in the Art World : Strategies for Exhibitions and Funding』

訳すと『美術界で成功する : 展覧会と資金集めのための戦略』となる。 著者は奥さんとアートユニット「Praxis」を結成してコンセプチュアルアートやパフォーマンスを展開するアーティスト。無名だったにもかかわらずさまざまな「戦略」によって美術館で個展を開催するようになるまでになった。そんなアーティストとして成功するまでに実際に試した方法を次々と解説するのが本書。 例えば、これからやろうとしているプロジェクトをDVDにまとめ、すでに有名になっているアーティストたちに送って資金

【美術ブックリスト】出水徹著, 土方明司監修『出水徹 作品集 Toru Izumi Works of Art』

出水徹(1926-)は師範学校卒業後、故郷の小豆島で教職についたものの、学問の道を志して早稲田大学で哲学科を学んだ。卒業後は独学で絵を制作。日展ののち1961年からはモダンアート展を中心に、グループ展や個展などで発表してきた。90歳を過ぎた出水の初期具象絵画から最新の抽象作品まで、タブロー100点とデッサン127点をオールカラーで紹介する画集。ここまでが概要。 ここからが感想。画家は大学で実存哲学を学んだらしい。確かに人間の苦悩の姿を描いた作品やいかにも現代社会の疎外状況を

【美術ブックリスト】大浦一志『雲仙普賢岳 被災民家跡を発掘する』

1990年11月長崎県島原半島の雲仙普賢岳が噴火。翌年6月には大火砕流が発生し43人の死者・行方不明者を出す大惨事となった。 このとき一人の新聞記者が遺した火砕流を間近から捉えた写真との出会いをきっかけに、武蔵野美大教授である著者は1992年から現地を訪れ、被災した家屋の玄関扉の風化や残骸となったトラックを掘り起こして道の駅に設置するなどの活動を続け、記録してきた。それはさらに被災民家を発掘するプロジェクトへと展開していった。 本書は25年にわたる著者の「噴火後の自然を実

【美術ブックリスト】 江里康慧『仏師から見た日本仏像史 一刀三礼、仏のかたち』

仏像の歴史はこれまで日本美術の美術史学の研究対象であった。つまり主に大学教授や美術館学芸員によって語られてきた。本書は現役の仏師が、制作者の視点から日本の仏像について、伝来から発展、衰退と復興といった歴史を解説する。フォルムつまり外見や構造つまり設計の変遷に終始するのではなく、制作技法が時代によって変化していった必然性や使用される素材が日本の風土に根ざしているという解説など、実際に制作するからこそ指摘できる見解が多い。 もともと悟りの境地は不可視であることからインドでは像は

【美術ブックリスト】 八木透・監修『日本の鬼図鑑』

中国で鬼は「死霊」、つまりゾンビのようなイメージらしいが、日本では河童や天狗と並ぶ三大妖怪とされる。本書は、室町時代以降に描かれた約160点の絵画史料とともに、大江山の酒呑童子、百鬼夜行、金太郎の鬼、一寸法師の鬼、こぶとり爺さんの鬼、鬼子母、夜叉、餓鬼など代表的な鬼たちの出自や系譜を解説する。なぜか34体それぞれの鬼の能力を力、凶暴性、体格、技術、頭脳、統率の6要素でパラメーター表示している。鬼になったという伝説まある阿倍仲麻呂や菅原道真はさすがに頭脳は最強となっている。

【美術ブックリスト】ピエール バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』

『月刊美術』での新刊紹介の材料として、事前に読後の感想をnoteに記しておくようになっておよそ半年。本を紹介することの意味を考えたとき、著述家・松岡正剛が長年に渡って連載している「千夜千冊」を思い出した。松岡による古今東西の書物についてのエッセイであり、読書感想文であり、書籍紹介である。哲学、宗教、文学、芸術などありとあらゆる分野のしかも名著と呼ばれる本が紹介されていて驚く。私も数編読んだことがあるが、読んでみて一番感じたのは、なかなか怪しいというものだった。そもそもまともに