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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2021年8月の記事一覧

【美術・アート系のブックリスト】中野京子著『美貌のひと 2』 PHP新書

ちょっと昔に『怖い絵』という本が話題になった著者による美術エッセイをまとめたもの。絵画に描かれた有名無名の美男美女について、実在していればその人生を、架空の人の場合は物語を詳しく解説していきます。 24人(24作品)の中で、実在の人物でもっとも有名なのはクララ・シューマンでしょう。パステルによるその肖像画は、EUROに切り替わる前の100ドイツマルク紙幣にもなっています。描いたのはアンドレアス・シュタウプという画家。残念ながらこの絵や画家についての解説はありません。そのかわ

【美術・アート系のブックリスト】『自閉症の画家が世界に羽ばたくまで』扶桑社

石村和徳、石村有希子、石村嘉成著 石村嘉成さんは愛媛県在住の自閉症の画家。高3の授業で描いた版画が評価され、地元のコンクールに入選。本格的に創作活動を始めたところ、2013年に第2回新エコールドパリ浮世 ・絵展ドローイング部門で優秀賞を受賞。以降、主に動物をモチーフに描き続け、各地で個展を開くたびに入場者数記録を塗り替え、メディアでも多数取り上げられています。 本書は生後2歳で自閉症による発達障害と診断されてから、両親が迷い、悩みながら育てた記録です。著者は両親と本人とな

【美術・アート系のブックリスト】ピーター・ウェブ,ロバート・ショート著、相馬俊樹訳『死、欲望、人形 : 評伝ハンス・ベルメール』国書刊行会

日本では澁澤龍彦と種村季弘によって紹介されたハンス・ベルメール。エロティックな球体関節人形を撮影した写真や版画を制作した美術家です。 その作品は現在まで、エロスとタナトスの文脈で語られています。厳格で威圧的な父親への反発が警察や国家への権威やブルジョワ資本体制への叛逆へと成長したとされ、不健康で隠微な性志向は、ナチス・ドイツのアーリア的健康志向の対局ともとれます。 本書は晩年のベルメールの貴重な証言のほか、関係者の証言から浮かびあがる不屈の生涯を追った本邦初の評伝。約35

【美術・アート系のブックリスト】『小早川秋聲』求龍堂

異色の戦争画《國之楯》で知られる日本画家・小早川秋聲の回顧展の図録兼書籍。「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌(レクイエム)」展は、8月7日~9月26日京都府京都文化博物館、10月9日~11月28日東京ステーションギャラリー、2022年2月11日~3月21日鳥取県立博物館へ巡回しています。 鳥取県の日野町というから、島根に近い西部の山間いの生まれ。京都の画塾に学び、従軍を経験し、国内外を問わず旅行に繰り出しながら数多くの作品を残しました。改めて作品を見ると、その画力に驚きます。

【美術・アート系のブックリスト】 デイヴィッド・ホックニー、 マーティン・ゲイフォード著『絵画の歴史 』(増補普及版)青幻舎

 2016年にイギリスで発表され、翌17年に日本版が出た『絵画の歴史  洞窟壁画からiPadまで』の増補普及版。ここでいう絵画とはpictureの訳なので、美術品や作品ではなく、画像や図像や絵柄あるいは端的に「絵」といった方がいい。彫刻や映像と対比される美術ジャンルとしての絵画というより、言葉や音声と対比されるところの絵であり、写真や映画も含まれる。実際、英語では写真も映画もピクチャーである。現代の言葉では「表象」に近いかも

【美術・アート系のブックリスト】古山浩一著『万年筆画の教科書』東京美術

ペン画があるのだから、万年筆で描く絵があってもいいはずなのに、それができたのはここ20年ほどらしい。というのも、万年筆に使われるインクは、文字を書くためのもので、耐光性と耐水性が絵を描くには不足していたのだとか。2001年にプラチナ万年筆が、プリントゴッコ用に開発したインクを改良することで、ようやく完成したとのこと。なんでも技術開発だなあと思いました。 さて万年筆で描くと、スケッチ風のラフな感じと挿絵のような硬質でリアルな感じの両方の味わいのある絵になります。技法を説明する用

【美術・アート系のブックリスト】佐々木豊著『プロ画家になる!』芸術新聞社

洋画家の佐々木豊さんが新刊を出すと聞きつけて版元に電話して献本をお願いしたのが3週間ほど前だったでしょうか。今日、見本誌が届いて一気に読んだところです。AMAZONで調べようとしたところまだ情報が載っておらず、ウェブをみたら8月12日発売とのこと。 さて、この本は画家として60年活動してきた体験をもとに、どうすれば画家になれるのかを一問一答形式で述べたもの、というのが形式上の説明。実は立派な「技法書」であり、画家としての生き方を自身の経験と他の画家の観察を含めて述べた稀有な

ペンブックス32『運慶と快慶。2人の男が仏像を変えた 』 CCCメディアハウス

雑誌「Pen 」2017年10/1号「特集 2人の男が仏像を変えた 運慶と快慶。」を大幅増補書籍化したもの。 Penはもともと阪急コミュニケーションズから出版されていたのですが、2014年に事業再編によりCCCメディアハウスつまりTSUTAYAのグループから出されています。 それはともかく、運慶と快慶の彫刻作品を解剖していくのが本書。ひとつひとつの解説文は雑誌的でなく、説明的です。迫力の運慶と繊細さの快慶と言われるようですが、そうした先入観にとらわれず一作一作を解説し、と

【美術・アート系のブックリスト】 執行草舟著『超葉隠論』実業之日本社

‎『葉隠』は、江戸・中期以降に肥前国佐賀鍋島藩士・山本常朝が書き留めた武士としての心得。宮本武蔵の『五輪書』が実践的な兵法の書であるのに対して、こちらは武士道の精神論のバイブルとして知られています。岩波文庫にも入っています。「武士道とは死ぬことと見つけたり」のフレーズが有名です。 執行草舟(しぎょう・そうしゅう)さんは菌酵素食品を製造・販売する株式会社日本生物化学(旧バイオテック)の創業者であり、社長。独自の思想をもち、哲学的な本も多数刊行しています。美術にも造詣が深く、執