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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2023年4月の記事一覧

【美術ブックリスト】『科学する心』池澤夏樹

著者は理系と文系を越境する作家。現代の宮澤賢治のような人である。 科学に軸をおいたエッセイであり、原発から古生物まで、様々なテーマについて思索を巡らす。自身が書いた物語(フィクション)の中で、科学をどう描いたかという客観的な評価もあったりする。 ここまでが概要。 ここからが感想。 デビュー作『スティルライフ』と、そのドラマ化であるTBSの映像以来、この人が書くものはほとんど読んでいる。 本書も池澤さんらしいエッセイで、心地よい。過去についての整理された知識と、現状についての

【美術ブックリスト】『パブリックアート入門』浦島茂世著 イースト・プレス

副題は「タダで観られるけど、タダならぬアートの世界」。 街中や公園、駅や建物などの公共空間に設置される彫刻や壁画をパブリックアートという。本書は全国各地のパブリックアートの具体例を挙げて、設置の経緯、制作者の意図、市民の反応などをひとつひとつ解説していく。岡本太郎の「太陽の塔」「明日の神話」、瀬戸内の草間彌生のかぼちゃなど、著名芸術家のものから、商店街の片隅の銅像まで範囲は広い。 どんな時代の要請でこうした彫刻や壁画が「生産」され、「消費」され、時に「廃棄」されるのかという歴

【美術ブックリスト】『26歳会社員、絵画を買ってみた』銀座ギャラリーズ監修、もなか イラスト

監修の銀座ギャラリーズは、銀座の画廊数十軒が集まって結成された任意団体。気軽に画廊に来てもらうことを目的に、5月には夜9時まで開廊する「画廊の夜会」、12月には「Xmasアートフェスタ」といったイベントを催している。 本書は、画廊に一度も入ったことないまったくのビギナーが、友人に誘われて画廊に足を踏み入れ、美術品の楽しみ方を覚えていくというストーリーの漫画と、解説文からなる。画廊スタッフやオーナー、店に出入りするコレクターとの交流を通して、それまで距離を感じていた画廊や美術

【美術ブックリスト】『沖縄美術論 境界の表現 1872―2022』翁長直樹 著

著者は沖縄県立博物館・美術館の元副館長。琉球大学卒業後、中学、高校で教え、アメリカで美術館学を学んだ経験をもつ、地元の美術に精通した人物のよう。 第1部は美術史。 沖縄で展開された戦後美術を中心に論じているが、戦後活躍する画家の多くが戦前に美大などで学び活動もしていたことから、1872年の日本政府による琉球藩設置から終戦までを戦前期として1章あてている。2章は戦後の米軍統治時代から1972年の本土復帰、80年代のモダニズムとポストモダニズム、2000年代の美術館開館、沖縄県立

【美術ブックリスト】『イノベーション創出を実現する「アート思考」の技術』長谷川一英著

少し前から流行しているアート思考について、経営者の立場から実例をあげてその意義を解説する本。 著者は創薬研究ののち、新規事業・企業変革コンサルティングの会社を経営する企業人。産業とアーティストとのコラボレーション(アーティスティック・インターベンションというらしい)を促すことで、「イノベーションを創出」し「鮮やかな未来社会を築く」と謳う。 アート思考を「アーティストが作品を制作する過程での着眼点や問題意識、それらを発展させていくための思考方法」と定義し、特に現代アートのアー