保育士の私が子どもたちに教えてもらったこと…(今回は保護者)

*名前は仮名です。

アダチさんという女性とは、仕事とは別のサークル活動で知り合いました。セミロングの髪の毛をきちっと一つに束ねた清潔感のある人。ユーモアを入れながらお話をするため、その時の話を私はよく覚えています。

アダチさんの子どもさんはASDと診断されている、当時5年生の男の子でした。幼児期は私の勤めている園に通っていたそうで、その話をすると『そういえば…』と、園に通っていた時のある出来事を話してくださいました。

担任との面談で、『子どもはお母さんを選んで生まれてくるそうですよ。この人がいいって。だからお母さん、自信を持って育てていきましょう。』と言ったそうです。想像ですが、担任としてはお母さんを励ますつもりで言ったのだと思います。でもアダチさんにはそう聞こえなかったと言います。
これまでの困ったことや頑張ってきたことなど、全てひっくるめてグルグルと思い出され、そして真っ白になり、『なんで私?なんで私?私じゃなくてもいいでしょ。』と半ばパニック…それから後のその先生の話が全く入ってこなかったそうです。

『でも、今ならわかるのよ』と、にっこり笑ってるアダチさん。『この間、近所のスーパーに買い物に行く間、少しお留守番できたの。帰ってきたらすごくいいにおいがして…なんだと思います?なんとベーコンを焼いていたの。その姿を見ていたら、わけもなく嬉しくなって…。あの時のことばを思い出しちゃった。やっぱり私はこの子に選ばれたんだなぁって。』

今はお父さんとゲームをしているとのこと。
『でも、そろそろ行かなきゃ。冷蔵庫が空っぽなの。今日こそ買い物に行かせて。』と楽しそうに帰って行きました。

保育士になったばかりの頃は、障がいを持つ子どもがいるなら仕事を辞め、療育に専念するのが当たり前と言われていました。お母さんと子どもが一緒に通う母子通園も可能だったのですが、時は流れ、社会の仕組みにも変化が出てきて、お母さんも働きやすい状況が保障されるようになりました。現在はフルタイムでなくてもパートで働くなど、専業主婦のお母さんの方が少ないように感じます。ニーズに応じた園の運営を再考する時期に来ているのかもしれません。

しかし、私は保護者の表向きのニーズに合わせた園の運営が本当に必要なのか、探っていくことがとても大切なのではないかと考えます。なぜお母さんたちは働きたいと思うのか…隠れた思いが《働きたい》という気持ちになっているかもしれないと思ったりもしています。

少し話が逸れてしまったので元に戻します。
アダチさんは、担任の励まし(のつもり)のことばを受け取るのに約5年かかりました。この事実を保育士として肝に銘じておくことは大切です。なぜなら、今、受け取りたい(聴かせてほしい)ことばは、子育てにおいて正解とわかっていても聴きたくない状況があるからです。
『可愛い子どもの姿を見ながらも悩んだりわからなくなってしまう日々。公園に行けば楽しそうな親子連れ。でも私は子どもがどこかに行かないように、誰かに砂をかけないように追いかけている…疲れを感じている時に『選ばれた』って…?そんなことば聞きたくない。』それはお母さんの素直な気持ちで、誰も否定できるものではありません。
今、伝わらなくても5年後・10年後にわかってくれるといい。そう思い、それでも伝える必要性があれば、覚悟を持って伝える…そんな保育士でありたいと思います。

今回は子どもではなく、保護者さんのお話から学んだことを書きました。
子育てにおいて、《お母さんの存在》は必要です。
《お母さん》とは、1番近くにいて、心の拠り所になる存在という役割。お父さんでもおばあちゃんでもおじいちゃんでもいい。大人との1対1が大切な発達段階では、最重要キーパーソンです。
社会全体が、子育ての重要性を真剣に考えて、未来を担う人(子ども)を大切に育てていく意識を持ってほしいと思いました。




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