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【美術ブックリスト】『誰だって芸術家』 (SB新書 607) 岡本太郎著

岡本太郎がのこした膨大な著作のなかから、芸術感覚と芸術家精神に関するテキストを集成して再構成。岡本の生き方を記した伝記ではなく、彼が抱いていた芸術思想を中心に、岡本太郎記念館館長の平野暁臣の構成で、岡本が読者に語りかける体裁で記述されている。
ここまでが概要。

ここからが感想。
岡本太郎の過去の著作からエッセンスを絞り出して、リライトしている。よって文体がゴーストライターが書いた本のように感じてしまう。若い世代の人たちや美術のビギナーにとっては分かりやすくていいかもしれない。

ただ実際に岡本太郎が書いた著作を読むとわかるが、岡本の文は論理的かつ明晰で、学者が書いたのではないかと思うほど的確で、あの破天荒なキャラクターからは驚くほどイメージが異なる。したがって、ビギナーこそ岡本のオリジナルの著作を読むといいのだが、絶版や品切れも多く入手しづらい状況を考えると、こうして新書でエッセンスに触れられるのもいいのかもしれない。

間違っても、「教養」「アート思考」「美意識を鍛える」など時流に乗る目的で読んではいけない。そういったものは存在しない。創造の衝動的エネルギーこそ岡本から受け取らなければならないと思う。

208ページ 新書判 990円 SB新書

目次
序章 そもそも芸術ってなんだ!?
・だれでもその本性は芸術家
・芸術に見せかけた合言葉にだまされるな
・西洋芸術の伝統がなんだというのだ
・今日の芸術とは?
第1章 道なき道をゆく人生こそが芸術だ
・生きる絶望を彩ること、それが芸術だ
・若き日の情熱と苦痛
・人間の存在、その運命全体をつき出す
・尊敬するものとこそぶつからなければならない
・縄文土器に見つけた「激しいいのち」
・オレの人生はおもしろいねえ、だって道がないんだ
第2章 ほんとうの芸術家精神を持て
・猛烈な素人たれ
・デザインと芸術
・芸術、即、人間。
・無目的的から目的的になってしまった芸術
・ほんとうの芸術家が出てこない理由
・味わってなんかもらいたくない
・人間的生きがいを回復するための「ノー」
第3章 ただ衝動がある、手段はなんでもいい
・芸術はなぜ存在するのか
・内容は内ではなく外にある?
・ただ衝動がある、だからあらゆることをやる
・芸術とはエモーションの問題だ
第4章 つくらなくても芸術家だ!
・つくることと味わうこと
・受け身で鑑賞してはいけない
・わからなくても心配するな
・裸でぶつかるということ
・どうして抽象画が生まれたのか
・芸術に「専門」はない、人生と同じだ
・鑑賞は創造とつながっている
・つくることだけが創造ではない
・あなたはすでに創造している
第5章 人はどうして芸術に感動するのか?
・私は絵が嫌いだった
・ピカソの衝撃
・人はなぜ芸術に泣けるのか
・古代文化に感動する
・日本人が忘れてしまった神秘的感動
・メキシコで思わされた現代の不幸
・芸術はもっと自然でなくてはならない
第6章 伝統も創造も超えてゆけ
・伝統なしの創造はない、創造なしの伝統もない
・日本人のコンプレックス
・伝統は現在にもある、未来にもある
・そんな伝統はウソだ
・ほんとうの伝統とは?
・私たちは伝統よりも現在に縛られている
・伝統を前向きに使え
第7章 忘れたくない日本の芸術
・縄文土器――満ちあふれる生命力
・甲冑――ゆたかな想像力
・銀沙灘――おおらかな抽象芸術
・オバケ――世界に誇るイマジネーション
・石仏――うぬぼれのない無名芸術
・光琳――時代を超える芸術家
・近代建築――逞しいダイナミズム
第8章 私は挑んだ、さて君たちは?
・万国博に賭けたもの
・ほんとうの調和は対立から生まれる
・太陽の塔の誕生
・太陽の塔が伝えるもの
おわりに

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