ここにいることの話を。
人間は死ぬと3割増の良い人になる。
人間は、というか世間がそうしている。
亡くなった人の評価を底上げしとこうということだと思う。
死んだ人のことを悪くいうのは止めておいて、
なんだったら良い話をしとこうということか。
父親は生前、自分の父親のことをよく話した。
「ろくでもない親父だった。」と。
東京で事業を起こしては失敗し、
千葉へ逃げる。
しばらくすると上京しては同じことを繰り返した。
新し物好きで、金遣いも荒かった。
女癖も悪かった。
鶏を潰しては調理し、
骨をしゃぶるように食べる様も気分が悪かった。
そんな親父が大嫌いだったと、
まだ子供だった僕にそう話した。
そのうち祖父は脳出血で倒れ、
寝たきりの状態になったらしい。
「死んだときはホッとしたな。こんなめでたいことはないと思い、兄弟親類で祝杯をあげたものだ」
そんなことも言った。
子供だった僕は漠然と
「酷いおじいちゃんだったんだな」と思った。
会ったこともない人だったので、
なんとなくそんな風に思って大人になった。
そんな祖父に一番似ていたと言われていた父親が亡くなり、数年が経った。
父親の弟、僕にとって叔父になる人と話をした。
「お前のお祖父さんにあたる人が、まあ、ろくなものでなくてな。亡くなる前には寝たきりみたいになって、最後の最後まで迷惑を掛けるとみんな話していたが、お前の父親はよく面倒みていたなあ。抱き抱えてトイレまで連れていったり、体を拭いてやってたなあ。口では迷惑だといつも言っていたけど、何かと面倒みていたのはお前の父親だったなあ。」
人間は死ぬと3割増の良い人になります。
人間はというか、世間がそうしているんだと思います。
亡くなった人の綺麗な思い出を語りましょうということだと思うんです。
死んだ人のことを悪くいうのは止めましょう、
出来ることなら良い話をしましょうということだと思うんです。
それで父親も祖父も3割増の良い人になりました。
父親が面倒みようと思うくらいの、良い祖父だったのかなと思うことにしました。
父親に関しては認知症発症して間もないころに
「子供たちが良い子に育ってくれた。」
なんてケアマネージャーさんに話していたことを聞いていたので、ズルいなと思いながらも色々帳消しです。
たぶん僕が亡くなるときも3割増になるはずなので、
安心して自然体で生きていけるなと思うんです。
不安少なく死んでいけると思うんです。
なにしろみんなが褒めてくれるんですから。
少しだけ安心ってことですよ。
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