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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2024年3月の記事一覧

【美術ブックリスト】 『うごく木 山本尚志 2016‒2023作品集』山本尚志著

【概要】 「ART SHODO」を提唱し、現代美術ギャラリーを含め国内外で展覧会を重ねる山本尚志は、現代書と現代美術とを横断しながら強い存在感を放つ。代表作《うごく木》《マシーン》《フエ》を含む2016年から23年の作品群を紹介するほか、清水穣による解説「名を与える 山本尚志の書」を収録した作品集。 【感想】 書という言葉は中国由来の伝統芸術の意味あいが強い。とはいえ書道というと、華道などの芸道や剣道や柔道などの武道と同様に、禅宗的な宗教性とお稽古事のニュアンスがついている

【美術ブックリスト】 『池田学 The Pen 誕生・その後 増補改訂版』池田学著

【概要】 2013年から3年をかけて、アメリカのチェゼン美術館のアトリエで制作した大作《誕生》は2017年に日本を巡回。公式カタログに解説をつけ緊急刊行された『《誕生》が誕生するまで』を合体させ、さらに新作とエッセイを加えた増補版。 【感想】 池田学作品にはファンが多いけど、それはあの途方もない作業量への敬意と圧倒的な凝集性だろう。古典的な概念でいう「崇高」のひとつの現れだと思う。 青幻舎 A3変 192ページ 5500円

【美術ブックリスト】 『ひと目でわかる アートのしくみとはたらき図鑑』池上英洋監修 岡本由香子訳

【概要】 アートの概念から素材や道具、技法、世界各地の伝統美術と現代までの美術史などを概略したビジュアル重視の図鑑。有名絵画も写真でなくイラスト化して示す。 【感想】 調べるのではなく、ページをめくりながらアートをざっくり知るには便利。 創元社 24×20.3cm 224ページ 4000円

【美術ブックリスト】 『異能力者の日本美術 ダークファンタジーの系譜』春木晶子著 鮫島圭代英訳

【概要】 鬼退治物語の『酒呑童子絵巻』、蝦蟇の術で大蛇丸と戦う『児雷也豪傑譚』など伝奇物語の妖術の場面の図像を集める。スサノオ、釈尊、十六羅漢といった神話や伝説の超能力から小野小町の雨乞いや出雲阿国の舞踊といった歴史上の「ホワイト」な能力まで網羅。解説は短く図鑑的に一望する。 【感想】 伝奇物語というと滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を思い浮かべるけども、それ以外はあまり知られていない。永井豪の「デビルマン」、水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」、吾峠呼世晴の「鬼滅の刃」など現代のマ

【美術ブックリスト】 『著作権はどこへいく? 活版印刷からクラウドへ』ポール・ゴールドスタイン著 大島義則ほか訳

【概要】 スタンフォード大学ロースクール教授で国際著作権法を専門とする著者が、アメリカを中心とした著作権の歴史をたどる。音楽、文章、商標などあらゆるものに著作権が発生する現代、実際の問題を議会や裁判所がどう向き合ってきたかをドラマのように描き出す。 【感想】 経済小説や法廷にも似たノンフィクションの形式で、実際の著作権問題を描写している。著作権自体が日本ではまだ浸透していないので、勉強になる。 勁草書房 四六判  344ページ 3000円

【美術ブックリスト】 『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 機械時代のアートとデザイン』ポーラ美術館編著

【概要】 ポーラ美術館で開催中(5月19日まで)の同名展の図録兼書籍。1920~30年代のパリを中心に、欧米と日本における機械と人間との関係を振り返る。機械に託したユートピア、工業と調和したアール・デコ、機械への反発としてのダダとシュールなど豊富な作品と資料で問い直す。 【感想】 シュールレアリスム展もそうだけど、20世紀美術を問い直す展覧会が増えている。箱根のポーラ美術館まではなかなかいけないけども、こうして図録で楽しめるのはいい時代になったと思った次第。 青幻舎 B5

