自分

動物編
与作
太郎が亡くなってしばらくすると、父がまた子犬をどっからか貰ってきた。
子犬と言っても、手足が太くて明らかに巨大な犬になるのは誰が見ても明らかであった。
土佐犬とボクサーのミックス。

どっちがオスで、どっちがメスだったんだろうと思ったが、今はのらくろみたいな顔をしてるが、絶対強面になると確信していた。

父は前の太郎と違って、犬小屋を作る訳でもなく、ただ餌をあげて終わり。
名前も付けない。
剥き出しの車庫の横につないでるだけなので、雨が降るとモロに雨が当たるのか、夜中悲しそうな鳴き声が聞こえてきて、雨の当たらない奥の方につなぎ直したりした。

名前が付いたのは、だいぶ大人になって私の後の家内が家に遊びに来た時である。
「わー大っきい犬!名前は?」
「名前は無い、うちの犬」
「は?」
前世犬だった時もあるという彼女、それはあまりに可哀想だという事で、付いた名前が「与作」
むしろ可哀想な感じもしたが、名無しよりはいいのか。

与作はやはりかなり大きくなって、のっしのっしと歩く感じ。顔が土佐犬で身体がボクサー、一言で言うとシャープな土佐犬。
散歩中小さい子供を連れた親子とかに会うと、子供は与作を見た途端「怖い怖いー」て泣き出し、親が子を庇う様に歩くという、本人ただ歩いてるだけなのに、何とも可哀想な与作であった。

家内はよく与作に話しかけていた。
「名前しばらく付けてもらえず可哀想だったねー」、「お腹空いてない?」
そうやって話しかけてる家内の顔を、不思議そうな顔をして、頭を斜めにして、何を話してるんだろうみたいな感じで聞いている。

いつしか家族よりも、ちょこちょこ遊びにくる彼女と一番仲良くなって、彼女が家に来ると尻尾をブンブン振って、飛び跳ねて喜んでいる。

犬も人も同じ。
言葉や気持ちかけるのが、一番大事なんだなと思う自分であった。

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