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さらに日が空いた。ここ数日は本も読めておらず、もっぱら寝床から微動だにせずにマインスイーパーなどをやり、YouTubeで大量の料理が作られる動画などを見て過ごしていた。

家にいてはこのまま今日も寝床で終わると思い、近くのファミレスでコーヒーを啜りつつ、この文章を綴っている。

意志の弱い人間にとって、場所を変えるというのはとても重要だ。昨今の事情でテレワークが急速に進んだが、書斎のない家で行われるテレワークは、自分のような人間の生産性をかなり落としたと思われる。以前と以後でどれくらい生産性が変わったか、どこかで定量的な検証がなされていれば面白いのだが……知っている人いれば教えてください。

さすがにご時世もあってか、祝日だというのにファミレスは半分ほど席が空いていた。近くのテーブルでは、70代くらいのおじいさん二人が協力して一つのプラモデルを組み立てつつ、3時間ほどずっとオタクトークを繰り広げていた。こうありたいものだなあ。

サラダ油にはなぜ火がつかないのか

先日小田急線で刃物を振り回した通り魔の男は、サラダ油をまいてライターで火をつけようとしたという。ツイッターではそれに対して、「30歳すぎてサラダ油に火がつかないことも知らない愚か者」「いや、そんなことすら学べない劣悪な環境で育った人間に対してそこを責めるのは醜い」など議論が白熱していた。

サラダ油にライターを近づけても火がつかないことは何となく理解しているつもりだったが、はたして自分は本当に、自信を持って「サラダ油に火はつかない」と言えるだろうか。心配になってきたので、少し調べてみた。

まず、日清のサラダ油の相談窓口には、以下のようにある。

油が発火する温度は、何度ですか?

加熱した油のそばは離れないようにしましょう。
油を加熱しすぎると発火します。絶対にその場を離れないでください。離れる場合は必ず火を消してください。
油の引火点(火を近づければ燃え出す温度)は、300~320℃
油の発火点(油自体が燃え出す温度)は、370~400℃
(出典:消防研究所)

また、日本機械工業がまとめている「防災便利帳」には、下のような表が載っている。

加熱時間   油の温度 状態
5分後   160~220度 天ぷらを揚げる適温
10~15分後 220~320度 白煙や異臭が発生
15~25分後 360度以上 発火

ガスコンロの火の温度は1500〜1900度と言われている。(ちょっとググってみたところ、なぜか東京ガス等の公的な発表として火の温度に触れているサイトがあまりなく、新聞記事や素人の科学解説サイトのようなところばかりがヒットする)

ライターの火については経済産業省のドメインに啓発パンフレットのようなものが公開されていて、それによれば800〜1000度。

以上の情報から、1500度以上のガスコンロで金属製のフライパンを15〜25分熱さないと発火しないようなサラダ油に、電車の床に流し出された状態で1000度程度のライターの火を近づけたところで発火しなかった、ということになる。
少なくとも、これで胸を張って「サラダ油はライターじゃ発火しないよ」と言える。よかった。
(「サラダ油にはなぜ火がつかないのか」により真摯に答えるのであれば、引火点・発火点がそれぞれそのようである理由を化学的観点から検討する必要がありそうだ。が、時間の都合上やめておく)

しかし、サラダ油に火がつかないことを知らなかった犯人を嘲笑していた声のすべてが、上のようなデータを了解できていたのだろうか。こうした前提があやふやだったのが、自分だけであれば良いのだが……。

あるいは、この件の比ではないくらい専門的な知識が必要とされるはずの、感染症をめぐる議論ではどうだろうか。家庭で、ネットで、組織で交わされる議論は、きちんと確かなデータを踏まえられているのだろうか。「科学的根拠に則った議論」の難しさの、ほんの一端を覗いた気がした。

読んだもの:新城カズマ「月を買った御婦人」(編・伴名練)

「月を買った御婦人」の続き。

先日(8/5)に読み終わってなかった残りの2作品を読んだ。総評として、良い短編集だと思う。読みたかったものが読めた、という心地よさがある。

さよなら三角、また来てリープ

高校に馴染めないSFオタク3人が学祭でロボット宇宙船を飛ばすために屋上で秘策を練るーーという学園青春モノ。高校2年生の夏、したいこととすべきことの間で心を揺らせつつも、最後は予定調和的な優しさで包まれる。

あるスペース・オペラ作品のアンソロジーのようだが、知らなくてもちゃんと楽しい。

雨ふりマージ

自然人、法人に次ぐ第三の人格「架空人」は短編集の他のいくつかの短編でもキーワードとして登場したが、真正面からそれを捉えた作品。主人公は貧困から自然人をやめて架空人となるが、そこでAR上に現れる謎の少女と出会いーー。

フィクションのキャラクターと等価になった主人公の心情をブログとして綴る形式。個人的には、結末も含めてあまりノれなかった。

読んだもの:その他

この前読んだ「テスカトリポカ」の佐藤究さんの短いエッセー。一見粗野で騒がしい男でありながら、うちに静かな文学の熱を持つブコウスキーの姿は、間違いなく本人のセルフプロデュースに重ねられている。

キャッチーなタイトルだが、内容は鳥が恐竜と多くの共通点があることを挙げるもので、特段真新しい気はしない。

むしろ気になったのは、「鳥類は爬虫類かどうか」である。
中学校の生物の授業では、脊椎動物は哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類、魚類に分類できると習った。

一方で、分類学上、鳥類(鳥綱)を爬虫類(爬虫綱)の一部として位置づけ、鳥亜綱とする学説もあったように思う。鳥類を爬虫類から恐竜経由で進化したものとしたときは、この分類の方が自然という整理だったはずだ。

と、思っていまwikipediaを見たのだが、今もしっかり鳥類は鳥亜綱でなく「鳥綱」として記載されていた。まだあまり支持されていない学説ということなのだろうか。そのうち、分類学の本を読んでみようと思う。最新の議論に追いつける教科書的なものとなると、どこにあるのだろうか。

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