【美術ブックリスト】 『古家野雄紀 ーDOUBLE HELIXー』古家野雄紀著

【概要】 日本画と現代アートを行き交う次世代注目アーティスト、古家野雄紀の初画集。小さな可愛いキャラクターたちが、群像となって宇宙の渦を形成したり大波のなか舟を漕いだりするポップで楽しいアートが満載。中島千波、玉井伸弥とのざっくばらんな鼎談も楽しい。 【感想】 画家にとって画集の出版はひとつの区切りであり、画業のステップの1つ。その意味でこれまでを振り返るとともに、新しい展開への布石にもなる。今後に注目したい。 求龍堂 A4変 176ページ 3800円

【美術ブックリスト】 『ヴィクトリア朝古典主義の異端児 ウォッツの遅れてきたバロック絵画』加藤文彦著

【概要】 19世紀の英国人画家ウォッツはヴィクトリア朝古典主義の四天王の一人とされ、テイト・ギャラリー蔵《希望》がその最高傑作とされる。しかしイギリス美術の研究者である著者は、その芸術の真髄を、古典主義とは対極のバロックの動的表現と不明瞭性にあると捉え直す。文学との交流にも触れる小論。 【感想】 どんな作品にもさまざまな要素は見られるはずなのだけど、時代によって見方が固定されることはある。そこから本当の作品の特質を救い出したいということだろう。専門的すぎて私にはまだ消化でき

【美術ブックリスト】 『ねこの名画案内』MINAMI著 アートテラー・とに~解説

【概要】 インスタグラムで人気の刺繍作家が、《ヴィーナスの誕生》や《モナ・リザ》など名画の登場人物をネコに変えて刺繍で再現。アートテラー・とに~によるオリジナル作の解説と刺繍作品への著者の解説を併載。 【感想】 ちょっと変わったアート本。刺繍と最も親和性が高いのはゴッホのうねる油彩表現のよう。 オレンジページ 18.2×18.2cm 116ページ 1810円

【美術ブックリスト】『速水御舟随筆集 梯子を登り返す勇気』速水御舟著

【概要】 大正・昭和初期に活躍した日本画家が制作について記した随筆や語録を集める。タイトルは「梯子の頂上に登る勇気は貴い、更にそこから降りて来て、再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」から。日本画の安田靱彦、洋画の岸田劉生といった同時代人の随筆も収録。 【感想】 昔の人の文章には、芯のようなものがあって、文学者であろうが画家であろうが簡潔で言葉に実がある。この人も、いずれの文も簡潔で美しい。 平凡社ライブラリー 200ページ 1700円

【美術ブックリスト】『アートコレクター入門: 銀座老舗画廊の主人と学ぶ特別教室』田中千秋著

【概要】 著者は銀座の画廊・秋華洞のオーナー。 画廊で月一回開催される「アート講座」8回分という架空の対話型講義が設定され、その参加者の一人でレストラン経営者の栗田という人物の立場から見聞きしたストーリーということになっている。 講義ではアートとは何か、芸術と美の関係とは、書とは何かといった概念から、宗教との関わり、値づけ、税金についてなど、あらゆる角度で解説。アートが投資になるか、ビジネスにどう役立てるかといった今日的な話題にも言及しつつ、アートとは人生を楽しむものであり、

【美術ブックリスト】『アートを書く!クリティカル文章術』 杉原賢彦、前島秀国、暮沢剛巳編著

【概要】 2006年に出版された批評文の指南書。美術、音楽、映画の各分野の評論家がそれぞれの特性や書き方の例、有名評論家について解説している。 【感想】 以前と比べて、美術の世界では、評論家の文を読むことが少なくなった。考えられる理由はいろいろある。 世の中全体から評論文が減っている、というかインターネットやSNSに評論まがいの一般人の意見文が増えたことで評論家の意見が特権的でなくなり、わざわざ評論文を必要としなくなった。美術の世界では、美術館やアートイベントのオープニング