私と琵琶のこと――琵琶を習うまでの備忘録―― その3

 今回は地元の楽器屋さんで途方に暮れた話です。

 琵琶をもらったのはいいものの、教室を探すこともなく二年ほど経ちました。
 前回書きましたが、私は会社の寮住まいで住み込みの仕事をしており、寮ではもちろん楽器禁止。たまの休みは(本当に、休みの少ない会社でした)実家に帰って寮に帰れば終わってしまうような生活をしていました。
 そんななか、入社三年を目途に退職することが決まり、私はもそもそと動き始めました。

 そうだ、仕事を辞めたら半年ぐらい遊ぼう! それならしまいこんである琵琶を修理に出して、どこか教室を見つけて習いに行こう!

 そんなふうにワクワクしながらも、私は少しばかり不安を抱えていました。
 地元の和楽器店といえば、琴部のときに何度も名前を聞いた「琴光堂」さん。ただし、琴と三味線のお店。そう、琵琶のことは書いていないのです。
 けれども、琵琶だって和楽器なのだから対応してくれないことはないでしょう。 
 そんなふうに考えながら、メールで問い合わせてみました。
 今回依頼したかったのは、折れてしまっている糸巻の修理。できればそれ以外のメンテナンスもお願いしたかったところですが、専門店ではないので修理してくれれば御の字でした。
 結果から言えば、きっちり対応していただきました。
 糸巻は途中からぽっきり折れていたので、まったく同じものを作っていただき、絃も新しいものに変えていただきました。
 まあ、絃については琵琶のものがなかったそうで、三味線の絃が張られたわけですが……。
 
 楽器店に持ち込むついでに、店主さんに事の次第を説明しました。高校のとき指導してくださった先生のことはもちろんご存知だったのでスムーズに話せました。
 ついでのついでに、私はさらっと聞きます。
「ちなみにこのあたりに琵琶をやっている人はいますか?」
 暗に教室がないかという質問でしたが、店主さんは首をかしげつつ、
「昔は何人かいたけどね。最近は聞かないなあ。」
 とのこと。
 はは、そうですかー。と返すのが精いっぱいでした。

 そう、どうネットで調べてみても、長野県内に琵琶の教室が見当たらないのです。
 ここから私は、どこに行けば琵琶が弾けるのか、ネットの少ない情報からあてどなく探す日々を送ることになります。

 ここで少し、琵琶のお話をば。

 琵琶はその昔、大陸のほうからやって来た楽器です。正倉院に納められている見事な装飾の琵琶を見たことがある人もいるでしょう。そこから宮中の演奏をするために「楽琵琶」が発展しました。
 平安時代が終わる頃、「平家物語」を語るための「平家琵琶」が出てきたり。江戸時代には盲僧がお経(のようなもの)を語るための「盲僧琵琶」があったり。そんなふうに続いていった琵琶の文化は主に九州を中心に広まっていて、なかでも薩摩藩は閉塞的な藩内で琵琶を弾くことが推奨されていたのだとか。
 そして江戸時代末期以降、明治維新で活躍した薩摩藩士が東京へ上京してきます。これによって、琵琶は政治の中心にいる人々が嗜む楽器になったのです。

 現在弾かれている有名な琵琶には「筑前琵琶」と「薩摩琵琶」があります。
 「筑前琵琶」は明治頃に新しく成立したもの。撥は小ぶりで曲によって四絃四柱と五絃五柱の琵琶を使い分けるのだとか。女性の奏者が多いようです。詳しいことは検索してみてください。
 いっぽう「薩摩琵琶」は撥が大きく、流派によって四絃四柱と五絃五柱の琵琶を使い分けています。

 私の譲り受けた琵琶は、前回の写真にもあった通り「四絃四柱の薩摩琵琶」です。
 教室を調べている中で「流派によって琵琶の形が違う」ことを知った私は、四絃四柱の薩摩琵琶を扱う流派、つまり錦心流の教室を重点的に探すことにしました。

 まあ、言っても長野にはやっぱり琵琶の教室はないですし、近場だと名古屋かなと思っていたら薩摩琵琶ではあるけど鶴田流(五絃五柱の琵琶を使う流派)だったなー、と凹んでみたり。
 最終的に「もう東京に出たほうが早いんじゃないか?」と思うようになりました。
 地元から東京まではバスでも電車でも一本で行けます。時間も同じ三時間ぐらい。日帰りもがんばればいけるぐらいの距離です。

 教室を調べてみると、「全国一水会」というところを見つけました。
 本部が東京にあり、どうやらそこで教室も開いているようです。なによりホームページに「体験授業受け付けています」の文字が!
 こ、これは行くしかないのでは……?

 
 そんなことを調べている間に、会社を退職しました。
 思い通り次の仕事は特に決めずに辞めたので、東京に行く用事があったついでにさっそく体験授業を申し込みました。

 実際のところ、ネットで調べる以外にも知り合いに聞き込みをしたり(収穫ゼロ)していたので、だいたい一年ぐらいはうだうだと教室探しをしていました。
 こんなにも一から探すのが大変だとは思っていなかったです。
 なによりも情報の少なさ! 歴史的資料としての琵琶に関してはそれなりに出てきますが、現在どういう活動をしているのかは暗闇の中のことが多かったような。

 とにもかくにも、やっと琵琶が弾けるようになります!

 つづく

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