なぜ「きっぷ」を買うのは難しいのか?~「物産展」と化したみどりの窓口跡を目にして~
先日、JR東日本がみどりの窓口削減の方針をいったん凍結すると発表した。
繁忙期の混雑っぷりが顕在化し、多くの利用者からは苦情が寄せられている。
この3年間で440→209という窓口の減らし方は、大胆だと思うが、これはなにもJR東日本に限ったことではない。筆者が住むJR西日本でも同じような施策がとられている。
そして、出札窓口の代替として、オペレータと通話しながらきっぷを買える機能のついた券売機が新設された駅が増えているのも、両JRの共通点だ。
このようなJRのきっぷにまつわる昨今の状況は、JR側での深刻な人手不足や新型コロナウイルスによる収益減少など、さまざまな背景がある。
ここでは論点を絞って、「そもそもJRのきっぷはユーザフレンドリーなのか」というクエスチョンを俎上にのせてみよう。
「きっぷは窓口だけでなく、券売機やネットでも購入可能だから、そちらでお買い求めください」というJRのメッセージをうけとったユーザは少なくないだろう。東海道新幹線を利用するとき、EXサービスを利用したことのある人は、最近ではずいぶんと増えた印象を受ける。それだけではなく、定期券購入でもスマホ1つで完結するような仕組みが構築されてきた。
しかし、依然として窓口には平日の日中であっても行列ができていることが少なくない。JRの乗客数が減少しているとはいえ、である。ここで、いったん話を別業界にうつしてみよう。
航空券を購入する際に、航空会社に電話をしたり、空港のカウンターにならぶというケースは、少なくとも私のまわりではほとんどみない。
これは航空だけに限った話ではない。レンタカーもホテルも、ネットを使った個人手配が以前より格段に簡単になった。にもかかわらず、なぜ鉄道ではそうならないのか。
これには、日本のJRの制度の複雑さを理解する必要があるだろう。
そもそもJRで事前に料金や運賃を確認して乗車する場面は依然と比べて少なくなったのではないだろうか。SuicaやICOCAなどの交通系ICカードを利用して乗車できない場面で、JRの制度の複雑さが牙をむく。
いや、EXサービスを使いこなしている人であれば、そこは念頭になくてもよい。乗りたい列車を予約して、ICカードと紐づけることさえできれば、あとは複雑な制度を理解せずとも、自動的に引き落としがなされるからだ。
問題はえきねっとやe5489、あるいは駅で自らで指定席券売機(JR西ではみどりの券売機)を使うときである。
たとえば、東京駅から大阪駅へ東海道新幹線で向かうとしよう。これを大阪に住むAさんがe5489で予約するとき、まず立ちはだかる障壁が「リストに東海道新幹線がない」ことだ。
Webアプリの操作に少し理解があるユーザなら、駅名を入力してその先の購入手続きをすすめることができよう。
しかし、その後も以下の点に注意を払ったり、理解をしていなくてはならない。
・「乗車券」と「特急券(料金券)」は違うものであること
・「東京都区内」「大阪市内」発着とはどういうものか
・乗車券は新幹線から在来線に乗り換えたあとも使えること
・きっぷの受け取りは、JR東日本管内ではできない駅がある
・「大阪市内」から先へ行くには、乗り越し精算などの区間変更が必要であること
これらを理解したうえで、購入の際にミスなく入力し、かつ発券したうえで、きっぷを紛失しないように持ち歩く必要がある。
これは一般的にはとても難易度が高いと思う。鉄道事業者での勤務をする人や鉄道オタクには理解しえないかもしれないが、これだけでも脱落していく人は多い。
ましてや駅の券売機やネット操作になれていないお年寄りなどのユーザには、その他の障壁もたちはだかるだろう。
1つだけ言えるとすれば、新幹線や特急などの追加料金が必要な高速列車のニーズは今後もかわらないだろうということだ。東京~大阪間を自家用車で行く人は多くない。鉄道はエコだし、都市間をスムーズに移動するのに最も適した手段のひとつだからだ。
JRは利用者が求めるものを見落としてはならないと思う。それは便利な予約システムや新型の券売機の導入、あるいはみどりの窓口を潰して北海道物産展を開く前に、ユーザにとって理解しやすい鉄道の制度や料金体系であって、まずはそこから見直してみるのはどうだろうか。(了)
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