下町
駅に降り立つと、人々は忙しそうに私の前を次々と通りすぎて行く。
着古された普段着はなぜか安心感を覚える。
何も隠そうせず、涙と歯がゆさとだるさが染み付いて、くたっとしている。
こういう生活感がにじみでている街が好き。
生活臭が人にも街にも空気にさえも充満している。人情がある、情愛がある、体臭がする。
人が地に足をつけて生活しているという実感がそこにはあった。
先日、銀座に行ってきた。
高級ブランドの店が建ち並び、お洒落な服を着た人達が闊歩していた。それも素敵だなと思った。
人も街も洗練され、最先端の造形美があちこちにちりばめられていて、うっとりする。
『美しい』にも種類がある。
飾られた美と、滲みでる美だ。
前者はあれこれ試行錯誤して、計算して生み出していくが、後者は勝手に出てきてしまう、という感じかな。
どっちが良い悪いとか、どちらかが優れている劣っているとかはない。
けれど私は銀座のブランド服を着ている人よりも、下町の汗が染み付いてしまっている普段着を着ている人に感動してしまう。
何か悲しいことや辛いことに直面している人間に美を見出だす。
もがいている美しさ。耐えている美しさ。
当人にとっては身が引き裂かれる思いをしているかもしれないが、そこから這い出ようとする姿、前を向こうとする眼差しにキラリと光る生命の輝きを見る。
人は生きているだけで美しいと思う。
このご時世いろんな事がありますが、自分だけの内に秘めた宝石を日々磨いていきましょう。
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