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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#ブックカバーチャレンジ

【美術・アート系のブックリスト】いとはる著『世界一わかりやすい美術鑑賞ドリル』

たとえばマネの《笛吹く少年》であれば、主人公がたった一人描かれた少年であることはみただけでわかるけれども、ドラクロアの《民衆を導く「自由」》では、複数の人物画描かれているため誰が主役かは一見してはわかりません。そこでどうすれば主役がわかるかと言えば、「ピントがあっている人物」という理由で、旗をもった中央の女性であることがわかります。 同様に光が当たっている、周囲の人物の視線が集中しているなど、仮に歴史や美術史の知識がなくても、ある程度は絵画内の情報でその作品の意味がわかる、

【美術・アート系のブックリスト】 石川九楊著『思想をよむ、人をよむ、時代をよむ。:書ほどやさしいものはない』

著名な書家が、文字を手がかりにその人物の思想や生きた時代を読み解く哲学的エッセイ。王羲之、西郷隆盛、大塩平八郎、岡本かの子らの文字を分析・解説していく。 「近年、日本語があきれるほど粗末に扱われている」で始まるあとがきに、書くことが思考そのものであるという著者の文字観が端的に表れている。書に関心はなくても、言葉を生業にする人は読むと背筋が伸びます。 ミネルヴァ書房刊 四六判 322ページ 2500円 https://amzn.to/3FUrDUn

【美術・アート系のブックリスト】 山内舞子監修『教養として知っておきたい 名画BEST100』

誰もが知っている名画、どこかで見たことのある名も知らぬ絵、有名らしいけど詳しくは知らない教科書に載っている絵画などを解説する美術案内本。有名な順にランキング形式で紹介していくところがミソ。 《モナ・リザ》を2位に抑えて1番を飾るのはボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》!! 永岡書店刊 A5判 192ページ 1500円 https://amzn.to/3BV7tHq

【美術・アート系のブックリスト】川内有緒著「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」

 白鳥さんは50歳代の全盲の男性。年に何十回も美術館に通い、水戸芸術館現代美術センターなどで講演やワークショップもナビゲートも行います。  本書はノンフィクション作家の著者が、友人から「白鳥さんと作品を見ると楽しいよ!」と誘われ、一緒にアートを巡ったルポルタージュ。ピカソやモネの絵画、仏像、日本人の現代美術などを前に、作品に何が描かれているかを白鳥さんに説明していくなかで、それまで見えていなかったことに気付かされていく。  他者と一緒に作品を見ること、会話しながら見ること

アルベルティ著 『絵画論』 中央公論美術出版

古典中の古典である『絵画論』を図書館で借りてきて読みました。 レオン・バッティスタ アルベルティは1404年イタリア・ジェノヴァに生まれたルネサンス初期の人文学者。 絵画論のほか、建築論も書き残しています。理論家であり、同時に実作者であったとされますが、残念ながら絵画作品は残っていません。 この絵画論によって遠近法が定式化され西洋絵画が確立されたと言われます。またレオナルド・ダ・ヴィンチが教科書にしたことでも知られています。 中身は3巻にわかれます。第1巻では点、線、面

【美術・アート系のブックリスト】 増村 岳史 著『東京藝大美術学部 究極の思考』クロスメディア・パブリッシング

 東京芸術大学で行われている教育に一般では学べない思考方法を学ぼうという意図で書かれた本。学生、卒業生、元教授らの証言をもとに、論理とは別の考え方や観察の仕方に切り込むという内容。  第1章は入試。毎年全く違う内容と形式のため傾向がなく対策することのできない入試問題。それに受験生がどう立ち向かい合格したかの証言を集める。  第2章は在学中に学ぶこと。入試とは一転して受験で学んだ事を捨てる事が求められるとか、佐藤一郎さんが教える立場で何を伝えようとしたかが説明される。  第3章

【美術・アート系のブックリスト】みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方 』文春文庫

 TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」を聴いていたら、みうらじゅんがゲストとして登場した。2015年初出、18年に文庫化された本書が本屋大賞の「発掘部門/超発掘本!」を受賞したという。少しだけ話された内容を聴いて、興味をもった。  結論からいうと、感動的であった。  地方自治体のイベントで隅っこにいる着ぐるみに興味をもち、自分の足で出かけては写真を撮り、話を聞き、情報を収集し、雑誌に売り込み、イベントを仕掛けた。のちに「ゆるキャラ」とネーミングされて市民権を得て今日までその

