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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2023年3月の記事一覧

【美術ブックリスト】『神の値段』一色さゆり著

ミステリー小説。2016年の「このミステリーがすごい」大賞でグランプリとなった2作品のうちの1つ。 美術業界を舞台に、書を現代アートとして高めたとされる美術家の作品をめぐって、画廊オーナー、世界的コレクター、学芸員といった人々が交錯しつつ殺人事件が起こり、画廊スタッフである主人公が謎を解いていく。画廊、倉庫、アトリエ、オークション、アートフェアなどあまり知られていない場所を行き来して物語は進む。 ここまでが概要。 ここからが感想。 『ピカソになれない私たち』という美大生を描

【美術ブックリスト】『ご神仏なぞるだけ瞑想』 嵐山晶著、保坂隆・小瀧宥瑞監修

仏画、といってもお寺にあるようなものではなく、かなり現代的なイラストの仏様の線画を「なぞる」ための本。お経を写す写経に対して、仏画を模写することを写仏というらしい。これはすでにうすく描かれた線をなぞることで仏様を描く。これにより瞑想に似た心の安定が得られという。 線画が完成したら、それに色鉛筆やマーカーなどで色づけしてもいい。 ここまでが概要。 ここからが感想。 今から10年以上前だったか、「ぬり絵」が流行ったことがある。絵は描きたいけど何を描いていいか分からず、描きたいも

【美術ブックリスト】『世界の教養が身につく 1日1西洋美術』キム・ヨンスク著、大橋利光訳、上村博監修

1ページに1つのテーマで絵画や彫刻を解説。それを365日分掲載している。見出しのタイトルは作品名だったり、作家だったり、「写実主義」などの様式だったり、「ローマの建国」といった世界史だったりする。なかにはカラヴッジォとジェンティレスキが別々に描いた《ホロフェルネスの首を斬るユディト》など、同じモチーフ、同じタイトルで描かれた作品を同時に紹介したページもある。 順番は時代も地域もバラバラ。アトランダムにエッセイを楽しむつもりでページをめくり、気になる項目があったら関連項目へと読

【美術ブックリスト】『ピカソになれない私たち』一色さゆり著

著者は東京藝術大学芸術学科を卒業し、香港中文大学大学院を修了。学芸員の仕事をしながら2015年「神の値段」で第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューしたらしい。 本書は2020年の書き下ろしで、「日本で唯一の国立の美術大学」という架空の大学で、絵画を学ぶ学生たちを描いた青春小説。 アーティストを夢見ながらも挫折するもの、就職に切り替えるもの、あくまでアートを目指すものなどさまざまな学生の群像劇を通して、才能とは何かを描く。 いくつか事件はあるけれども、中心

【美術ブックリスト】『もっと知りたいローランサン』吉澤公寿著

タクシー会社グリーンキャブ・グループの常務取締役で、マリー・ローランサン美術館館長でもある著者がエコール・ド・パリの女流画家として活躍したマリー・ローランサンの生涯と作品を解説する。 生い立ちと時代状況、評価など一通りわかる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 ビギナー向けにとてもよくまとまっている。やや大判で薄いので見やすい。図版も大きめに掲載されてるので、たっぷりと作品を楽しめる。 現在、BUNKAMURA ザ・ミュージアムで開催中の「マリー・ローランサンとモード」展

【美術ブックリスト】『誰だって芸術家』 (SB新書 607) 岡本太郎著

岡本太郎がのこした膨大な著作のなかから、芸術感覚と芸術家精神に関するテキストを集成して再構成。岡本の生き方を記した伝記ではなく、彼が抱いていた芸術思想を中心に、岡本太郎記念館館長の平野暁臣の構成で、岡本が読者に語りかける体裁で記述されている。 ここまでが概要。 ここからが感想。 岡本太郎の過去の著作からエッセンスを絞り出して、リライトしている。よって文体がゴーストライターが書いた本のように感じてしまう。若い世代の人たちや美術のビギナーにとっては分かりやすくていいかもしれない