ちび太の呟き
僕のボスは、一年近くも僕を放って居なくなってしまったのに、やっと帰ってきたと思ったら、また1ヶ月もしないうちに、どこかへ消えてしまった。
ボスが居なくても、後からやって来たオバアさんが、僕の気持ちをよくわかってくれて、好きなようにさせてくれるから、まあ、何とか快適に過ごしている。
何しろ、僕は外で遊ぶのが大好きだから、庭へ自由に出してくれるのは有り難い。オバアさんはボスから、どこかへ逃げ出していなくなると困るので外へは出すな!と言われていたらしく、はじめのうちは随分用心したようだ。
経験豊かなオバアさんは、家飼いのメスは別としても、好奇心旺盛な、それも既に戸外の魅力に囚われているオス猫を、家に閉じ込めておくなど不可能だと、ボスの注文は無視していたらしい。
ところが、ある日ボスから
「 "猫の自由を奪う罪"というのを知ったら、どうも心穏やかでないから、ちび太を庭へ出してやってください」
とのメールが届いたそうだ。
晴れて外出許可がおりたものの、オバアさんもなかなか楽にはならない。
僕は庭だけではつまらない。もっと外へ行ってみたいから、柵の隙間を見つけて抜け出した。僕が庭にいないとわかると、オバアさんは必死になって近所界隈を探し回るのだ。
それが夜だったりすると、 懐中電灯片手に呼んで歩く。
古い家なので、隣との仕切りの柵もあちこち欠けたり緩んだりしているので、オバアさんはいつも目を光らせて、補修にいとまない。
この頃は僕もいい加減諦めて、草むらのヤモリやバッタを捕まえたり、隣の白いネコと睨みあうくらいで我慢している。
雨の日はどうにも退屈だ。猫用の玩具なんて殆どないし、たまに付き合ってじゃれてみてもすぐ飽きる。
オバアさんが机の上で仕事を始めると、そこに乗って、かまってくれとアピールする。ピアニストが練習を始めると、必ず鍵盤の上に乗ってくるネコもいるそうだ。
廊下を歩いて来るおばさんを待ち伏せして、スリッパや、ズボンの裾にちょっかいを出してみるが、これには時々ひどい目に会う。 出した爪が引っかかってしまうのだ。
スリッパの方は、オバアさんが脱いで逃げていくから簡単だが、ニットのものが厄介だ。無理に引っ張って布が破れたり、爪が抜けてしまうのも困るので、 オバアさんが爪の引っかかった服を脱いでしまうこともある。
餌は、何年も同じものを食べさせられている。
"猫は食べ残しは絶対食べないから、もったいないけど捨てちゃうの“
と、誰かがぼやいているのを聞いたことがあるが、オバアさんは勿体ないことはしたくないらしい。
僕が食べる間、オバアさんはじっと傍に居てくれる。"もういらない“と顔を上げてアピールすると
"まだあるでしょ。ちゃんと食べなさい“
と言って、器に残しておいた汁をかけたり、マタタビの粉を振りかけたりするから、大抵僕の負け。満腹だから残すのではなくて、別のものをねだっている魂胆を読まれているのだから。
子供が、外国人の家にホームステイして覚える言葉の数なんて、いくらでもないから、僕だって、そのくらいの日常語は殆どわかると自負している。
お互い思いやりの心も生まれて、オバアさんが忙しそうにしている時は、 僕も我慢するし、僕が不満で長い尻尾をバタンバタンさせていると、融通を利かせてくれる。
何故、僕を置いて時々消えちゃうのかわからないけれど、ボスが帰ってくるまで、元気でオバアさんと仲良く暮らしていよう。
本の栞にじゃれるちび太
https://youtu.be/QRAdV5F0-D0?si=1ccsdKRmmhFrEcAI
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