【美術・アート系のブックリスト】福井安紀著『職業は専業画家』誠文堂新光社

 編集部のSが、アートソムリエの山本冬彦さん絶賛と聞きつけて取り寄せた一冊。  20年間、絵画を制作しその販売収益だけで生活してきた画家が、「専業の絵描き」という生き方ができるように後進のために書いた本。展示の仕方、値段のつけ方、販売、接客、芳名帳に名前と住所を書いてもらう方法、礼状の書き方までさまざまな方法を披露する稀有な本。サブタイトルに「無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」とある。  著者は20歳から

【美術・アート系のブックリスト】 Magnus Resch著『How To Become A Successful Artist』 PHAIDON

著者はドイツ人研究者のマグナス・レッシュ。いくつかの大学でマーケティングに則ったアートマネージメントの講座をもつ一方、『Management of Art Galleries』いう、ギャラリストのための営業指南本で一躍有名なりました。Larry's Listというアートディーラー向けに大口コレクターを紹介するサイトの創立者の一人でもあります。 さてこの本は訳すと『アーティストとして成功する方法』でして、主にビジネススキルという観点から、アーティストになる方法を語っています。

【美術・アート系のブックリスト】 ジェイムズ・ホール著、高階秀爾監修『西洋美術解読事典: 絵画・彫刻における主題と象徴』河出書房新社(新装版)

1988年初版の事典の新装版。 聖書、神話、歴史的事実など、西洋の絵画と彫刻に登場する主題や象徴を調べるための事典。意味だけでなく、実際の作例の索引機能をもたせていて便利。 例えば、「指輪」の項目には、「権威の象徴」「結合の象徴」「聖職者の位」「三位一体」など作品の中でも様々な意味が列挙され、関連事項へ飛ぶように指示されます。 作品を見ながら、モチーフの一つ一つを読み解いていくこともできるし、象徴事典としてつ使うこともできます。プロメテウス、ヘラクレスなど神話の登場人物

【美術・アート系のブックリスト】ミニマル著『いちばんやさしい 西洋美術の本』彩図社

西洋美術の基本をコンパクトにまとめた入門書であり、最近必要とされる「教養」をミニマムな形で学ぶことができます。 絵画の種類と題して、主題によって宗教画、神話画、歴史画、風俗画などに分かれることが冒頭に示されているのは、親切です。後半はギリシア以来の歴史を時代様式に従って説明し、レオナルド、ラファエロ、ルノアールなど著名画家一人一人の業績を解説します。 図版はモノクロなので、絵を眺めて楽しむというより、イラストを楽しみながら美術の歴史をざっくり知るのにちょうどいいです。

【美術・アート系ブックリスト】島田真琴著『アート・ロー入門』慶應義塾大学出版会

美術品に関わる法律の知識を大変わかりやすく説明しています。 アートにまつわる法律の話というと、近年は著作権にまつわる権利の侵害の問題が多く、その方面の本もいくつか出ています。しかしたいてい著者は法律の専門家ではあっても、アートについて特に詳しいわけではなく、一点限りの絵画、その場限りの展覧会や舞台といったアートの特性が法的解決にどう影響するかは触れられない場合があります。 本書は、実際の売買、盗難、詐取、画家と画商の契約、オークションの責任、美術館の活動、表現の自由、国際

【美術・アート系のブックリスト】 宮下規久朗、佐藤優著『美術は宗教を超えるか』PHP研究所

期待以上の中身の充実ぶりに驚きました。 西洋美術の多くが宗教すなわち実質的にはキリスト教を背景に描かれていることは、なんとなくは分かっています。そのため美術や美術史を学ぶときには、同時に聖書やキリスト教の歴史の知識と照らし合わせて理解する必要があります。 それは例えば、アトリビュートといってマリア様には純潔の象徴として百合や薔薇が一緒に描かれていると説明されたりして、分かったつもりにもなったりします。 しかしキリスト教といっても様々でして、ルネサンス期のキリスト教と近代

【美術・アート系のブックリスト】京都国立博物館監修『トラりんと学ぶ日本の美術4 異国への憧れ』淡交社

トラりんは尾形光琳の「竹虎図」から飛び出した京都国立博物館PR大使。トラりんが生徒、京博の学芸員が先生になって、さまざまなジャンルの日本美術に歴史と魅力に迫る4巻シリーズの最終巻が本書。テーマは「異国への憧れ」。 対談の面白さは、異なった視点の交錯なので、話者はジャンルや年代、国籍や立場ができるだけかけ離れていた方が面白い。その点、この対談形式の解説は絶妙にいいです。 中国由来の水墨画、陶磁器、ヨーロッパに輸出された南蛮漆器など、海外文化の影響を受けた日本の美術を学んでい